高齢化を背景に救急車の出動件数は、2022年に約723万件と過去最多に。一方、通報を受けてから現場に到着するまでの平均時間は10.3分と、初めて10分を超えました。1分1秒を争う出動にも関わらず、この20年で4分遅くなっています。緊急車両をとりまく現状と、これからを取材しました。

緊急車両と一般車両が衝突する事故も

2024年3月、名古屋市名東区で、人身事故の現場に急行するためにサイレンを鳴らしながら赤信号の交差点を進んでいくパトカーに、青信号で直進してきた車が突っ込みました。警察官にケガはありませんでしたが、車を運転していた女性は軽傷でした。

道路交通法では、緊急車両が接近してきた時、一般の車は道の端に寄るなどして道を譲らなければなりません。現場に急行する緊急車両の前を走る車は道をあけますが、うまく進めないケースも。

豊田市消防本部の協力による映像を見せてもらいました。救急車は、赤色灯をつけてサイレンを鳴らしながら、赤信号の交差点を進もうとします。しかし、前を横切る車が現れ…交差点を通過するのに10秒以上かかりました。

2023年6月には、北海道倶知安町で緊急走行中の救急車と乗用車が交差点で衝突し、横転する事故も発生。救急隊員にとって、交差点の走行は特に気を使うといいます。

(豊田市消防本部・安藤厚救急隊長)
「(出動の際に危険な場面に遭遇したことは)結構あります。急ブレーキをかけて回避することが、たびたびあります」

別の映像を見ると、救急車が側道から合流しようとした際、車が道を譲ろうとはせず、なかなか進むことができません。結局、8台の車が通過した後、ようやく合流することができました。

(豊田市消防本部・安藤厚救急隊長)
「少しでも道路状況を良くしてもらうことで、病院に到着することが早くなれば、医療を早く提供できるという部分で大変助かる。適切に譲ってもらうことが一番ありがたい」

横の方向には聞こえにくい?サイレンの音に気付いていないケースも

サイレンが聞こえず、ドライバーが緊急車両の接近に気付けないケースも。

名古屋市内を走行中に救急車に追突しそうになったドライバーに、ドライブレコーダーの映像を見せてもらいました。ドライバーは交差点に進入するまで救急車に気付かず、急ブレーキをかけています。ドライバーによると、サイレンの音が聞こえていなかったそうです。

最近の車は防音性能に優れていることも一因のようです。消防によると、救急車のサイレンは音が前後に伝わるように設計されているため、横の方向には聞こえにくい場合があるといいます。

何とか注意を引くため、豊田市の消防では、赤信号の交差点ではサイレンの音を変えるほか、拡声器でも呼びかけます。

(豊田市消防本部・安藤厚救急隊長)
「ハザードをたいて、ゆっくり道の路肩で止まり、状況を確認した後で、少しずつ移動してもらうのが一番いいかなと思います」

緊急車両を知らせる最新技術「ITS Connect」

現在、救急車の存在を知らせる最新技術「ITS Connect」の開発が、自動車各社の協力で進められています。

トヨタ自動車は、無線技術を使ってドライバーに緊急車両の接近を知らせるシステムを実用化。ITS Connectを搭載した救急車が緊急走行時に電波を発信し、同じシステムを搭載した車に位置や方向を知らせます。これにより、ドライバーはいち早く救急車の存在を把握し、よけられるようになります。

2018年に名古屋市と豊田市の公道で行われた実証実験では、ITS Connectを搭載した救急車の緊急走行時間が平均で7.7%短縮されました。

(ITS Connect推進協議会・西川美津江さん)
「車の遮音性が上がり、音はするけれど、どっちから(緊急車両が)来ているか分からないということが結構あるようです。ITS Connectを使っていただくことで、スムーズな運転行動が期待できます」

ITS Connectの搭載車は、救急車で全体の約2割、一般車両はまだ約40万台。一般車両は250台に1台の割合でしかなく、普及には時間がかかりそうです。

緊急出動の現場が抱える「到着の遅れ」という大きな課題。技術は日々進歩していますが、何よりも大切なのは、落ち着いて道を譲る意識です。

CBCテレビ「チャント!」5月21日放送より

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