特集は、深刻化する人口減少についてです。今月(6月)5日、国は昨年の合計特殊出生率・女性が生涯に産む子どもの数を公表しました。全国平均で1.20。岡山県は1.32、香川県は1.40です。いずれも過去最低となりました。
「消滅可能性自治体」から外れた岡山県美咲町 その要因は?
これに先立ち、今年4月には有識者グループ「人口戦略会議」が、2020年から2050年までの30年間で若い女性が50%以上減少するとされる「消滅可能性自治体」を発表しました。自治体の4割、岡山で10、香川で4つの自治体が該当しています。同様の調査は2014年にも行われていて、実はその総数は意外にも10年で152も減っているんです。
岡山では6市町村が「消滅可能性自治体」から外れました。美咲町の移住者への取材を通して、いったい何が要因となったかを探ります。
ウグイスの声が響くのは、日本の棚田百選にも選ばれた岡山県美咲町・大垪和西地区です。この棚田を望む築100年の古民家宿Otoです。美咲町の良さを広く知って貰いたいと愛知県生まれの高木一真さんが開業しました。
(高木一真さん(41))
「長い時間滞在してもらうほうが、よりこの地域の良さが味わえると思ったんです。一日滞在することで味わえる里山の良さをよく味わっていただける場所じゃないかと思って」
古民家を100万円で購入、補助金などを活用してリフォーム費用を工面し、2年かがりで改修しました。この日は、アメリカからの宿泊客が訪れていました。
「施設のご案内をしますね」
里山に溶け込む古民家の宿。五右衛門風呂もそのまま残しました。
(アメリカからの宿泊客)
「東京と違う体験。興味深いです」
高木さんは、かつて東京で大工をしていました。妻と出会い結婚。2人の子どもを授かり、美咲町に移住したのは12年前(2012年)です。
Q「ここに移住を決める時、どう思いましたか?」
(高木彩さん)
「正直、(老朽化が激しかったため)この家はって思ってたんですけど、けっこう主人がすごいやる気だったので、信じて(移住しました)」
自宅も一真さんが、棚田に面した古民家をリフォーム。そして移住から5年後、彩さんは独学でパン屋を開業します。いまでは天然酵母のパンと棚田の絶景を求めて多くのお客さんが訪れます。
(高木さん)
「あと、5分~10分で焼きあがるんですけど」
(客)
「クロックムッシュ(フランスのホットサンド)を4つください」
(倉敷からの客)
「自然豊かな、街では味わえない風景とか、ごちゃごちゃしてないところが大好きです」
(横浜からの客)
「のどかで風が通り抜けていく感じがすごくいいと思いました」
人々が力を合わせ、急峻な傾斜地に作り上げた日本の原風景・棚田です。東京とはまったく異なる地域で生きていく。決断を後押ししたのは子どもの存在でした。自然の中で子育てがしたいと全国約20か所を巡るなか、美咲町の先輩移住者から誘いを受けたといいます。
「18歳までの医療費無償化」など移住先として選ばれる努力をしてきた美咲町
人口約1万3000人。20年前から約4000人も減少するなかで近年、町は移住政策に力を入れてきました。
「自然と美味しい野菜や果物があるところが魅力的です」
さらに、全国でもいち早く18歳までの医療費無償化などを進め、子育て環境の充実に心を砕いてきました。次世代が住みやすい環境をつくる。その思いは町民の意識にも浸透していったようです。高木さんにわが家を紹介したのは近所に住む村上さん夫妻でした。
(村上さん)
「これ、いいものじゃないけど。炒りこうこう」
村上さんは、今も移住希望者に住居を紹介しているといいます。
(村上さん夫婦)
「もし、移住者の人が誰も来てない状態だったら、しぼんでいく寂しい集落だったろうと」
「してあげられることがいっぱいだから」
空き家バンクを活用した移住者はこの7年で54世帯130人に上ります。30代未満は6割です。移住者の中から町議会議員も誕生しました。
(村上さん夫婦)
「(高木さんの)娘さんは、浦安の舞っていうのを復活しようと計画したところ、快く参加してくれて、70年ぶりに復活できたんです」
高木さんはここで3人目の子宝に恵まれました。
(高木一真さん)
「ずっと残っていてくれたらいいなと思います。里山の文化・里山の景観を含めて残ってくれたらいいなと」
一方 人口は多いものの出生数が非常に低い「ブラックホール型」自治体とは…
(スタジオ)
ー人口戦略会議は、消滅可能性自治体とともに新たな自治体の分類を発表しました。それが、ブラックホール型自治体です。
東京の新宿区や渋谷区、京都市など、25の自治体がこれに当たり、人口は多いものの他地域からの流入に頼り、出生数は非常に低くなっています。まさに人を吸い込むブラックホールというわけです。
ー「合計特殊出生率」の全国平均は1.2と過去最低を記録しましたが、東京で0.99と1を割り込んだことは大きな衝撃でした。
ーこれらの分析を踏まえ戦略会議は、人の奪い合いに終始するのではなく、人口減少を自分事と考え地域全体で取り組む姿勢が重要だと指摘しています。美咲町は移住支援に加え子育て支援にも力を注いできました。
人口規模が小さいほど移住者が定着すれば持続可能なことを示しているとも言え、この10年でリストから外れた自治体を見てみると、過去に特集で紹介した和気町や、合計特殊出生率の高さから奇跡のまちと呼ばれた奈義町なども含まれています。
こうした自治体の取り組みには、どう地域を維持していくのか多くのヒントがあるといえそうです。
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