熊本市西区の慈恵病院が運営する「こうのとりのゆりかご」について、3年ごとに検証する専門部会がきょう(6月5日)「母親が最後まで匿名を貫くことは容認できない」などとする報告書を熊本市に提出しました。

学識経験者など5人で構成するこの専門部会は、熊本市の慈恵病院が2007年に設置した「こうのとりのゆりかご」、いわゆる「赤ちゃんポスト」について、約3年ごとに、その運営を検証しています。

今回は、6期目となる2020年4月から去年3月までの3年間に預け入れられた15人(女児8人、男児7人)について報告しました。

15人のうち虐待の痕跡が確認できた例はありませんでしたが、出産した場所がわかった13人中、10人が自宅などで孤立出産していて、専門部会では「生命の危険を伴うもの」として警鐘を鳴らしています。

ゆりかごの匿名性

ゆりかごの匿名性については、「母子の緊急避難として機能している」とと一定の評価をした一方で「出自を知る権利などの子どもの人権保障や、実母の心身のケアなどにつながらない」と強調しました。

預け入れる人を匿名にすることと、子どもの出自を明らかにすることは矛盾しないとして、「最後まで匿名を貫くことは容認できず、実名化を前提としたうえで、預ける人の密を守るなどの手法を取り入れる必要がある」と訴えました。

ゆりかごに預け入れられた子どもへの「真実告知」

また、熊本市の児童相談所がおととしに行った実態調査では、ゆりかごに預け入れられた子どもへの「真実告知」について、養子であることを告知したのは67パーセントなのに対し、ゆりかごに預けられたことを告知したのは18パーセントにとどまっていると指摘しました。不安や悩みを抱える養親(ようしん)などが交流できる場の設置などを求めています。

「こうのとりのゆりかご」への評価

専門部会は、2007年から2022年度に170人の子どもの命が救われたなどとして、「慈恵病院や関係機関の努力に敬意を表する」と評価。一方で、出自を知る権利や孤立出産が続く現状を踏まえて、「ゆりかごの仕組みは今のままでいいのか考えていかなければならない」と促しました。

ただ、慈恵病院には昨年度だけで1643件の相談が寄せられ、その多くが熊本県外からの相談であることから、「差し迫った状況に置かれている人々が全国に多数存在している」と訴えました。

そのため、慈恵病院や熊本市だけでなく、国や全国の自治体、マスコミ、地域社会などにそれぞれ要望する項目を設け、国には内密出産制度や出自情報の保管方法などを検討するように求めました。

各関係機関への主な要望

【慈恵病院への要望】
・相談業務のさらなる充実
・身元判明につながる努力
・(子の安全のため)実親のアレルギーや病歴などの情報収集

【熊本市への要望】
・預けられた子どもの現状の把握
・里親委託の推進
・ゆりかごを取り巻く状況について、国や自治体などへの周知

【国への要望】
・医療機関で生まれた子どもの出生届が確認できるシステムの導入
・内密出産制度の早急な検討・出自を知る権利についての法整備や出自情報の保管方法の検討

【全国の行政・関係機関への要望】
・相談窓口や支援の行政サービスについての周知・広報
・ゆりかごへの預け入れを考える親や虐待のグレーゾーンにある実親への支援体制の確立
・ゆりかごへの預け入れや遺棄の可能性を念頭に置いた支援

【マスコミ関係者への要望】
・「赤ちゃんポスト」の表現は子どもを「物」のように扱う印象を与える懸念があるため、呼称に配慮を
・妊娠・出産・子育てへの相談窓口や里親精度などへの関心や理解を促すための協力
・出自の悩みを長期に抱え、人格形成に影響を被る子どもがいることにを目を向けてほしい

【地域社会の人々への要望】
・子育てで課題を抱える人に対し、医療機関や行政機関と連携して家族の支えとなるように協力を

【相談窓口一覧】

思いがけない妊娠や出産、産後の養育について悩んでいる人は、以下の窓口で相談を受け付けています。

いずれも、熊本市民でなくても相談できます。

<相談窓口>

■「にんしんSOS熊本(エスオーエス くまもと)」

080-9068-7528 24時間いつでも対応

■熊本市の「妊娠内密相談(にんしん ないみつ そうだん)センター」

096-366-3060  午前8時半~午後5時15分

メール(naimitsusoudan@city.kumamoto.lg.jp)

※夜間や休日、祝日の電話は「にんしんSOS熊本」と連携、メールは次の営業日に対応

■福田病院(ふくだ びょういん)母子サポートセンター=熊本市中央区

096-322-2995 日曜と祝日除く午前9時~午後5時半

「母子(ぼし)サポートセンターに相談(そうだん)です」と伝えてください

メール(info@fukuda-hp.or.jp)

■中高生妊娠相談(ちゅうこうせい にんしん そうだん)※18歳以下なら誰でも相談可能

・福田病院(ふくだ びょういん)=熊本市中央区

096-322-2995 日曜と祝日除く午前9時~午後5時

メール(info@fukuda-hp.or.jp)

・まつばせレディースクリニック=熊本県宇城市

0964-34-0303 日曜と祝日除く午前9時~午後5時

・菊陽(きくよう)レディースクリニック=熊本県菊陽町

096-213-5656 日曜と祝日除く午前9時~午後5時

・ソフィアレディースクリニック水道町=熊本市中央区

096-322-2996 日曜と祝日除く午前10時~午後5時

■慈恵病院(じけい びょういん)「赤ちゃんとお母さんの相談係」=熊本市中央区島崎6丁目1の27

0120-783-449 24時間いつでも対応

※慈恵病院は「こうのとりのゆりかご」と「内密出産(ないみつ しゅっさん)」に対応しています

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