気軽に寄れるまちの書店。今、このまちの書店の全国的な減少が課題となっています。山口県内では4月末、山口市の老舗書店が閉店。その一方で、萩市には、ことし2つの書店がオープンします。それぞれの書店のあり方と書店の店員、そして訪れる客の思いを取材しました。

老舗書店が70余年の歴史に幕

来店客
「感無量というか、ほんと泣きそうです」

山口市中心商店街の「文榮堂 本店」。4月末、長い歴史に幕をおろしました。「文榮堂」は1949年に創業された山口で老舗の書店です。「文榮堂 本店」では、学習参考書や政府刊行物、郷土本など幅広い種類の本をそろえるほか、教科書や文具も販売してきました。閉店を決めた理由は、売り上げの落ちこみです。タブレット端末などで見る電子書籍が普及し、購入方法が書店から通販に変化するなど、書店や本をとりまく環境が大きく変わってきました。

来店客
「ちょっとやっぱりさみしいなと。まちの中心にありましたしね。友達と漫画とかを買ったりとか、参考書とかも2階にあったので、一緒に見たりとかっていうのはしていました」

店員
「学生さんから来られてっていう方がすごく多いですね。涙目の方も先ほどはいらっしゃいましたけど、もらい泣きしちゃいけん、今仕事中だから泣いたらいけないと思って」

「本店」の閉店で、残る「文榮堂」は市内に3店舗となりましたが、そのうちの1つ「山口大学前店」は、5月10日をもって教科書のみの取り扱いになります。

全国でも、書店の減少は課題となっています。日本出版インフラセンターによると、全国の書店の数は、10年前は1万4000店以上ありましたが、去年は1万1千店ほどにまで減少しています。出版文化産業振興財団の調査では、県内には、書店がない自治体が5つあります。

まちの書店は「文化の拠点」「集う場」

この状況を打開するため、国をあげて支援策が検討されることになっています。「まちに書店は必要か」。この問いに対する答えは、店員や訪れた客のことばから浮かび上がってきます。

来店客
「知的文化の中心地でしたね」
来店客
「なんかいい本があるかなとか、情報を仕入れるところ」

文榮堂本店・花生雅文店長
「見て触って、表紙を見て選ぶ楽しみっていうのは、リアル書店にしかありませんので」

知識の元となる本と出会う場所。そして・・・

来店客
「みんながこう、集まれる場所だったのかなと思います」
従業員
「絵本を中心に、子どもが絵本を見ている間にお母さんお父さんたちが文具を見たり」

人々が集う場所です。

来店客
「本屋はどんなかたちでもいいからあった方がいいと僕は思います」

「知的文化の中心地」「みんなが集まる場所」として地域に愛されてきた書店は、温かい拍手に包まれて最後の営業を終えました。

組み合わせが新しい!書店が登場

一方、萩市には、2つの書店が新たにオープンすることになりました。その1つが6月末、萩城下町の古くからの町並みが残る萩市浜崎伝統的建造物群保存地区に開店します。

出版社として20タイトルほどの本も出版する、神奈川県三浦市の「アタシ社」の書店です。この書店は、本を売るだけではありません。

「アタシ社」代表・ミネシンゴさん
「こっちのゾーンですね。こっちが美容院になります」

書店と美容室を組み合わせたこの店の名前は「本と美容室」です。「アタシ社」の代表・ミネシンゴさんは元美容師で、この形態を考え出しました。

ミネシンゴさん
「美容院って特に滞在時間も長いですし、そこにいい本との出会いっていうのが美容院の中で作れれば、本は売れるんじゃないかなと思っていますし。お互いにビジネスとしても生き延びられるんじゃないかなって」

「本と美容室」は神奈川県真鶴町にもあり、萩店で2店舗目になります。出版社の立場からも、直接本を販売できる書店の存在は大きいといいます。

ミネシンゴさん
「書店がなくなるっていうのは、まちの文化的な拠点が減るということでもあるとも思いますし、書店は小さな子どもからお年寄りの方まで気軽に寄れて新しい知識を蓄えるっていういい場所だと思うんですよ」

商店街を盛り上げるブックカフェ

同じ萩市にもう1店舗オープンした書店が萩・田町商店街の「Tabito」。カフェを組み合わせたブックカフェで、1000冊を超える古本を売っています。

来店客
「表を見たらきょうのランチっていうのが出ていて、おいしそうだったので入ってみました。懐かしい本とかがいっぱいあっておもしろい感じがします」

商店街を盛り上げようと活動する「Zeal Factory Hagi」が商店街や近隣の書店が閉店していったことから立ち上げました。

Zeal Factory Hagi・柏木一宏社長
「商店街の中の不足する部分としては、本があって、本だけじゃなかなか難しい部分もあるので、お茶が飲めるような人が集まってくつろげるかゆうようなところがあればどうかなっていうことで」

増加する電子書籍や通販の需要。インターネットの便利さを認めた上で、書店の存在は必要だと話します。

Zeal Factory Hagi・山下成一さん
「画面の中じゃ探しきれないものがあるし、出会えないものもありますよね」

今後は、商店街で活躍する店のあり方を目指しています。

Zeal Factory Hagi・柏木一宏社長
「専門性とかそのお店じゃないとっていうところがでてきたところで来られてるっていう方が多いと思いますので、そういう面からいうと、このTabito自体もそういうカラーになってくるのかなっていう」
来店客(萩出身)
「手に取って見られるのがいいです。ないのはさみしいですね、やっぱりね」
来店客
「こうやって新しい本屋さんができているのはうれしいですね」

「文化的な拠点」、「人の集まる場」として必要とされてきたまちの書店。時代の流れにその形を変えながらあり方を模索しています。

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