家に引きこもっている人が、安心して出かけられる仮想空間を作ります。

思い思いに動き回るキャラクターたち…ここはインターネット上に作られた「仮想空間」=メタバースです。

自分の分身「アバター」を操って、ゲームやショッピング、アバター同士の交流もできます。

 一方、現実の世界では、家にひきこもったままの人が、札幌市内だけで約2万人いるとされています。

そこで札幌市では、メタバースを舞台にした「ひきこもり支援」を来週スタートします。

 札幌市 精神保健福祉センター 菊田潤 業務担当課長
「孤立を防ぐことということがもっとも大事な目的の一つかなと思っていて(メタバースの中で)全力でサポートしていきたいなと思っている」

広がる「メタバース」の可能性を探ります。

NPO法人レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク 田中敦 理事長
「これがメタバースの画面で、ここまでの薄黒い範囲内の人に入っている人には、肉声で話せますよ…ってことなんです」

札幌市のメタバース空間の運営にあたるのは、NPO法人「レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク」です。

理事長の田中敦さんは、自身もひきこもりだった経験を生かし、25年にわたって、不登校や引きこもりで悩む人たちを支援してきました。

田中さんが支援にメタバースを活用しようと考えたのは、家に居ながら、パソコンなどを使って、多くの人とコミュニケーションが取れる手軽さからです。

 NPO法人レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク 田中敦 理事長
「入室のしやすさというか、やっぱり顔を出さなくてもいいし、ニックネームで入れるっていうことなんで、敷居が低いっていうところがやっぱり大きいのかなと思う」

 「参加した当事者の感想を見ると、現実の世界ではなかなかしゃべれないが“仮想空間ではしゃべれました…”というような感想をもらうことがあるので…」

 メタバース上に作られた、たくさんの部屋。ひきこもりの当事者たちのアバターは自由に出入りして、ほかの当事者たちや、専門の相談員と会話をします。

話すのが苦手なら、文字入力でやりとりすることもできます。

約20年間、ひきこもりの生活をしている50代の男性に、メタバースを体験した感想を聞くことができました。

50代男性(約20年間ひきこもり生活)
「どうしても外に出れば人と会わなければならない。ちょっと私が少し(対人に)苦手意識がありまして、なかなか馴染めない部分もあるもんですから、顔を出さないということもあって入りやすいような気はします」

「人との交流するきっかけっていうのは、どこかで求めているというところはありますので…」

このメタバース空間は、5月29日から毎月1回開かれる予定で、レター・ポスト・フレンド相談ネットワークのホームページで参加の申し込みができます。

NPO法人レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク 田中敦理事長
「もうここ(メタバース)に来ているだけも十分、外出してるってことになりますから、安心して参加してくださいってことを伝えるってことが大事だと思う」

札幌市では、会場で実際に対面で行う相談会と並行して、メタバースを通した「ひきこもり支援」を行っていくとのことです。

【NPO法人「ゆいネット北海道」理事 須田布美子 弁護士】
・コミュニケーションに困難を抱えている人は、ひきこもりの人だけではなくて、LGBTの子どもたちと若者支援を進めている団体も、すでにメタバースを利用した“バーチャル居場所つくり”を始めている。

・そうした空間を通じて、実際に顔を合わせて、なかなか会話することが難しい人たちと一緒に話をする機会を作り始めている。

・いまの若い世代は、SNSなどのオンライン上だけで知り合うことに抵抗感がない人が多いので、コミュニケーションとしても、メタバースを使ったやり取りは、取り組みやすいのかもしれない。


北海道内では、メタバースを使った、さまざまな取り組みが始まっています。

 夕張メロンのテーマパークとして、JA夕張が5月4日に開設したその名も「夕張メロンメタバース」です。

北海道内のJAでは初めてのメタバースということで話題になっています。ブースに行くと、夕張メロンを買えるサイトに移動する仕掛けになっています。

ゆくゆくは全道、全国の農協をメタバースに集めて、物産展を開きたいそうです。

そして、メタバースは環境保護活動にも活用されています。

 こちらは、北海道内で減り続けている湿地の大切さを見直す環境会議「しめっちフォーラム」のシンポジウムを行った空間です。

実際の湿地に、足を運んだような気分になれるそうです。


【北海道新聞特別編集委員 鈴木徹さん】
・「夕張メロンメタバース」も一例だが、実際にメタバース内で経済活動が行われているわけで、ライブを開いたり、モノを売ったり、ビジネスチャンスが広がっているとも考えられる。今後、期待できるのはないか…。


・仮想空間は、実名でなければ入れないところもあるが、匿名性が高いところも多いので、そうした部分では注意も必要。

・そして…メタバース=仮想空間は“没入感”も強いので、そうした空間にひきこもってしまう人が現れるのではない…そんな心配も感じてしまう。


新しい取り組みが始まると、どうしても課題も見えてきます。

とはいえ、居場所という意味で、そこで救われている人がいると考えると、メタバースを珍しいとして、ついつい拒否してしまう人もいるかもしれませんが、そうではなく“大事な空間”であるという捉え方も大切かと思います。

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