惹かれあって結ばれた三重県出身・松浦慶太さん(39)。長崎県出身・藤山裕太郎さん(39)。この一組の同性カップルが、《住民票の続柄》表記をきっかけに注目を集めている。LGBTQ自認者に対する差別と、自身の中の葛藤に苦しみながら生きてきた2人の人生からこの問題を見つめるシリーズ3回目。

藤山さんが家族にカミングアウトしたその3か月後の去年11月、藤山さんの父親が亡くなった。末期ガンで余命宣告されていた。

永遠の別れを前に、意を決して打ち明けた息子を父は受け入れ、パートナーの松浦さんの手を握り「ありがとう」と感謝を伝えた。2人の心と生き方を認めてくれた家族がいる長崎県で生きていきたい。

2024年3月末、2人は藤山さんの地元である長崎県への移住を決めた。松浦さんにとっては九州自体が縁もゆかりもない土地。長崎県のどこに住むか?県内の自治体で、同性カップルの関係を公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」を導入しているのは長崎市と大村市のみだった。

はじめは制度を導入していない市への移住を検討していた。その自治体で、「移住」と「パートナーシップ宣誓制度」の導入を相談したところ、「田舎ですからねえ」「住民の理解を得られていないから」ー相手にされず、冷たくあしらわれた。2人は制度のある大村市への移住を決めた。

不審がられた生活 刺すような視線

それまで住んでいた兵庫県尼崎市では、周囲に同性カップルであることを伝えることができなかった。不審がられていることを感じ、刺すような視線を避けるように暮らしていた。

2人は大村市に引っ越してすぐ、アパートの住民全員に挨拶に行った。意を決して、LGBTQの当事者だということもその時に伝えた。

2人の心配とは裏腹に、挨拶した住民は全員が「普通」の反応だった。そして朝、夕、すれ違う時にも「普通」に挨拶し話をしてくれた。何気ない世間話や挨拶が、2人を認め励まし毎日が輝いていく様だった。

「予想外でした、こんな素敵な暮らしができるなんて」
隣町に住む藤山さんの家族とも、毎週のようにキャンプやイベントに出かけたり、甥の自転車の練習につきあったり。子どもが5人いる藤山さんの弟は「助かる」と喜んでくれるし、2人も次世代への貢献に携われて心から嬉しいという。

「大村に引っ越してから、良いことがいっぱい起きて。これまでどうしても苦労する経験も多かったんですけど、そんな苦労が報われたな、というか」

松浦さんは大村市の職員の勧めもあり、「大村市地域おこし協力隊」に就任し仕事も得た。ここで誰かの、何かの力になりながら生きていくんだ。

2人の願い「夫(未届)」の持つ意義

住まいを整え、将来のマネープランも考えていく中で、今年5月雇用保険上の移転費をパートナーの藤山さんも受給できないかハローワークに相談に行った。回答は「生計を同一にしている親族であれば受給できる」

「生計を同一にしている親族」には異性の事実婚カップルも含まれる。
事実婚カップルの住民票には、世帯主との関係を示す続柄欄に「夫(未届)」または「妻(未届)」と表記される。一方、同性カップルは一般的に「世帯主」との続柄欄に「同居人」や「縁故者」と記される。

住民票の続柄を事実婚カップルと同じにしてもらうことはできないか?それまで2人は同じ住所に別々の世帯で住民票を申請し、それぞれ「世帯主」と登録していた。

大村市の窓口に世帯をひとつにする手続きを申請し、松浦さんを「世帯主」藤山さんを「夫(未届)」と表記するよう希望した。

大村市はその場で職員が協議し2人が「パートナーシップ宣誓制度」を利用している事、「記載の仕方は自治体の判断に委ねられる」ことを踏まえ、2人の希望に沿った住民票を発行した。結果、全国的にも例がない同性カップルに対する「夫(未届)」の住民票が交付されることになった。

「夫と書いてもらった書類は今まで一つもなかった。認めてくれるところがあるんだ。本当に嬉しい」

驚きと安心で肩の力が抜けた。住民票を受け取ると涙が流れた。それまでどんなに緊張していたかを初めて自覚した瞬間でもあった。

気持ち悪い…寄せられる批判の声

この動きはメディアに大きく取り上げられた。
「LGBTQを認めないことも多様性」
「自分は受け入れられない」
「きもちわるい」「むりー!」

批判の声も浴び続けている。でもその一方で、栃木県鹿沼市など大村市の対応に続く自治体も出てきた。

「LGBTQ当事者の中にはもっと辛い思いをしている人がいる」
取材からも逃げないと決めた2人。

住民票の交付から2か月後、総務大臣は同性カップルの「夫(未届)」表記に対し、「実務上の課題が生じる恐れがある」との見解を大村市に伝えてきた。(4回目へ)

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