※この記事には性被害に関する記述がありますので、読まれる際はご注意ください

「これまでに7回くらい性交渉をした。恋愛感情はなかった」

実の娘に対して性行為を繰り返したとして、不同意性交の罪に問われた父親の裁判。
被害者となった娘が妊娠していることに気付いたのは、一緒に入浴していた母親で、その相手を知ったときの心境について「目の前が真っ暗になった」と証言した。
そして犯行理由について問われた父親は「被害者からの『アプローチ』を受け、してはいけないと思いつつ『アプローチ』されて、自分の性欲と、徐々に罪悪感が薄れ、回数を重ねていってしまった」と証言した。

裁判の中で認定された事実、そこから見えてくる「家庭内」という閉鎖された環境で行われる行為の根深さ。専門家の意見などを交えながら、再発防止についても考える。

(前編・中編・後編のうち中編)

「あなたはそれ、どうやって責任取るの?」

「これから10年、20年が経ち、成長した被害者(娘)が、その時に振り返ったら、父親と性交渉をして妊娠したという、性被害に気付く訳でしょう」
「それは消えない記憶となる訳でしょう。結婚や妊娠を考えた時に、足かせになるかもしれない。あなたはそれ、どうやって責任を取るの?」

問い掛けはあくまで冷静な口調で行われたものの、どこか語勢を強めたようにも感じられた。
被告の父親が応じる。

「被害者の、そういった精神的、肉体的苦痛に、一生、親として、思い返せないようにしたい。寄り添って、親として、精一杯してあげたい」

「成長に伴って、被害の内容を理解することになる」

質問に続いて行われた論告求刑。

検察官は、未熟で思慮分別が不十分な被害者(娘)につけこんだ犯行は極めて悪質と非難。
家庭内という閉鎖的な環境内で、避妊具を付けず性交渉した結果、当時13歳だった実の娘を妊娠させ、さらに妊娠中期に中絶させたことは身体に大きな負担を強いるものだったと指摘。

「今後、成長に伴って、被害の内容を理解していくことになる」

精神的な被害の大きさについても言及。
その上で、妻と元妻が寛大な処分を望んでいることを踏まえても、なお犯行は身勝手で酌量の余地は無く、強い非難に値すると述べ、刑事責任は極めて重く、猛省させる必要があるとして、懲役8年を求刑した。

一方の弁護側。
本人が反省の態度を示していることや、妻が監督を約束していることを挙げた。

また、今回の事件は、2023年7月に行われた刑法改正前であれば、県青少年保護条例の対象であったとして、量刑判断については「公平性に留意して欲しい」と主張。
執行猶予付きの判決も含む、寛大な判決を望んだ。

改正された刑法 契機には相次いだ無罪判決

これまでの「強制性交等罪」と「準強制性交等罪」が統合され「不同意性交等罪」が新設された改正では、性的な行為を判断できるとみなす「性交同意年齢」が、13歳から16歳まで引き上げられた。
そして、処罰の範囲が広がった。

法改正の大きな契機となったのは、2019年に相次いだ4件の無罪判決だ。

このうち名古屋地裁支部で行われたのは、未成年の娘に対して性的被害を与え続けていた父親に対する裁判だった。
14歳の頃から長年にわたり繰り返された性行為について裁判所は「抵抗不能だったとはいえない」と判断、無罪判決を言い渡した。

強制性交罪の処罰要件によれば「全力で抵抗し拒否」をしていなければ、性行為には「同意があった」とされてしまう。全国の性被害者から上がった、法の限界を指摘する声を一定程度反映する形で、不同意性交罪は成立した。

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