三重県伊勢市、伊勢神宮内宮前にあるおはらい町。その大通りの一角にあるのが、100年以上続く人気食堂「ゑびや」です。店内は松阪牛のすき焼き、イセエビの焼き物などを楽しむ客でにぎわっていますが、老舗の雰囲気はありません。それどころか、タブレットからの注文や無人レジでの自動会計など、DX(デジタル・トランスフォーメーション)が取り入れられています。しかし、以前は古びた昔ながらのお店だったそう。この変貌の立役者を取材しました。

最先端のシステムを使いこなす!老舗と思えないハイテクな食堂

最新のシステムは、注文や会計だけにとどまらず、セルフサービスのお茶やだしを入れる場所にも仕掛けがありました。通常は給茶機の量を確認して補充しますが、こちらでは、容器の下に重さを量るマットを設置。中身が少なくなると調理場にあるモニターが補充の合図を出すという仕組みになっています。

(ゑびや 小田島春樹社長)
「客から『なくなった』と言われて補充するのではなく、なくなるタイミングを常に把握しながら、いち早く補充することができる仕組み」

100年の歴史を持つ「ゑびや」。今でこそ最先端の食堂ですが、ほんの10年前までは古びた昔ながらの雰囲気でした。当時の台帳は手書きで、メニューも牛丼やカツカレーなど特徴のないものばかり。これをガラッと変えたのが、小田島春樹社長です。

(ゑびや 小田島春樹社長)
「(ゑびやは)妻の実家が運営していた定食兼うどん店。事業転換するという話があって、手伝う形で入社した」

客単価が3倍以上!DX化を徹底して客のニーズに応える

当時、店は何とか食べていける程度の売上で、飲食を縮小し、テナント業を始める計画でした。小田島さんは2012年に「ソフトバンク」を退社し、「ゑびや」に入社。しかし、テナント計画は早々に頓挫しました。

(ゑびや 小田島春樹社長)
「横の店の行列が入り口をふさいでしまって、店を開けても人が入れないような状況だった。店の外を歩いている人数を見たら、ちょっとやり方を変えたら、まだ伸びるんじゃないかと思った。釣り方が悪いから魚が釣れないだけであって、釣り方を変えたら伸びると思って、わくわく感の方が強かった」

まずは手書きの台帳を廃止し、エクセルによる管理を導入しました。さらに食事を終えた客にヒアリング。自分たちが提供しているものと、客が求めているものに差があることに気付いたといいます。おはらい町を訪れる客の8割は観光客で、多少高くても、ここでしか食べられないものを求めていたのです。

(大阪から来た客)
「海鮮丼(を食べた)。どれもすごくネタがやわらかくておいしかった」

メニューをガラリと変え、客単価も850円から3倍以上の2850円に!おはらい町の人気店となりました。

的中率95%!来客予測システムで仕入れロスを大幅カット

さらに小田島さんが考案したのは、ある画期的なシステム。調理場にある大きなモニターには、その日何人お客さんが来て、どのメニューがどのくらい注文されるかという予測が表示されています。

(ゑびや 小田島春樹社長)
「現場で働く人たちが、きょう何人客が来るのか、どの料理がいくつ出るのか、(予測を)すぐ見ることができる」

これまで勘に頼っていた来客予測を、過去のデータと、その日の天気などから割り出すシステムを作ったのです。

(ゑびや 小田島春樹社長)
「朝から雨が降るパターンと連日降り続けるパターンで、だいぶ客足が変わってくる。晴れたら行こうというのが、ここ(伊勢)に来る人のパターンだと思うので、天候は大きな要素」

その日の予測客数や販売予測、前日のアンケートの内容は、朝会でスタッフ全員に伝えられ、調理場のモニターにも常に表示されています。

(従業員)
「システムが入ってからは、数字に沿って仕込みや準備をしているのでロスが減った。特に白米を予測するのが大変だったが、廃棄量が減った」

来店客予測の的中率は、約95%。この予測をもとにした仕込みや仕入れでも、無駄な経費を大幅に減らせるようになりました。

全国の飲食店にも売り込み中!次世代の飲食店の形をDXで先取り

現在、この予測システムを全国の飲食店に売り込む新規事業も始め、既に300社に導入されています。

(システムを導入した愛媛県のマルブン 眞鍋一成社長)
「(愛媛で)イタリアン、洋食、海鮮丼の店をやっている。『ゑびや』を見て『こんなやり方があるんだ』『この時間3人しか客が来ないから、30分出勤を遅らせても大丈夫』と。以前よりマイナス2人くらいで営業できるように変わった。次の時代の飲食店の形、マネジメントだと思っている」

「ゑびや」の売上は、昨年8億5000万円で、小田島さんが入った時と比較して、約8倍になりました。さらに、経費を除く利益は10倍になっています。

(ゑびや 小田島春樹社長)
「中小企業だから(新しいことを)できないというのは真逆で、大企業の方ができない、絶対に。ここは時代の転換点だと思っていて、新しい情報を吸収しようという心があれば、中小企業の経営者の方が有利だと思う」

「100年の歴史」と「最先端のDX」で勝負する老舗食堂。お伊勢さんのおはらい町をこれからも支えていきます。

CBCテレビ「チャント!」4月2日放送より

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