2022年に大阪府堺市のマンションで、隣人男性(当時63)に暴行を加え死亡させたとして、傷害致死罪に問われた34歳の男。遺体は肋骨(ろっこつ)の完全骨折が20か所以上にのぼり、法医学者も「交通事故死や転落死以外で、これほど肋骨が折れている遺体は見たことがない」と証言するほどだった。ボクシングジムに通う身でありながら、自らの拳で初老の隣人に暴力を振るっていた男は、拘置所で何を語ったのか。

暴行で肋骨20か所以上折れる…胸膜に刺さり両肺に穴

楠本大樹被告(去年1月)

楠本大樹被告(34)は2022年11月、堺市中区のマンションで、隣人の唐田健也さん(当時63)に肋骨多発骨折が生じるほどの暴行を加え死亡させた罪に問われている。唐田さんは、折れた肋骨が胸膜に刺さり、左右両方の肺に穴が開いて死亡したとみられる。

初公判で楠本被告は、「人が死ぬような力を加えて殴ったことはないです」と傷害致死罪の成立を争う姿勢を見せた。しかし被告人質問では、暴行と唐田さん死亡の因果関係を認めているとも受け取れる供述をした。

唐田さん死亡の約1か月半前に2人は知り合い、レンタカーを利用するなどして行動をよく共にするようになったという。しかし、認知症にも似た言動が見られた唐田さんへのいら立ちからか、被告は頻繁に暴行を加えた。さらに“携帯電話機を破損させたことへの弁償”などの理由を付け、金銭も搾取していた。

30歳以上も年齢の離れた初老の男性と、なぜ一緒に時間を過ごし、その末に悪質な行為に及んだのか……? 公判を傍聴してもどこか掴み切れなかった被告の“真意”を確かめようと、筆者は拘置所を訪れた。

「愛着に似たような気持ちはありました。放っておけないような存在」

堺拘置支所に向かう筆者(5月22日)

拘置所の面会室。楠本被告は、淡々と筆者の質問に答えていった。

(5月22日の堺拘置支所での面会 以下同)
筆者「唐田さんは、どんな存在だったのですか?」
被告「放っておけないような人。1人にしたら何をするか分からない所がありましたので」
筆者「愛着の類の感情もあったのですか?」
被告「愛着に似たような気持ちはありました。放っておけないような存在。(当初は)友人みたいな感覚で接してはいました」

確かに公判では、雨の時に唐田さんにさりげなくフードをかぶせてあげたりと、被告が“優しさ”を見せる場面もあった点が確認されている。単純に暴力の対象や金づるとしか見ていなかったわけではないのだろうとは、筆者も思う。

一方で面会では、唐田さんへの“不満”もやはり口にした。

被告「いらだちというか… 言ったことを聞いてくれない。注意しているにもかかわらず、知らない人の車に触ったり…」
「初めの出会い頭でレンタカーを借りて、(料金は)折半の約束だったし…。返してもらうべきお金だとは思っている」

被告の“孤独”と“転落”「誰かと一緒にいたかった気持ちは正直あった」

楠本大樹被告(Facebookより)

公判では、まるで絵に描いたような被告の「孤独」と「転落」も明らかにされていた。小学生の頃に両親が離婚し、父が再婚した女性は、連れ子ばかりを可愛がった。中学校ではサッカー部に入るも、スパイクを買ってもらえずすぐに退部し、非行に走った。結婚生活も破綻し、犯罪にも手を染めた。実家からも「もう一緒には暮らせない」と言い渡された…。

筆者「一連の公判を傍聴して、あなたには“寂しさ”のような感情があるのかなと感じたのですが?」
被告「そうですね、生い立ちもあって、やっぱり寂しさがあった。誰かと一緒にいたかった気持ちは正直あったかなと…。否定はしないです」

「よほどのことがない限り控訴するつもりはない」

楠本大樹被告(去年1月)

そして、唐田さんが亡くなった日の暴行については…。

被告「亡くならせるつもりで殴ったつもりはないですし、6割程度の力で殴った。まさかお亡くなりになるとは思っていなかった。自分がやってしまったことで亡くなったのかなと、いまとなっては思う」
筆者「どんな判決が出ようとも、判決を受け入れる覚悟はできている?」
被告「よほどのことがない限り控訴するつもりはないですし、真摯に受け入れて服役しようと思っています

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