『49.3%』。摘発された高齢者の犯罪のうち、窃盗が占める割合です。

軽微な犯罪を起こした高齢者をどう処遇するかが、課題になっている中、札幌市の高齢者施設では、刑罰ではなく、福祉で支えることを理念に、犯罪を起こした高齢者も積極的に受け入れています。

北海道札幌市白石区にある施設。一見すると、普通の高齢者施設です。

Aさん(81)
「おはようございます」

両手にたくさんのごみ袋を持って部屋を出るのは、約1年前に入居した81歳の男性、Aさんです。

 施設のごみ出しを毎朝行うAさんは、職員たちからも頼りにされています。

このAさん、過去に万引きを繰り返していました。その原因は、“認知症”。

自分のやったことがわからないと話すことも多くあります。

(ここに来たのはなぜか覚えている?)
Aさん(81)
「…なんで来たかな」

 (店で何したか忘れた?)
Aさん(81)
「なんかとった?違う?今度したら牢獄…」

この施設は、Aさんのような法律を犯した人も受け入れる、“入口支援”を行う施設です。


障害者や認知症などの人が事件を起こし、不起訴や執行猶予などの判断が出た際に、再犯防止のため、福祉につなげる支援です。

刑務所などで更生を図る出口支援に対し、“入口支援”と言われています。

 Aさんを受け入れたこの施設を運営する代表の石田幸子さんです。

石田さんは、認知症の人の再犯防止には、「刑罰より福祉が必要だ」と話します。

触法者の支援をする「アルワン」 石田幸子社長
「刑務所に入っても何も分からない。何も変わらない。決まりが守れなくて、刑期が決まっているのに出られない。そういう人を入口で支援しようと」

施設に来る前の2023年1月、認知症を発症していたAさんは万引きをしてしまい、裁判で執行猶予判決が下りました。

しかし、その後も再犯してしまいます。

この時すでに、出口支援を行なっていた石田さんに声がかかりました。

「福祉につなげることがAさん自身に必要だ」と考えた石田さんは、裁判で施設に受け入れることを証言しました。

こうして、Aさんの今の生活が始まりました。


Aさん(81)
「手だってこれ、(肌が焼けて)真っ黒だよ。自転車乗るからね。すごいでしょ。(ハンドルを握る)ここだけ白い」

Aさんの日課は、自転車での散歩。81歳とは思えない脚力です。

 実はAさん、施設に来てからも、何度か万引きをしてしまいました。

施設はチラシを配り、地域の人に協力してもらえるよう説得しました。

認知症の人を犯罪者にするのではなく、周りの目で守っています。

 自転車に乗るAさんに記者がついて行きますが、置いて行かれてしまいます。

記者
「すみません。待っててくれて、ありがとうございます」

自転車が大好きだというAさんですが、一時期、迷子になってしまうことも。

取材していたこの日、1時間たっても施設のまわりで姿が見えませんでした。

すみれの花 西田和弘 施設長
「自転車に電話番号、住所などすべて書いてある」

Aさん、無事に帰って来ました。

(どこら辺まで行っていた?)
Aさん(81)
 「この辺ぐるっと…」

その翌日は、あいにくの雪。

(大好きな自転車は?)
Aさん(81)
「乗らない。雪だからダメ」

大好きな自転車も断念。

すみれの花 西田和弘 施設長
「夏だと午前3時半、4時とかに出て行く。朝ごはんにいない。どうしたのかなって思っていると、午前8時ごろに石狩の消防署や、小樽の警察、定山渓、新千歳空港を越えて奥まで」

 そこには、遠出する理由がありました。

(妻に会いたいですか?)

Aさん(81)
「顔見たいよね。妻がいれば一番いいけど」

遠く離れて暮らす妻に会いに行こうとしたのです。しかし、認知症のため、全く違う方向に行ってしまい、何度も交番へ。

すみれの花 西田和弘 施設長
「高速道路を使って迎えに行き、高速道路で帰るのを2023年の夏の間はずっと」

1日の終わりにビールを飲むのが楽しみなAさん。

「夫に飲ませてほしい」と、Aさんの妻の仕送りで買ったものです。

Aさん(81)
「ビール飲めるのが一番うれしい。よかったな、よかったなって」

すみれの花 西田和弘 施設長
「もう(店に)行かなくていいね」

Aさん(81)
「あーおいしい。おいしいですよ」

Aさんは、この日一番の笑顔で、ビールを味わっていました。

そんなAさんにとって、この施設とは…。

Aさん(81)
「きょうはよかった。ここに来ているときはすごくいい」

(来年の目標は?)
Aさん(81)
「体悪くならないように頑張る。それが一番」

触法者の支援をする「アルワン」 石田幸子社長
「この人を『刑務所に入りなさい』と言って変化があるのか。認知症なのに」

 触法者の支援をする「アルワン」 石田幸子社長
「何が何だか分からなくて、(裁判所で)腰縄で出てきて当事者の席に座って、裁判長が(話を)聞いても答えられない。そういう状態で裁判をするのは本当に必要なのか」

Aさんのように法律に触れてしまった人でも「誰でも受け入れる」と話す石田さん。

石田さんたちの活動が、福祉の力で再犯防止につながっていることを証明しています。

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