◆7月1日にJAXAが打ち上げ予定
地球観測衛星「だいち4号」。アンテナなどを展開すると、高さ6.4メートル、幅20メートル、奥行き10メートルになる=5月24日、鹿児島県の種子島宇宙センターで(JAXA提供)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月1日、地球観測衛星「だいち4号」をH3ロケット3号機で打ち上げる。運用中の「だいち2号」の後継機。一度に観測できる範囲(観測幅)が4倍の200キロになり、能登半島や関東平野の全域が収まる。発生が想定される首都直下地震や南海トラフ地震など広域災害で迅速な被災状況の把握につながると期待される。(増井のぞみ)地球観測衛星「だいち」 1号機は光学カメラとレーダーを併せ持つ衛星で、2006年に打ち上げられ、11年3月の東日本大震災の津波の被害や地殻変動を捉え、同年5月に運用を終えた。レーダー衛星の2号は14年に打ち上げられ現在も運用中。光学カメラに特化した3号はH3ロケット1号機の打ち上げ失敗で失われた。レーダー衛星の4号は約320億円をかけて政府が開発した。
1月1日の能登半島地震を受け、だいち2号は同日の夜に緊急観測を実施。石川県輪島市で約3メートルの地殻変動を捉えた。南北方向に地球を周回しながら帯状の範囲を撮影するが、観測幅は50キロ。能登半島全域は観測できないため、半島中央部を対象に観測した。能登半島地震を受け、だいち2号が実施した緊急観測で1月1日夜に観測した範囲(網掛け部分)。半島の先端や西部は観測できなかった(JAXA提供の図を加工)
◆だいち4号なら能登半島全体の観測も1回で
半島先端部の狼煙(のろし)漁港は海底が約1.5メートル隆起していたが、観測エリアに入らず、状況が把握できなかった。結局、だいち2号が先端部を含む半島全域の観測を終えたのは1月8日だった。だいち4号は、1回の撮影範囲に能登半島全域だけでなく、周辺の富山県や新潟県の一部も収まる。 能登半島地震の地殻変動を分析した国土地理院宇宙測地課の石本正芳さん(51)は「だいち2号の観測データは、港湾や河川の管理に活用された。被災地の全域を1回で観測できれば、災害時の初動などにさらに役立つ」と話す。 だいち2号と4号は、電波を照射するレーダーを搭載する「レーダー衛星」。電波が地表から跳ね返ってくる時間を過去のデータと比べ、地表が衛星に近づいたか遠ざかったかを分析して地殻変動を検出する。地表を光学カメラで撮影する「光学衛星」と違い、夜間や悪天候でも観測できる。だいち2号(オレンジ色の範囲)とだいち4号(緑色の範囲)の観測できる広さの比較(宇宙航空研究開発機構提供)
観測幅が広がるため、同一地点の観測頻度は、これまでの年4回から20回になる。頻度が増えることで測定誤差を小さくすることができ、1年当たりの地殻変動をミリ単位の高精度で捉えられる。JAXAの有川善久プロジェクトマネージャ(46)は「小さな変化も見逃さない。活火山のマグマだまりが地下で膨らんできたかどうかなど、災害が起きる前に兆候をつかむ役割でも貢献できる」と期待をかける。◆光学衛星による観測は民間の力で
今後の観測では、民間の力の活用が課題となる。だいち4号が日本上空で観測するイメージ図(JAXA提供)
昨年3月、光学衛星の「だいち3号」が、H3ロケット1号機の打ち上げ失敗で失われた。レーダー衛星の観測画像はモノクロだが、光学衛星はカラーで情報量が多く、地表の状況を判別しやすい利点がある。 だいち3号の「喪失」を受け、政府は今後の光学衛星による地球観測事業のあり方を検討。今年3月、だいち3号の後継機はつくらず、民間主体の小型衛星網に担わせる方針を示した。 すでに民間の小型衛星は運用されており、東京大発のベンチャー企業「アクセルスペース」は能登半島地震の際、半島を撮影した画像を公開。政府機関や研究者など100以上の団体個人に活用された。 政府は今後、観測技術の民間への移転を支援する。光学衛星とレーダー衛星のいずれでも小型衛星網の開発を進め、2020年代後半までに観測網を実証する計画。有川さんは、観測頻度を増やすには「民間の小型衛星と連携することが必要」と今後を見据える。全長57メートルのH3ロケット3号機。最先端の白いフェアリングにだいち4号が搭載される=5月29日、鹿児島県の種子島宇宙センターで(JAXA提供)
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