安曇野市の写真家がアラスカの大自然や野生動物を撮り続けています。
過酷な状況でも「地球といのち」に向き合う男性の思いに迫ります。
9月下旬の夜9時。
JR松本駅の階段を大きな荷物を抱えた男性が下りてきました。
「アラスカから来ました。アラスカ出たのは30時間ぐらい前ですかね」
「アラスカに写真を撮りに行ってました」
安曇野市に住む写真家の佐藤大史(だいし)さん39歳。
アメリカ・アラスカへの遠征を終え、1か月ぶりに帰国したところでした。
佐藤さん:
「最後、機内から見たオーロラですけどね」
「これもう雲の上なので天気に左右されずに見られるので」
カメラにはアラスカの大自然を切り取った写真が何枚も収められていました。
後日、佐藤さんの事務所を訪ねると、パソコンに向かって写真や動画の整理をしていました。
佐藤さん:
「ユーコン川のオーロラですけど、右が南なんですけど、一気に北に上がってきて、この辺になるともう多分カナダの上空なんですよね。自分の後ろの方に行くとロシアまで繋がってるので、オーロラはそういう意味では、国境もないので、面白いなと思いますけどね」
佐藤さん:
「子熊が3頭いる家族。子熊は本当にかわいい。こいつが一番甘えん坊で」
撮影に行くたびに出会うというクマの親子。
この家族をとらえた写真、なんとも朗らかな一コマです。
佐藤さん:
「お母さんが向こう見てるじゃないですか。あっちからオス熊が森から出てきて、この時期こういう家族が怖いのはオス熊なんですよね。なので、そっちをお母さんが警戒して、子どもたちも立ち上がって森の方見てるという絵柄はかわいいんですけど、家族としてはちょっと緊張の瞬間というか、ですね」
佐藤さんが写真家としてテーマに掲げているのが「地球といのち」。
そこで選んだのが、手つかずの自然が残るアラスカでした。
佐藤さん:
「生きるっていうことを感じることがすごく大事かなと思っていて、いろんな動物のリアルな表情であったりとか、命を見せて、その意識が回り回って地球にも届いていけばいいかなというような気持ちで撮ってるんですけどね」
東京出身の佐藤さんは大学で写真を学んだあと、女性ファッション誌のカメラアシスタントなど華やかな世界に足を踏み入れます。
佐藤さん:
「芸能人に会ったり、何か美味しいもの食べたりするんですけど、あんまりときめかなくって、やっぱり自然写真が好きで。食ってくの大変じゃないですか自然写真って。山小屋で働いてちょっとお金貯めながら、自分なりに熱量を測るというか」
北アルプスの麓、安曇野市に移住し2013年に独立。
アラスカの写真集やカレンダーなどを出版するかたわら、市内の田園風景も撮り続けています。
帰国から1週間後、佐藤さんは稲刈りの撮影に出かけました。
農家とのやり取り:
「この(田んぼ)1枚で何分くらいかかるんすか?」
「40分位ですかね」
写真集やフォトエッセーとして1冊にまとめることも視野に入れた活動。
しかし近年、田んぼが宅地化されたり、商業施設に生まれ変わったりしていく現状も伝えていきたいと強く思うようになりました。
佐藤さん:
「最初は本当に農村風景というか、ノスタルジックな光景そのものに惹かれてたりもしますけど、そこの風景がずっと続くと、うっすら思ってたわけなんですけど、変容せざるを得ない部分を受け入れるとともに、変わらないで欲しいなみたいなのってあって、何のためにシャッターを切るのかちょっと意味合いが変わってきた部分はありますね」
農家とのやり取り:
「いい写真撮れました?」
「なかなか何枚かは本当に撮りました。はい最後ここがすごい感動的ですね」
「それ『命』ですからね、本当」
自由に気ままに飛び回っているように見える佐藤さんですが、家に帰れば良きお父さんです。
家族ができたことでアラスカでの撮影も意識が変わったといいます。
佐藤さん:
「フィールドこっち行ったら危ない、危ないけどこっち行ったらいい画が撮れそうだなって思ったときに、でも危なすぎるかなというふうに思って引き返すとかってことは出てきましたかね」
妻 香織さん:
「もちろん寂しさとか不安も正直ありますけど、元々そういうお仕事をしてるってわかっていて結婚もしているので、応援する気持ちで基本的にはいます」
家族の支えも受け、佐藤さんは次の目標に向け動き始めました。
緯度の高いアラスカでは夏至の前後、24時間太陽が沈まない白夜(びゃくや)が訪れます。
佐藤さん:
「深夜1時半ぐらいに地平線に近づくんですけど、それを境にだんだんだんだん、沈まずに上がってちゃう。日記つけて時計見てないと、今日は何月何日かが白夜の頃はわかんないですね」
「白夜は結構今まで撮ってきたので、次はその逆の『極夜』(きょくや)っていうのは、もうどうしても撮りたいと思っているので、自分の次の壁というか、次の大きなプロジェクトかなと思ってますけどね」
白夜の逆で北極圏では冬至の前後の12月から1月にかけ太陽が全く昇らない「極夜」が続きます。
その漆黒の世界をこの冬撮影に行こうというのです。
11月6日、安曇野市のレストランで佐藤さんと、同行する3人のメンバーが渡航に向けた準備を行っていました。
なぜレストランかというと…
厨房に行き…
入ったのは大きな冷凍庫です。
「これは何やっているんですか」
「これは今現地はマイナス30とか想定してるので、マイナス40ですとか、今の格好でどのぐらい寒いのか、体のどこから冷えてくるのかみたいな、それぞれ人によって違うもんですからそれを体感してもらってるところです」
氷点下45度も想定されるという極寒の世界。
冷凍庫の中の温度は氷点下18度ほどと、アラスカほど低くないですが、フェイスマスクや高機能のジャケットを着用して念入りに体験を行いました。
女性メンバー:
「顔の付近ですね、特に風が当たったときに、ちょっとこれじゃ物足りないので、もう少しこの辺を覆いたいのと、風が吹いた場合はゴーグルしないと本当に顔が凍傷になるなというような感じでした」
佐藤さんにとって今年3度目となるアラスカ渡航。
12月10日に旅立ちます。
佐藤さん:
「写真って光がないと撮れないので大変なんですけど、そういう光のない世界に行って何が写るのかな、何を感じるのかなっていうのを体感しに行くような感じですね」
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