虐待や非行で家庭にいられなくなった少年たちを、受け入れる施設があります。さまざまな事情を抱えてここで暮らし、自立を目指して「第二の家」でもがく少年たちを追いました。

「家庭裁判所も6、7回行った」 貧困や虐待で居場所を失う子どもたち

「陽和ハウス」はNPOの代表・渋谷幸靖さんが設立した自立援助ホーム。ここで共に暮らす少年たちは、家族でも元々の知り合いでもありません。

16歳のナオトさん(仮名)は、2024年2月から、母親と離れて陽和ハウスで暮らしています。窃盗や放火未遂などの非行を自分で抑えることができず、「家庭裁判所も6、7回行った」と話します。

(ナオトさん【仮名】)
「保護観察中もみんなで夜に遊び回って、無免許でバイクとか車も乗っていた。周りにあおられたら、当時の自分はむかついて『やったるわ』という感じだった」

(ナオトさんの母親)
「(息子が)いることが、つらいと思ってしまっている自分がいて。それもまた、すごく嫌な気持ちになって。更生させるにはここにすがるしかないと思った」

ナオトさんはホームで暮らしながら、市内のデイサービスで正社員として働いています。3月に働き始めた当初から正社員での採用を望んだナオトさんは、研修にも打ち込み、今では身体介助なども、ほぼ1人でできるようになりました。

(デイサービス ふるさと・村松佑亮副代表)
「よくない子だったら断ろうかなという気持ちも正直あった。実際に会ってみると、すごく根がいい、芯がしっかりある子だったので採用を決めた」

渋谷さんは今、貧困や虐待で居場所を失う子どもたちが増えていると感じています。以前は自立できるように住み込みでの仕事の斡旋を行っていましたが、それだけでは足りないと気付いたといいます。

(陽和ハウス・渋谷幸靖理事長)
「学校に行くことすらも難しかったり、ご飯をおなかいっぱい食べられなかったり。当たり前のことができない環境の子が、世の中にたくさんいる。(これまでは)住み込みの仕事で住まいの確保をしていたが、10代の子はうまくいかないというケースも多い。そうすると、家も仕事も両方失ってしまう。また振り出しに戻り、社会に出ることが怖いという子が増えていった」

渋谷さんは、必要なのは家に代わる安心できる居場所だと考え、陽和ハウスを設立。週の半分はハウスで暮らし、少年たちの支援にあたっています。ハウスでの生活で、ナオトさんも自分の変化を実感しています。

(ナオトさん【仮名】)
「優しい先輩ばかりなので、いつも教えてもらって勉強している。仕事を頑張る理由を考えて、今は見つかった。母親が4月から店を出したので支援したい」

(ナオトさんの母親)
「今はちょっと離れて基盤をつくる。大丈夫となったら、改めて一緒に暮らせたら」

今ではハウスの寮長も任されるようになったナオトさん。他の入居者のために、長所や短所をまとめる「自分磨きシート」を作るなど、いつの間にかナオトさん自身も優しい先輩になっていました。本当の意味で自立して、ここを出る日もそう遠くはなさそうです。

養育ではなく…自立援助ホームが担う「重要な役割」

専門家は、子どもの自立や就労支援に特化した自立援助ホームには、養育が主な目的の児童養護施設とは違った重要な役割があると話します。

(山梨県立大学大学院・西澤哲特任教授)
「児童養護施設は、乳幼児期から育てあげるタイプの養育。家庭養育が破綻して親からも見捨てられた中高生を、自分たちの家に入れてまともに養育できるかというと無理。自立援助ホームは、最初から自立を志向した関わり・支援ができる」

15歳のケンスケ(仮名)さんは、児童相談所の紹介で陽和ハウスに入所する事になりました。母親の虐待が原因で児童相談所に一時保護されましたが、そのあと家に戻ることを拒否し、行く当てがなくなったといいます。自立して仕事を見つけるためにここに来ましたが、働くことについて不安な思いも口にします。

(ケンスケさん【仮名】)
「できれば(仕事は)やりたくないけれど。やったことがない」

(陽和ハウス・渋谷幸靖理事長)
「何もしなかったら子どものままだし、一歩踏み出して仕事したら大人になっていく。丁度その間だから、踏み出す勇気も持たないといけないかもしれないね」

その後、ケンスケさんはEスポーツの施設で働くことに。業務内容は、ゲーム用パソコンの維持・管理。お客さんの話を聞き、トラブルシューティングをする仕事です。不安を感じながらも、心境は少しずつ変化。前に踏み出すきっかけになりそうです。

(ケンスケさん【仮名】)
「こういうところは楽しいなと。ちょっとくらいは働いてみたいと思った」

いろいろな事情を抱えた子どもたちを、どう支援をすべきか。子どもたちが自分らしく過ごせる居場所が求められています。

CBCテレビ「チャント!」5月1日放送より

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