「前から来た人と同じ方向に避けてしまう」
ふとした時起こる、あの現象。
向かいから来た人と気まずくなった経験がある人も多いのでは?

自分が「左」にでるのに相手が「右」にでてくる。つぎは「右」に出ようとすると相手は「左」に出てくる…避けようと思えば思うほどアワアワし、気まずくなってしまうのだ。

あの現象って、何?
そうなってしまった時の解決策ってあるの?

独自に“あの現象”について研究した、昭和大学医学部 生理学講座生体調節機能学部門の講師で心理学の博士でもある、本間元康さんに話を聞いた。

名前は…まだない みんなが経験する、あの「あるある」

ちなみに“あの現象”について、一番わかりやすく表現するのであれば、道での“お見合い現象”ではなかろうかと思うので、ここでは“お見合い現象”と呼ぶことにする。

本間 元康(ほんま・もとやす)さん 昭和大学医学部 生理学講座生体調節機能学部門 講師 心理学の博士でもある 

本間さんに取材依頼をした際にも“お見合い現象”という言葉を使ってみたが「ああ、それね」という感じで通じ、ホッとした。

──“お見合い現象”に正式名称ってあるんですか?

それが、正式名称はないんですよ。
誰もが経験しているのに、その現象の名前がないのは、なかなか珍しいかもしれないですね。

──本間さんは、“お見合い現象”に関する論文で「歩行中のためらい回避」と表現していますね。

そうですね。英語論文で、あの現象を訳することが難しくて「歩行中のためらい回避」としました。

──そもそも、「歩行中のためらい回避」とは何なのでしょうか?

互いにぶつからないように回避しようとして、同じ方向に動いてしまう予測エラーだと言えます。

“お見合い現象”のメカニズムを解説

──なぜ“お見合い現象”が起こるのでしょうか?

“お見合い現象”が起きるようなシチュエーションで実験すると、これには3つの要因があることがわかりました。

1つ目は「たまたま歩行のリズムが一致してしまった」ことによって起きます。

実験で、全く知らない人同士が向かい合って足踏みをしてもらいました。すると、いつの間にか動きがシンクロしてしまいます。これが「たまたま歩行のリズムが一致する」ということです。

例えば、蛍がバラバラに光っていたのに一斉に光りだすとか、ライブのアンコールで自然と拍手が同じタイミングになって、ひとつにまとまる、なども同じだと言えますね。

──なるほど。無意識のうちに合ってしまうんですね。

2つ目は「避けようと思うまである程度、距離がある」。

相手から10〜20センチの距離だとそこから避けようとするのは、ほぼ本能ですよね。むしろ、2〜3メートル離れたところで、避けようと思って余計な推測をすることによって、逆にぶつかりそうになってしまう。

他者の動きを予測できる十分な距離がある場合、どっちに出ようか?という行動に影響を与えてしまいます。

──たしかに…ぶつかりそう、ぶつかりそう…どうしよう、どうしようと考えていると“お見合い現象”が起こる気がします。

3つ目は、相手の右足が出てるときに、自分の左足も前に出ている鏡のような状況だと、物理的に同じ方向に避けてしまい、お見合い現象が起きやすくなります。

以上の3つの要因が重なり合うと道での“お見合い現象”は起きやすくなる、と言えます。

Honma et al., Front. Psychol.2015

“お見合い現象”を避けるにはどうしたら良いか?

「歩行リズムの一致」「ある程度の距離」「異なる足の位置関係」の条件が揃う事で、“お見合い現象”が起きることがわかった。

では、どうすれば“お見合い現象”から逃れることが出来るのだろうか?

本間さん
立ち止まるのが一番だと思いますが、急に立ち止まるのは危険なので「歩くペースを少し落とす」のが良いと思います。

先ほども言った通り、なぜ“お見合い現象”が起きるのかというと「相手と同じリズムになってしまう」からです。ペースを早めるのは少し難しいので、ペースを落として、こちらからリズムを崩すのが良いと思います。

これでもう、“お見合い現象”で気まずい思いをせずに済みそうだ。今度、予兆を感じた時は、歩く速度を遅くして、気まずい状態を回避してみたい。

取材:TBSテレビ デジタル編集部・小林愛

※本間さんの論文
「歩行中のためらい回避」:相互作用によって生じる社会的行動の誤り
Hesitant avoidance while walking: an error of social behavior generated by mutual interaction(2015)

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本間 元康(ほんま・もとやす)
昭和大学医学部 生理学講座生体調節機能学部門 講師
博士(心理学)
医学と心理学の垣根を超えた学際的研究を行う
日本心理学会優秀発表賞受賞(2024)等
心理学の知見から神経疾患や精神疾患の認知機能メカニズムを検討

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