SDGs達成期限の2030年に向けた新たな価値観、生き方を語る今回の賢者はデザイナーの寺西俊輔氏。欧米のラグジュアリーブランドを称える風潮と一線を画し、日本の伝統産業を応援するブランド「MIZEN」を設立。デザインするのは、着物の反物から作る洋服だ。日本の伝統産業である着物にエルメスで培った技術を融合し、世界で勝負できる日本発信のファッションを提案する寺西氏に2030年に向けた新たな視点、生き方のヒントを聞く。

【前編・後編の後編】

お金を払ったその先を考える。すべての買い物に対する意識づけが大事

――続いてお話いただくテーマは何番でしょうか?

寺西俊輔:
12番の「つくる責任 つかう責任」です。

――実現に向けた提言をお願いします。

寺西俊輔:
「考える消費」です。

――寺西さん自身は、作った先に買った人がどんなふうにこれを着るんだろうということはいつも考えるんですか。

寺西俊輔:
本当に気に入ってくださって買っていただくっていうのがベストの形だと思うんです。いわゆる大量生産って言われるファッション業界での大きな問題になっているわけですけれども、本当に売れるかどうかわからないけれども作っているっていう現状があるわけです。

それは何のためかというと、大量生産をしないとコストが下がらないですとか、ある意味自分たちの都合に消費者に合わせてもらっているっていうところがあるので、そういったところを解決していかないといけないなっていうのはすごく思います。我々はできるだけオーダー、本当に欲しいから買っていただくことを前提に作るようにはしています。

――シーズンごとに新しいものが出てきて、関心のある人ほどそれを買い求めていく。地球全体を考えると、ものすごく偏った世界になっているのではないかと思いますが。

寺西俊輔:
そうですね。本当にこの問題って難しいところがありまして、やっぱり新しいものを作っていかないとその産業って成り立たないんですよね。なので、本当に環境問題を考えるのであれば、何も作らないというのが一番いいとは思うんです。

ただ、人間が生きていく上で豊かさっていうものが必要になってきますし、その豊かさを与えるものとして洋服だったり、人が何かを作るっていう行為があると思うので、自分の中での今の答えとしては、需要がちゃんとあって、それに等しい生産をする、供給をするっていうのがベストなのかなと思います。

――寺西さんのところにいらっしゃるお客様は自分が何が欲しくて、洋服をこれからどう着ていくかということをしっかり考えることが、とても大事なことかもしれませんね。

寺西俊輔:
そうですね。安いものではないので、やはりお客様もどういったシチュエーションで何のためにそれを買うのか、何のためにどこで着たいのかっていうのも、かなり明確に思われている方が多くて、それは本当にいい買い物の仕方なんじゃないのかなと思うんです。

同じお金を払うんだったら、そのお金が生きたお金になってほしい。ただそのときにこれが欲しいから買って後は知らないではなくて、お金って結局循環しないと経済って回らないので、その払った先にどこにいくのかっていうことまで結構考えられている方がいらっしゃいますね。

誰が作っているのかっていうのを全部明示しているのも、実はそういった狙いがありまして、これを買えば、この職人さんにお金が流れる、応援できるっていう意図、意識を購入の中で持っていただきたいんです。

自然にそういうふうな買い物をみんながするようになれば、物を作るっていう人たちも、自分たちがどういう作り方をしているのか、どういうものを作っているのかっていうことにもっと責任感が生まれてくると思いますし、逆に買う側もどれを選ぶのかっていう責任が生まれてくると思うんです。そういった世の中って本当に僕はいいなと思っていて、それこそが僕はSDGsなんじゃないのかなって思っています。

これは別に洋服だけではなくて、もう全ての買い物に対して思えるような意識づけっていうのは、これからすごく大事になってくるんじゃないのかなと思います。

エルメスは利益を職人に還元。「心の余裕がSDGsにつながる」

――寺西さんはファッション界の最高峰のエルメスにいらっしゃったわけですが、エルメスという会社はお客様とどう向き合うかとか、お客様にこうあってほしいとか、そういったことを会社の中にきちんと持っている組織なんですか。

寺西俊輔:
僕も販売というかそちらの方で働いていたわけじゃないので、細かいことはわからないんですけれども、エルメスの商品の循環って本当に素晴らしいなと思っていて、あれだけ高いものでも、その価値をちゃんとわかった上で買う人がちゃんといて、そのお金ってどこに流れているかっていうとちゃんと職人に流れているっていうことをエルメス自身もちゃんと公に出しているんです。

僕がヨーロッパですごく感じたのが、職人さん、手仕事をする人たちの地位が低い中で、どうしてもデザイナーさんが目立ってしまうっていう環境というか文化といいますか、その歴史の中でエルメスは特に職人さんにフォーカスをすごく当てているんですよ、手仕事に。

そこがヨーロッパにおいてちょっと異質な存在じゃないのかなって僕は思っているんです。ただ単にお金持ちに売って儲けているだけじゃなくて、ちゃんと物作りっていうものに対して投資をしているんですよっていう姿勢が僕はすごく素晴らしいし、だからこそエルメスだと思っているんです。

我々といいますか、他の企業も同じような姿勢をもっと一般になるようにできれば、作る人ももっと幸せになるだろうし、作る人がもっと輝けるそういう世の中が来るんじゃないのかなって思っています。

――買う人が物を作った人たちの努力や歴史や技術に払っているということを明確に気づかなきゃいけないということですね。

寺西俊輔:
なかなか100%それをするっていうのは難しいかもしれないんですけれども、やっぱり損得勘定だけで物を選ぶっていうのは、みんながそうなっちゃうと、正直者が馬鹿を見るではないですけれども、安けりゃいいのかっていう話になりますし、素晴らしい仕事に対して、それに見合う対価っていうものを支払うっていう意識を持っていかないといけないと思うんです。

――服には何かが刷り込まれていくのかなという気がします。

寺西俊輔:
洋服ってまさに多様性ですよね。いろんな選択肢の中から、それでもMIZENがいいっていう方を増やしていくのが我々の目的ですし、選択肢がいろいろあるっていうことが僕は大事なのかなと思います。

――若い世代がお店に入るのは勇気がいるけど、サイトで調べることはできるし、もしかしたらファッションは着るだけじゃないのかなっていう気もします。

寺西俊輔:
買っていただくだけがゴールではなくて、例えば若い方にここに来ていただいて、日本の技術に対して関心を持って帰ってもらう。その中で例えばファッションの学生だったら、こんな良い素材があるんだったら、日本の素材を扱うっていうことも選択肢の中に入れてみようかなって思うだけで、実はMIZENの目標の一つはクリアしているんです。

呉服屋さんに若い人たちがなかなか行きにくいので、こういうところに来ていただいて、本当にちゃんと一つ一つの技術について説明をするんですね。そうするとやっぱり皆さん関心をすごく持ってくださるんです。僕が着物に出会った頃と同じように。将来そのうちの何人かがまたアクションをとってくれるだろうし、そういうこともMIZENの大事な活動の一つだと思っています。

――今日学んだのは、目の前にあるものの元の元の元まで見ようとしていくということ。そこまで想像していく豊かさとか、落ち着きとか、楽しさがSDGsなんだということでした。改めて寺西さんがお考えになるSDGsとは?

寺西俊輔:
今まさにおっしゃっていただいたことなんですけれども、自分だけを考えるのではなくて、物だったり環境だったり、自分の外のことに対してもどれだけ意識を持てるかっていう心の余裕が一番SDGsに繋がることだと思います。我々もそういった物作りをしないといけないですし。僕も会社を出れば一消費者なので、そういった視点でものを選ぶように努めていかないといけないなと改めて思っております。

(BS-TBS「Style2030賢者が映す未来」2024年7月21日放送より)

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