性的少数者(LGBTQ)への理解増進法が昨年6月に施行されて以降、一部自治体に施策への批判や問い合わせが相次いでいる。長時間の電話に対応した職員が萎縮したり、取り組みが停滞したりすることへの懸念の声も上がり、当事者団体の全国組織「LGBT法連合会」(東京)は3月末、自治体向けの対応の手引を作成した。法が目指す性の多様性が尊重される社会づくりは道半ばだ。(奥野斐)

 LGBT理解増進法 正式名称は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」。国や自治体などにLGBTQへの理解を広げるための取り組みを求め、性の多様なあり方を互いに受け入れられる共生社会の実現を目指す。国や自治体の役割、企業や学校の努力などを定めており、政府には理解増進のための基本計画策定、年1回の施策の実施状況の公表を義務付けている。2023年6月23日に施行された。

東京・多摩地域にある市の相談窓口で対応する職員

◆「女性トイレに男性が…」デマをうのみに

 平日夕、東京・多摩地域のある市の相談窓口の電話が鳴った。ディスプレーには「非通知」の文字。職員が受話器を取ると、男性らしき声で「ジェンダーのことで聞きたいことがあるんだけど…」と始まった。  理解増進法案が国会に提出された昨年5月ごろ、法律ができると「男性が女性と偽って女性用トイレや女湯に入ってくる」などのデマが交流サイト(SNS)を中心に広がった。この相談者も、デマを前提に「女性トイレに男性が来たら怖い」「なぜLGBTQばかり支援するんだ」などと非難した。  相談窓口では、1時間以上話す人もいる。職員は「LGBTQの取り組みはクレームが来るならやめようか、と思ってしまう職員も出てくるのでは」と心配する。

東京・多摩地域にある市の相談窓口で対応する職員

◆対応できる職員数は不十分

 手引では「理解増進法はトイレなど男女別施設の利用ルールを変更するものではない」とし、法律の趣旨の説明や偏見をなくすよう対応を求めている。施策の必要性については「さまざまな統計調査で性的少数者が困難を抱え、施策が求められていることが明らか」と背景を説明した。  理解増進法は、自治体や学校、事業主に取り組みの努力義務を課している。この市では、法施行前から当事者の居場所確保や講演会などをしてきたが、最近は市民調査の自由記述でも、それまでなかった否定的な反応や「性的異常者」との差別的な言葉が見られるようになった。  担当の管理職は「法施行後、市民からの意見は増えた。LGBTQ施策はまだ自治体内の蓄積が少なく、対応できる部署や職員が多くないのも課題」と説明。他の自治体との情報交換や連携も乏しく「今から取り組もうという職員が尻込みしないよう、手引は施策を進めるよりどころになる」と期待する。  LGBT法連合会の西山朗事務局長代理は「クレームや差別的な言動があった時に、それに惑わされず、データや経験を示すことが重要。手引を活用してほしい」と話した。

東京・多摩地域にある市の相談窓口で対応する職員

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◆手引には対応のQ&Aを掲載

 LGBT法連合会が発行した88ページの手引は、弁護士や研究者、当事者らが作成に携わった。連合会にも自治体の担当者から「LGBTQのことを学校で教えるな」「法律の慎重な運用を求める」などの電話や議会での質問に困ったとの相談があるという。  手引には、実態を示すデータや対応のQ&Aを重点的に掲載し、法律の解説、省庁や自治体の取り組み、国際的な動向や裁判例も網羅した。  自治体にはデータ版を無料提供(要申し込み)。冊子版1500円(送料・税別)、データ版500円(税別)。詳細はLGBT法連合会のウェブサイトへ。 

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