図-1 気象に関する防災情報の体系・名称見直し案

「シンプルでわかりやすい」を目指して

「複雑」「わかりにくい」との声が多数聞かれる〈気象に関する防災情報〉について、気象庁の「防災気象情報に関する検討会」による、改善の方向性をまとめた報告書が2024年6月18日に公表された。

検討会は2022年1月から計8回、サブワーキンググループは計5回開催され、約2年半にわたって白熱した議論を続けてきた。座長を務めた京都大学防災研究所の矢守克也教授は「まだ改善の余地はあると思うが、現時点での最善案を取りまとめた」と述べ、控えめにではあるが内容に自信を覗かせた。

実際の運用を行うのは気象庁や国土交通省なので、報告書の内容がそのまま実現するとは限らない。しかし気象庁の森隆志長官は翌19日の記者会見で「(報告書から)外れた方向に持って行くことはあってはならない」と、報告書に沿って作業を進める考えを示した。

国は法改正が必要となる可能性も視野に、気象に関する防災情報の改善を2026年の出水期(梅雨期など大雨のシーズン)に間に合うように進める方針だ。

報告書を手にする矢守克也座長(右)と森隆志気象庁長官(2024年6月18日)

「人生で直面した一番難解なパズル」

報告書をまとめた「防災気象情報に関する検討会」は学識者や報道関係者等によって構成され、筆者も委員として計8回の会合すべてに参加した。

検討会の開催趣旨は、シンプルでわかりやすい〈気象に関する防災情報〉の再構築に向け、情報全体の体系整理や個々の情報の抜本的な見直し、受け手側の立場に立った情報への改善などの検討事項を中心に議論を行うこと。この趣旨に委員の誰もが異論はないはずだった。

ところが、検討会は回を重ねるにつれて議論百出、その場で結論が出ないことが当たり前のようになった。議論は報告書を取りまとめる最終段階に至っても収束する兆しを感じさせず、特に以下のテーマについて、委員たちの意見は最後まで大きな隔たりを見せた。

・情報名は日本語が先か、「警戒レベル」が先か。
・「危険警報」(新しい情報名)を採用するか、しないか。
・大雨浸水に関する情報の冠は「大雨」か、「大雨浸水」か。

国が設置した検討会をこれまでたびたび取材してきたが、事務局がお膳立てしたシナリオどおりに進み、結論を出すものが少なくなかった。だが、この検討会はまったく様相が異なっていた。

意見が一向にまとまる気配のない様子を見て、矢守座長は「人生で直面したパズルの中でも一番難解なパズル」と評し、事務局の気象庁職員は会合が終わる度に頭を抱えていた。

矢守座長は報告書を取りまとめる作業について

2年後に迎える歴史的転換点

おそらく2年後の2026年、気象庁や国土交通省等が発表する〈気象に関する防災情報〉は歴史的な転換点を迎えるのではないか。

決して大げさではなく、検討会の議論に参加してきた“当事者”として、そして、長く気象庁を担当してきた記者として、筆者はそう強く感じている。

報告書公表を取り上げた新聞記事やテレビのニュースなどを見ると、「『危険警報』新設」がわかりやすく見出しにもなりやすいので目立つが、ポイントはそれだけではない。

「複雑でわかりにくい」が、本当に「シンプルでわかりやすい」に変貌するのか。情報の受け手の立場に立った改善が実際に行われるのか。名称が変更されたり、無くなったりする情報はどれか。検討会では具体的にどれほど白熱した議論が行われたのか…

すべてを紹介することはできないが、筆者が重要と考える幾つかのポイントを、3回に分けてできるだけ詳しく記そうと思う。

図-2 気象に関する防災気象情報(2024年6月現在)

気象に関する防災情報は40種類以上

そもそも〈気象に関する防災情報〉は、現在どれくらいの種類や数が存在するのだろうか。

気象庁によれば、ゆうに40以上を数え(図-2参照)、あらためて書き出してみると「こんなにあるのか」と驚く。東京23区で生活している筆者は「なだれ注意報」や「融雪注意報」等を身近な情報として感じたことはなく、名前は知っていても馴染みのない情報が多い。

また、暴風警報や波浪警報のように「警戒レベル」に紐付いていない(レベル相当情報ではない)警報もあれば、「記録的短時間大雨情報」のように警報でも注意報でもレベル相当情報でもないのに、災害発生との結び付きが強い重要な情報もある。警報のない注意報も存在し、実に多種多様だ。

これらのうち、今回の報告書が改善の対象としたのは、おもに
・警戒レベル相当情報
・防災に関連の強いその他の情報
以上2つのカテゴリーの情報だ。

図-3 現行の情報体系と情報名称など(気象庁HPより)

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