給食が食べられず、学校生活全体が重苦しい日々となっていった子どもたち…。教師が何気なくかけた励ましの言葉が重圧となっていき、やがて会食恐怖症になってしまうといいます。残さず食べさせる “完食指導” がもたらす深刻な悩みとはどんなものだったのでしょうか。こうたろうくんは、給食が食べられない悩みから、誰かと一緒に食事をすることに強い不安や緊張を感じるようになっていきました。

富山市の中学校に通う、こうたろうくん13歳。
小学校1年生の途中から給食の時間が怖いと感じるようになりました。

こうたろうくん:「給食が始まる10分ほど前から、体が落ち着かなくなるんです。ドキドキもするし、食べたいと思わなくなって、のどを通らなくなるんです」

きっかけは「給食を残さない」という先生の指導でした。

こうたろうくん:「残したらダメみたいな感じの先生でした。ある時、友達が頑張って食べなさいって言われていて、掃除の時間になっても後ろで食べているのを見て、怖くなったんです。それから給食の時間になると気が重くなるというか…」

そんな重苦しい学校生活が続き、2年生になったこうたろうくんは、給食が始まる前に帰宅するようになりました。

母親の里奈さんは、当時の様子を次のように語ります。

母親 里奈さん:「学校に行きたくないと本人が私に言ってきて、理由の一つが、給食が食べられない、食べにくいということでした。給食当番の友達によそってもらった量が予想以上に多くて、先生に食べられないとか、残してもいいですかと言っていたそうです。先生が悪気なく、もうちょっと頑張ろうとか声をかけるんですが、それが本人にはプレッシャーになってしまったんだろうなと思います」

きっかけは「ペロッとしてみたら」魔法の声かけ…

子どもたちを励まそうと思ってかけた何気ない先生の言葉が、こうたろうくんにとっては重圧になっていたのだろうと里奈さんは推測します。

教育者向けに給食指導の資料を無料で提供している『きゅうけん|月刊給食指導研修資料の編集長を務める山口健太さんは、食べられない子どもに対しては 、声かけにも工夫 が必要だと指摘します。つまり “魔法の声かけ” があるというのです。

『きゅうけん|月刊給食指導研修資料』​編集長
山口健太さん:「食べる提案です。“一口食べてみたら?”みたいな感じでよく勧めることが多いと思いますが、その勧め方をもう少しハードルを低くしてあげる。苦手な食べものがあったときに、匂いをかぐだけだからやってみるかとか、ペロッとしてみたら?という声かけに変える。一口食べてみたら?だと、どうしても食べて口に入れて嫌だったら、出すという行動がなかなかできないじゃないですか。お行儀が悪いというふうに言われるかもしれない。一口食べる=もぐもぐして飲み込むというところまでやらないといけない。だけど匂いを嗅ぐだけとか、ちょっとペロッと舐めてみるぐらいだったら、咀嚼したり嚥下したりということをしなくても、自分の中で食べるかどうかっていうのを確認することができるので、一口食べてみたらというのを、ちょっとペロッとしてみたらっていう声掛けに変えるだけで、今までより食べるようになるっていう事例はありますね」

『きゅうけん|月刊給食指導研修資料』​編集長 山口健太さん

「会食恐怖症」で吐き気やめまいも…

今年4月から中学1年生になったこうたろうくんですが、今も、給食が食べられない日々は続いていて、給食の前に帰宅しています。

こうたろうくんは、給食が食べられなくなったことをきっかけに症状が深刻化。誰かと一緒に食事をすることに強い不安や緊張を感じるようになっていったといいます。

母親 里奈さん:「次第に外食もしにくくなってきました。家族で出かけてご飯を食べるっていう、ほかのお家だったら楽しいことが揉めるというか、なんかうまく進んでいかなくて、なんかどうしたらいいのかなって悩みましたね」

いわゆる「会食恐怖症」です。

「会食恐怖症」は精神疾患の一つと位置付けられ、人と食事をすると強い不安や恐怖感を覚え、吐き気やめまいを感じる人もいるといいます。

友達とご飯が食べられない…

山口さんが代表理事を務める日本会食恐怖症支援協会が行った調査によりますと「会食恐怖症」のきっかけで最も多かったのは、給食を残さず食べるよう求める「完食指導」や「食事の強要」で35パ-セント近くを占めました。

『きゅうけん|月刊給食指導研修資料』​編集長
山口健太さん:「こうたろうくんの場合も完食指導がきっかけですね。最近ようやくわかってきましたが、実にこうした子どもは意外と多いのです」

会食恐怖症に悩むこうたろうくん。友達と遊びに出かけても、ご飯はいっしょに食べないようにしているそうです。

こうたろうくん:「友達と遊んでいるときに、ご飯を食べようってなると、“俺は腹減ってないからいいわ”って伝えてます」「人と食べられるようになったら友達と会うのは少し楽しくなる気がするけど、今の自分にはそれはできない」

母親 里奈さん:「やっぱり中学生になって、これからやっぱりその働くとかそういうことを見据えたときに、やっぱり何かお付き合いとかで食べたり飲んだりっていうことが増えたときに何か本人がやっぱり大変なのかなって思うのと、そういうことをもしちゃんと言って、周りの方にどこまで理解してもらえるのかなっていうのは少し心配なところはありますね…」

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