大逆転で再選となった兵庫県の斎藤元彦知事。SNSを使った選挙戦が支持拡大の大きな後押しとなった一方で、選挙中に飛び交った中傷やデマの影響は今も続いています。選挙戦の裏側とともに検証します。

「どっちやねん…」稲村氏に“極左”で“既得権を代表” 兵庫県知事選ネット上のデマと偽情報

斎藤元彦知事のパワハラ疑惑を調べる百条委員会の奥谷謙一委員長。
今もこんな電話が相次いでいる。

奥谷氏にかかってきた電話
「お前もうやめろよ!お前みたいなゴミみたいな 人間のくずだなお前はな」
「おいでてこんかい、いてまうぞ!」

百条委員会委員長 奥谷謙一 兵庫県議
「なんでこんなことになるのかな…今でも信じられないというか」

111万票あまりを獲得し、返り咲いた兵庫県の斎藤元彦知事、47歳。
選挙戦の序盤は演説に足を止める人はまばらだったが、終盤には人だかりが。
一方、落選した稲村和美氏は選挙後も誹謗中傷にさらされている。

稲村氏の事務所に届いた封書
「偏見選挙活動、ご苦労様でした…政治屋に向いてないと断言出来る!!」
「何故途中でも選挙中止を自己主張しなかったのか?」

兵庫県知事選で落選 稲村和美氏
「『何故選挙中止を(自身から)言わなかった』とまで言う。つまり『斎藤氏が失職すること』自体が、間違ってるんだから選挙中止を主張すべきだろうと」

“稲村氏は外国人参政権を推進する”などのデマが拡散した。

兵庫県知事選で落選 稲村和美氏
「自分が言っていないことに対して、ネットで情報を得た人が街頭宣伝の時に『これはどうなんですか』という風に質問してくる」

稲村氏は偽情報の火消しに追われたが、炎上はおさまらなかった。

稲村氏に対するSNSの投稿
「外国人参政権をすすめる、最低最悪の売国奴」
「クズ稲村」

稲村氏
「私のポスターに『極左』と落書きされて、張り替えに行かなきゃいけないということが結構あった」
「一方で(私が)すごく極左っていう風に情報が拡散されて、後半は『既得権を代表する人』という、私からするとどっちやねんと」

稲村氏は選挙結果に異議を唱えるものではないと強調したうえで、強い危機感があると話す。

稲村氏
「こういうことを経た後にちょっと『立候補するなんてとてもとても(できない)』という風になってしまうとしたら、それはすごく残念。絶対そうなってはならないと」

誹謗中傷が原因で辞職した県議もいる。

百条委員の一人で、パワハラ疑惑などを厳しく追及していた、
竹内英明氏は「家族を守るために身を引く」として議員を辞職した。

不信任決議の賛成討論をした迎山志保県議も、誹謗中傷を受けている。

迎山志保 兵庫県議
「全てが公人ということでさらされるのが当たり前、批判されるのが当たり前、これがスタンダードになってしまうと、政治の世界もどんどんと結果的には劣化をしていく。ひいては国民の首を絞めることになる。国民にツケが回っていく」

大逆転の舞台裏では何が起きていたのか?

「#さいとう元知事がんばれ」告示後に増加 「当選を目的としない」候補…異例の選挙戦

斎藤氏は不利な状況からの出直し選挙で当選を果たした。背景にあったのがSNSでの支持の広がりだ。

「#さいとう元知事がんばれ」という言葉がX上でいつ、どのように広がっていったのかを調べた。

この投稿は後援会の公式Xが立ち上がったころからはじまり、テレビなどの選挙報道が減った告示後に増加した。

その要因の一つと考えられるのが、知事選に立候補した立花孝志氏の存在だ。

立花孝志氏(10月31日)
「当選を目的としない選挙に今回は臨ませていただいています。斎藤さんをもう一度戻さなきゃいけない、そういった思いで17日間活動していきましょう」

自身の当選は目指さず、斎藤氏をサポートするという異例の選挙戦を展開。YouTubeで「告発文書は名誉毀損」「斎藤氏ははめられた」などと、自身の考えを繰り返した。

そのなかで、“情報を隠ぺいした百条委員会とオールドメディア”対“真実を伝えるネット”という対立構造がにわかに作られ、うねりになっていった。

「何度も拡散指示が…」支持者が集まる「チームさいとう」LINEの登録者が内部証言

その裏側を知る女性が取材に応じた。女性は、斎藤氏の支持者が集まるLINEグループに登録していた。

女性
「私が登録した時は『チームさいとう』公式LINEという文言がついていました。このお部屋に登録して入ると、デジタルボランティアのページに飛びます。X、Instagram、YouTube、TikTokの情報交換ができる場に飛びます」

「チームさいとう」と名づけられたLINEグループでは、県外からも支持者が応援に駆け付ける様子がうかがえる。

「管理者」を名乗るアカウントから、SNSの発信について指示が出されていた。

女性
「ずっとずっと、私が入ったときから毎日、もう何件も何件も拡散拡散。管理者がこうやって拡散指示をこのLINEの中で出すんですね」

なかには、斎藤氏が様々な勢力によって陥れられているとする動画も。

女性
『行政・司法・警察・報道、全てが繋がっていた』(というサムネイルの動画)。これはもう本当にこのLINEの中でも、何度も何度もこのYouTubeの拡散指示が出て。『斎藤さんは騙された』『県民局長が悪』みたいな、議論がなされて、一気に拡散していきました」

斎藤支持者のLINEグループだが、立花氏の動きも共有されていた。

女性
「『立花候補より』と連絡が入って、『本日最初の街頭演説の場所はこちら』と奥谷さんの住所があり、みんなで『近くやから行こ』と誘う投稿がありました」

参加を呼びかけるような投稿。演説場所として書かれていたのは、百条委員会の奥谷委員長の住所だった。

そして、数時間後…

立花孝志氏 演説のYouTube動画
「出て来い奥谷!一応チャイムだけ鳴らしておこ。あまり脅して奥谷さんが自死されても困る」

斎藤支持者のLINEグループに入っていた女性は、斎藤氏の街頭演説で、こんな場面を見た。

『チームさいとう』登録者の女性
「11月3日、新長田で街宣があるということで聞きに行ったんです。斎藤さんの街宣の後にそのまま立花さんの街宣があったんです」

両陣営の距離の近さを示す、その時の動画がネット上に残っていた。

演説を終えて斎藤氏は立ち去るが、その場に残る支持者たち。すると30秒後、立花氏が現れ、斎藤陣営のロープをくぐると拍手で迎えられた。

女性
「斎藤さんがやった後にすぐ立花さんが入ったり、逆に立花さんがその場を盛り上げて、後に斎藤さんが入ったり、もうセットの印象を受けました。斎藤支持者は立花さんを利用して、票を集めることに加担していたと思います」

兵庫県の選挙管理委員会に見解を聞くと「立花氏のように当選を意図しない立候補は、公職選挙法が想定しておらず、困惑している」と回答があった。

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