「自助・公助・共助」
これらは防災について語られることの多い言葉ですが、ともに助けあう「共助」については、昔からの地域のつながりだけでなく新しい地域の助けあいが課題になっています。地域で暮らす外国人を地元の人たちがコミュニティに迎え入れて、結びつきを強め、防災につなげようという取り組みが山口県防府市で始まっています。

地域で暮らす外国人の防災講座

「もどらない わすれものよりまずいのち」
「スーパーで じしんだ かごであたまをまもろう」

防災の心得がよまれた「防災かるた」。書いてあるのはひらがなとカタカナです。カルタをしているのは、社員寮で暮らして技能実習に取り組むベトナムの人たちです。防災や地域作りの支援をしている民間の団体が、自治会や市、それに実習生が所属する会社と協力して防災講座を開きました。

レベルフリー・坂本京子代表
「実習生のみなさんって日頃は仕事に追われて家と職場の往復だけだと思うので、地域の方とかかわることって少ないと思うんですよね。そんなときに災害が起こったら共助の輪の中に入れないというのがとても不安だと思うので」

災害時、非常用持ち出しの準備や備蓄といった自分のできることは自分でやる「自助」。避難所の設置や救助活動など、行政が行う「公助」のほか、逃げ遅れがないか地域で声を掛け合ったり避難を助けたりする「共助」が大切とされます。

目的は顔見知りになること

言葉の壁や文化、習慣の違い。外国人にとって地域の輪に入って行くことは容易ではないと言います。この取り組みでは防災の話以外にも、互いに顔見知りになることが大切な目的です。あやとりやお手玉など、昔ながらの遊びを一緒に楽しむという試みは、大成功でした。

4月の豊後水道を震源とする地震では、防府市で震度4が観測されました。ベトナムでは地震が少なく、地震を経験したことがないという技能実習生がほとんどでした。

実習生
「初めてだったので心配だった。机の下に入って身を守りました」

山口県内の外国人は増加傾向

山口県によりますと、県内に暮らす外国人はおととし末時点で1万7000人あまりです。2012年と比べておよそ3割増えていて、率にして1.3%、県民の75人に1人が外国人です。

県は防災の手引きを英語や韓国語、中国語のほかベトナムやフィリピンの人向けに多くの言語で読んでもらえるよう作成しています。学校など避難所となる場所には外国語での表記もありますが、すぐに行動するには周りの助けが必要です。

丸久 國分辰男顧問
「勉強会だけではなく、こういう交流を通してみなさんとも仲良くなれたんじゃないかなと思っています。日本語もカタコトで話せる子は結構いますので顔見知りになっておけばずずいぶん違うんじゃないかと」

日本人も外国人も「助け合い」の心で

畠自治会・福田英昭会長
「地域住民はもちろんだけれども、外国の人は知らないというわけにはいきませんからね、一緒に住んでいるわけですから」

「外国人は地域を支える一員として、根づいたものになっているのでは」と福田会長は考えています。

福田会長
「外国の人がたくさん来られて逆にほんと助けてもらわんにゃいけんかも。お互いにやっぱり助け合うのが日本人だろうが外国の方だろうが関係ないってことですよね」

宗教やアレルギーへの対応など課題も

外国人の防災は徐々に進んできていますが、解決すべき課題もあるといいます。

レベルフリー・坂本京子代表
「今回はベトナムの方でしたけれども、例えば宗教上お祈りをしなくてはいけないとか、ハラーム(イスラム教で禁じられている食材)で食べられないものがあるとか、そういう方たちが災害時は避難所で一緒に生活をすることになるので、そういった方にどう配慮していくかっていうのは大きな課題だと思います」

今回の講座では、非常食を実際につくって試食もしました。このほか、けんちん汁にベトナムの春巻きと互いの郷土料理を調理して互いにふるまいました。

インドネシアなどイスラム教の信者は、豚肉やアルコールは戒律で食べられません。もちろん、外国の人にもアレルギーのある人もいます。今回の取り組みは、いざというときに、遠慮なく話せる関係づくりだけでなく、互いをよく知るためのきっかけとなることも期待されています。

坂本代表
「いまは多様な方が地域で暮らしていらっしゃるので、そういう方々に思いやりの気持ちを持つということだと思うんですよ。自分が大丈夫だからほかの人も大丈夫じゃなくて、その人その人ひとりひとりをしっかりとみて、小さな声に寄り添っていくような、そういうまちづくりができれば災害時も安心なのかなと思います」

県内の外国人は、今後さらに増えることも見込まれています。命を守る防災を通じて、ことばや文化を越えた人と人との思いやりが求められています。

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