茶目っ気あふれる若者がドイツから海を越えて松本市に武者修行に来ています。
日本のある伝統技術を身に付けるため、師匠と2人で歩む日々に密着しました。
長野県朝日村の築150年近い古民家。
信州大学で教授を務めるスティーブさん夫妻の家に下宿する、カラフルな手ぬぐいを巻いた若者が、ユリウス・キルマイアさん25歳です。
家では英語を使うユリウスさんですが、出身はドイツ。
今年1月に信州へやって来ました。
ユリウス・キルマイアさん:
「(日本・信州での暮らしは)とても面白いですよ。今は畳の部屋で寝ていて、とっても面白いです。畳のにおいが良い感じだよ。とてもいいんだよ」
来日4か月ですが日本語もお手の物!
その訳は部屋を見せてもらうとわかります。
ユリウス・キルマイアさん:
「手ぬぐいは大好きだよ。たくさんの旅行をすると、いろんな村や町に行って、たいてい新しい手ぬぐいを買うんだ。2枚、3枚とね」
カーテンレールには、様々なデザインの手ぬぐい!
これは北斎?
ユリウス・キルマイアさん:
「北斎のスケッチですよ」
伝統文化のほか、アニメや漫画といった新しいカルチャーなど、日本が大好きなんです。
持ってこれなかったものの、実家の本棚には数えきれない漫画が。
ユリウス・キルマイアさん:
「子どものころからたくさんの漫画を読んで、そして若い時にいつもアニメも見たんだ」
日本での生活を楽しむユリウスさん。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
毎朝8時、向かうのは松本市内の職場です。
車を走らせること約30分ー。
着いたのは、小気味よい音が聞こえてくる家具工房春夏秋冬(かぐこうぼう・しゅんかしゅうとう)です。
壁一面に道具が整理され、木のぬくもりが感じられる工房で、ユリウスさんは木と向き合います。
来日の一番の目的は、伝統的な日本の家具作りを習得するための、半年間の武者修行です。
ユリウス・キルマイアさん:
「節は本当に嫌い(笑)」
家具工房春夏秋冬 藤原哲二さん:
「節ねぇ硬いねぇ。節だらけじゃしょうがない」
師匠は、この道55年の藤原哲二(ふじわら・てつじ)さん75歳。
2011年から続けている機械を一切使わないという家具作りを、半年間でユリウスさんに教え込みます。
家具工房春夏秋冬 藤原哲二さん:
「プロセスが一番大事だと思っているんですよ。人間の手の道具だけで作っていくという感覚が一番大切だと自分では思っている」
藤原さんが感じる手作業の醍醐味は…
家具工房春夏秋冬 藤原哲二さん:
「やっぱり音が好きですよね。音がこの仕事の楽しみ。この音があるから頑張れる」
実は、ユリウスさんはドイツでも家具職人として働いていました。
木の切り出しなどに大きな機械を使う方法が肌に合わず、手作業の技術を身につけたいと一念発起。
ドイツにいた藤原さんの知人の縁で信州にやってきました。
ユリウス・キルマイアさん:
「(手作業の家具作りは)難しいけど、とても楽しいんだよ。ドイツでは機械の音が好きじゃなくて、ここの雰囲気はドイツと違ってとても平和ですよ。音とか匂いとかとても好きね」
はじめは、鉋(かんな)や、のこぎりの扱いに四苦八苦したというユリウスさん。
しかし、4か月の修行で道具の扱いもすっかり慣れました。
ユリウス・キルマイアさん:
「疲れるね」
家具工房春夏秋冬 藤原哲二さん:
「ユリウスらしいパワーに任せて削りまくる。おれはあんなに体力ないから、もうちょっと繊細に」
ユリウス・キルマイアさん:
「藤原さんはテクニックがあるからね(笑)」
毎日使う道具の手入れも欠かしません。
ユリウス・キルマイアさん:
「(研ぎ具合は)普段ここでテストしています。腕の毛が剃れないから鋭くないね」
家具職人としての心意気も身につけ、作業着姿も様になってきたユリウスさん。
5月6日には、弟子入り当初から作ってきたカツラとマツの木を使った棚を完成させました。
ユリウス・キルマイアさん:
「あした(この棚を)お客さんにあげますね。藤原さんはこの木目や節穴は好きじゃないけど私はとても大好き。面白い個性だと思います。完璧じゃない部分もとても大事です。だからこの棚板の節穴もとても好きだよ」
板の切り出しからすべて手作業で作った棚。
ユリウスさんのセンスも光ります。
家具工房春夏秋冬 藤原哲二さん:
「その穴は埋める計画だったんだけど、ユリウスが埋めない方がいいってアドバイス言ってくれて、これを見に来てくれたお客さんも『素晴らしい』『良い』って言ってくれるんですよ。それは本当によかったなと思う」
藤原さんはユリウスさんの仕事ぶりを認める一方で、さらに高みを目指してほしいという思いもぶつけます。
家具工房春夏秋冬 藤原哲二さん:
「ユリウスも気を遣ってやっているのはわかるんだけど、もっと神経使えればもっと良い仕上がりになると思いますよ」
ユリウスさんの初仕事を見届け、藤原さんにはある思いが湧きあがりました。
家具工房春夏秋冬 藤原哲二さん:
「できたらもう半年、1年ここに…。もっと道具に親しんで慣れていってもらいたい気持ちはありますね」
「誰かがこの道具を使い続けてもらいたい、誰でも職人はそうだと思いますよ。おれもこれを誰かに使ってもらいたい。できたらユリウスとも縁があったので、ドイツでまたこの道具が活躍してくれたら、国を越えて素晴らしいモノづくりの交流ができるというのを期待しているんですね」
ユリウス・キルマイアさん:
「弱ったなぁ」
「ありがとうございます!」
ビザがあと1か月半で切れるため、ユリウスさんはいったんドイツに帰りますが、再び藤原さんのもとにで学びたいという気持ちが芽生えているようです。
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