福島市の吾妻山周辺で現在、開発が進められている大規模太陽光発電施設、いわゆる「メガソーラー」。近隣住民から景観の悪化や土砂災害を懸念する声があがっていて、いま問題になっています。
阿部真奈記者「あそこに見えるのが、いま開発が進められているメガソーラーの発電所です。茶色い山肌があらわになっています」
雄大な吾妻連峰に現れた“はげ山”。森林が切り開かれ、景観が損なわれています。福島市の先達山ではいま、メガソーラーの建設工事が進められていて、その規模はおよそ60ヘクタール。東京ドーム13個分に相当します。
2021年11月から工事が始まり、当初、事業者から提出された景観予測。しかし、実際には、この範囲を大きく超える形で山林が切り開かれています。「環境への影響を過小に説明していたのではないか」といま問題視されています。
福島市長が「ノーモアメガソーラー宣言」
福島市内では、建設中も含め26か所でメガソーラーが設置されていますが、この問題を受け、開発に“待った″をかける動きが広がっています。
福島市・木幡浩市長「大規模太陽光発電施設の設置をこれ以上望まないことを、ここに宣言します。」
去年8月、福島市の木幡市長による「ノーモアメガソーラー宣言」。「災害の発生が危惧され、景観が損なわれる山地への設置をこれ以上望まない」としました。
さらに今年2月、市は事業者向けのガイドラインを改定。景観が損なわれる恐れのある区域では、計画の変更・中止を求めるなどの方針を新たに盛り込みました。しかし、いずれも法的拘束力はありません。こうした状況に、困惑しているのが周辺の住民たちです。
矢吹武さん「あの風景はもう見たくない、見るのがつらいです」
福島市成川に住む矢吹武さん。家のすぐ近くにある吾妻連峰を眺めながら暮らしてきました。しかし去年の夏、開発が進み、山肌がむき出しになった姿を見て言葉を失ったといいます。
矢吹武さん「あの景観は何なんでしょうと毎日仰ぎ見ていた。山の姿があんな風になってしまって、本当に残念で仕方がない」
中止求める署名提出 一方、工事を行う事業者は
矢吹さんは、地域住民などと工事の中止などを求める署名活動を実施。集まった署名は1700人以上にのぼり、県と市に提出しています。
矢吹さん「福島市民にとっては、あの景観は市民共通の財産お金に変えることができない財産なんですね。みなさんの反対の署名の気持ちを結集して、いい方向にしなければならないと、いい方向になるまで闘う必要があると思う」
TUFの取材に対して先達山の工事を行っている事業者は「山肌が一時的に露出してしまっているが、市民からの声を受け、先行して植林を行うなど緑化を進めている。完成形が、景観予測から大きく外れることはない」と話し、環境への影響を過少に説明したことについては否定しました。
脱炭素社会に向け進められている再生可能エネルギーの推進。エネルギー技術について研究している福島大学の佐藤理夫教授は、次のように指摘しています。
佐藤教授「地球温暖化は防がなきゃいけないという観点に立つと、どこかで電気は作らなければいけない。どのぐらい自然を痛めてしまうこと申し訳ないと思いながらも許容するか、あるいは今まで見えていたものが変わることに対してどれぐらい許容するかということを、その場その場で考えていかなければいけないと私は思っています」
そのうえで、佐藤教授は「再生可能エネルギーで出てくる利益が、地元の地域振興に生かされるような仕組み作りを積極的に行っていくべき」と話します。
再生可能エネルギー普及のあり方は
福島県内では原発事故後、『原発に頼らない電力』として、再生可能エネルギーの導入が進められています。その中で、津波の被害を受けた土地など空いている用地を活用して太陽光発電施設、メガソーラーの建設が進められました。
さらに、福島県は2040年頃までに県内で必要な電力のすべてに相当する量を再生可能エネルギーで生み出すことを目標にしていて、こういった県の政策として導入が進められた背景があります。
県の政策として再生可能エネルギーの普及が進められている一方で、福島市では去年「ノーモアメガソーラー宣言」を行いました。福島市は、メガソーラーに代わる再生可能エネルギー普及に向け、屋根置きや平場でのソーラーパネルの導入を進めることや、徹底した省エネ・省資源化に取り組むことなどを挙げています。
そのうえで、木幡市長は5月16日の定例会見で「エネルギー需要が高まる中でしっかり供給していくというのは大事だと思うが、地方の山を、自然を破壊して供給するというのは果たしてどうなのかと私は思います。我々自治体はもう関与できないような状況になっているので、関与できるような仕組みを導入しながらエネルギー供給を図るということをぜひやってほしい」と話しました。
一方、開発を許可する立場である福島県の内堀知事は5月21日、「再生可能エネルギーの導入を進めるにあたっては地域との共生を図ることが重要であり、地元の方々の理解が大切。市町村や国との連携をより一層強めながら法令に基づき適切に対応していく」と話しました。
地元の理解なしに開発を進め、環境影響だけを押し付けられる状況では、再生可能エネルギーが地域に好まれるものにはなりません。立地している地域に対し、メリットを感じてもらえるような還元策も考え「地域共生型」の電力のあり方を関係者1人1人が考える必要があります。
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