16日から旧盆を迎えた沖縄。あす18日は沖縄の旧暦行事でも最も重要な日のひとつと言える「ウークイ」ですね。先祖をお見送りする日で、今年も朝から市場には大量の食材を購入する女性たちの姿が多く見られました。男性の皆さん、旧盆の準備など女性に任せきりにしていませんか?いまだ変わらぬ旧盆の光景を、男女差・ジェンダーの視点からたどります。
(※過去記事を再構成しています)
昔から変わらない旧盆の光景も「男は酒を飲む役割」でいいの?
▽1950年代の「琉球ニュース」
「仏前に丹精して作った畑の作物や、生前故人が好物であったご馳走を供え、迎え火を焚いて祖先の霊を待ち受けます」
沖縄の仏壇行事「旧盆」。先祖の霊をお迎えして、家族や親せきが集まる和やかな光景は、昔も今も同じです。けれど、変わらないことがいいとは限らないようで…
▽旧盆の買い出しに来た女性客
「女の人は大変。仏壇に朝昼晩、ごはんを作ってあげないといけないから。何もしないで過ごしたい」
「男性はもう、なかなか(動かない)。手伝うよって言ってくれるけど、女性が前もって買い物して、準備して、仕込みして」
ーー(記者)旧盆のお手伝いはされているんですか?
▽付き添いの男性客
「そうですね、はい、何もできないけど。お客様の接待はちゃんとするから。それがメインの仕事になってるんで」
「一緒に酒を飲む役割です、男の人は」
女性の負担増す仏壇行事 どう解消すべき?
慎重に運び込まれているのは、沖縄の伝統的な仏壇です。こちらの家では、初盆にあわせ仏壇を購入しました。
▽照屋漆器店 7代目・照屋慎さん
「一番上の方がトートーメー。両端のほうにお花が入ります」
お供えの方法など一通り説明があったあと、仏具店の店主があるチラシを差し出しました。
▽照屋漆器店 7代目・照屋慎さん
「お盆とか旧正とか、そういったものに関して、女性だけじゃなくて男性のほうも積極的に動いてほしいということで」
仏壇の行事は「男女」で協力しよう、というお願いです。
▽チラシを受け取った男性
「基本、線香供えて手をあわせるくらいでしら。(男女協力は)言ってみれば、当たり前のことではあるんで、みんな誰しもに振りかかることではありますので、教えていただいてありがたいと思います」
男性に行事への参加をよびかけていたのは、1868年創業の照屋漆器店。
7代目の照屋慎さんは、去年からSDGsの「ジェンダー平等」を推進しようと、啓発活動に取り組んでいます。
男女の格差が仏壇行事の継承に影を落としていると感じたためです。
2年前に照屋漆器店が行った調査では、「沖縄の仏壇行事を残していくべきか」との問いには、半数を超える人が残すべきと回答したものの、男女別では、女性が男性より17ポイントも低い結果に。
女性の半数が仏壇行事への負担感を感じていました。
▽照屋漆器店 7代目・照屋慎さん
「女性の負担がかなり大きいということで、負担をどう解消していくか。それをやらないと次の世代につなげていけない」
なぜ仏壇行事で、男女の役割が固定化されているのでしょうか。その背景を知る手がかりが、1980年の位牌・トートーメーの継承問題です。
「また女か」「女性が継ぐと祟りが」トートーメーの継承問題
1980年3月に開催された「男女平等に向けて沖縄の習慣を見直そう。トートーメーは女でも継げる」と題されたシンポジウム。ここでは差別されてきた女性たちが思いの丈をぶつけていました。
▽中村文子さん(故人)
「“また女か”、この露骨な一言に産褥中の妻たちが、どれほど泣かされたことか。家を継ぐこと、位牌を受け継ぐことに男女の差別があろうはずはありません」
当時、位牌・トートーメーには、いくつかのタブーがあり、女性が継ぐと祟りがあると考えられていました。
▽宮里悦さん(故人)
「私たち女が継げば祟りがある。男が継げば、長男が継げば祟りがないってそりゃ、おかしい話でね。みな避けて通るけどね、避けて通られない」
「祟り」の思想については、沖縄の民間霊媒師(シャーマン)・ユタも登場し、白熱した議論が展開されます。
▽ユタの女性
「霊視というのは、全くテレビに映るみたいになるわけですよ。そして『私はこういう者だ』と出てくる。そして言う。『私は何代だ』と。あなたはね、こういう方に、何代の方に供養するのがあるから、気持ちが向けばね、供養してあげてくださいと。供養してくださいということであって、祟りがありますよっていう人はいないと思います」
トートーメーの継承問題に詳しい宮城晴美さんは「祟り思想」は、戦後の混乱の中で生じたものだと考えています。
▽継承問題に詳しい 宮城晴美さん
「社会的に非常に混乱する状況の中で、民法が新しくなって男女平等になって、そして財産も女の子に継がせないといけない。こういったどさくさの中で、祟り思想が出てきたということを思ってます。それまではどんなに資料を読んでいても、こうしなければ駄目っていうのがないんですよ」
男女平等の新しい民法が沖縄に施行された1957年は、沖縄戦で亡くなった人の13回忌の年でした。
▽宮城晴美さん
「自分の子どもやあるいはその親が、どこで亡くなったかわからないでそれを供養しようにもどうしていいかわからない。そういうどさくさの中で、新興宗教がどんどんでてきたんですね」
法的には男女平等となったあとも、女性たちは祟りの思想と、慣習に縛られ続けたのです。
▽宮城晴美さん
「これがあるから、子供たちが帰ってきて、あれ親戚が集まる場所ができる。それを自分がもてなす喜びってのがあるという。そういった人たちもいるわけですよね、そういったことを絶対否定しちゃいけないと思います。その家族の中で何がベターか、あるいはそのベストかっていう方法を考えていく」
今、ライフスタイルにあわせて、新しい仏壇行事の在り方を模索する女性も増えています。
「供養を放棄するわけではない」が仏壇じまいをする人も
▽永代供養の利用者
「主人はお墓に入りたいって言ってたんだけど、亡くなってから、うちひとりでできないから、こういうことはもう永代供養が一番いいと思って、それでもうお願いしたんですよ。孫もたくさんいますよ。長女ももう一切来ない。できないと思いますよ」
▽長男
「自分も自信ない」
永代供養をおこなう沖縄県メモリアル整備協会では、要望をうけて、10年ほど前から『仏壇じまい』をサポートしています。供養塔の内部には、仏壇じまいをした家の位牌が安置されていました。依頼者は60代から70代の女性が中心です。
▽仏壇じまいをした女性
「自分がいなくなった後も、そういうことを子どもたちに強制するのもかわいそうかなと思って。時代に沿っていいんじゃないかなって私は思ったので。もう相談しないで、私はやっちゃった。事後承諾ですね」
▽沖縄県メモリアル整備協会 東恩納寛寿さん
「自分たちが非常に難儀してきたので、それを引き継ぎたくないと。ただ、それで供養を放棄してるわけでは決してなくて、お墓行事にはきちっと来て、手を合わせる方は毎日いらっしゃいます」
仏壇行事のジェンダー問題は、女性だけの問題ではなく男性も「長男だから仏壇を継がないといけない」など負担もあります。
少子化やLGBTQなど、様々な家族のかたちが広がっていくなかで、それぞれの家族ごとの仏壇行事をどう未来につなぎ、継承していくのか、ウークイでご先祖様が帰る前に、我が家のスタイルを相談してみてはいかがでしょうか?
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