能登半島地震での被害をふまえ、東北大学が中心となって津波被害の予測を行うシステムの開発を進めています。「想定外」の被害を減らすため研究されているこのシステムとは一体、どんなものなのでしょうか。

「津波災害デジタルツイン」とは

東北大学災害科学国際研究所 越村俊一教授:
「(地震の)データが得られれば、比較的短時間でAIによって判定することが可能になりつつある」

東北大学災害科学国際研究所 越村俊一教授

3月9日、仙台市で行われた「仙台防災未来フォーラム」で、あるシステムに関する発表が行われました。東北大学災害科学国際研究所の越村俊一教授らが開発を進める「津波災害デジタルツイン」です。

東北大学災害科学国際研究所 越村俊一教授:
「仮想世界の予測の結果が、どのくらい実際の物理世界の状況と整合しているのかというチェックを行っている」

「津波災害デジタルツイン」とは、どんなものなのでしょうか。

「デジタルツイン」に関して国は、現実世界と対になるふたご(ツイン)をデジタルの仮想空間上に構築し、モニタリングやシミュレーションを可能にする仕組みと説明しています。

つまり、東北大が開発を進めているシステムは、現実のデータをもとに、仮想空間上で、津波が発生した場合の被害を再現するものです。地震が発生すると、システムは、マグニチュードや震源の情報に加え、地殻変動のデータなどを自動で取り込みその後、スーパーコンピューターが、地震を仮想世界で再現。20分後には津波の浸水範囲を予測できるというものです。

例えば、東日本大震災での石巻市への津波を仮想空間で再現すると…。

東北大学災害科学国際研究所 越村俊一教授:
「右側の現実世界のデータ、これは地殻変動。地殻変動の情報を自動的に入手してそこから断層の破壊というものを予測する。その結果が左の津波の予測に活かされている」

きっかけは東日本大震災

システム開発のきっかけは、13年前の東日本大震災でした。

東北大学災害科学国際研究所 越村俊一教授:
「東日本大震災が発生した時というのは、このようにリアルタイムで、例えば津波の被害を予測するっていうシステムはまだ動いてなかった。存在していなかった。そのために、被災地が立ち直るためにはかなり時間がかかってしまった。そこがやっぱり我々にとっての原点で、まずはできるだけ早く被害の状況を予測しようということに取り組んだ」

被害をいち早く把握し適切な避難行動につなげることができるため、システムの開発は「想定外」の被害を減らすことにつながるといいます。

東北大学災害科学国際研究所 越村俊一教授:
「実際の世界で観測され得られたデータをもとに予測をするので、そういう意味では、想定外をなくすという1つの目標に近づくということは言えるかもしれない」

能登半島地震での教訓

1月の能登半島地震で高さ4.7メートルの津波が到達した石川県能登町。地震で道路が寸断し、職員が駆けつけることもままなりませんでした。

能登町 大森凡世町長:
「(職員の)だいたい3分の1くらいしか役所に来ていなくて、情報収集というのが非常に困難な状況でした」

地震発生の30分後には日没となり、細かい状況を把握できたのは、翌日になってからでした。

能登町 大森凡世町長:
「次の日には、津波がきていてひどいことになっているという情報だけは入っていた。はやく情報が欲しいのですが、情報が得られないというところでもどかしさがありました」

一方、越村教授らのシステムがカバーできる範囲は、去年末までに太平洋沿岸を中心に広がっていましたが、日本海側は開発の途中でした。

そこで、越村教授は能登にも範囲を拡大するため、予測と実際の被害を調べるべく現地を訪れました。事前のシミュレーションでは、このエリアの浸水の深さは最大2.5メートルから3メートルとなっています。

東北大学災害科学国際研究所 越村俊一教授:
「シミュレーションの結果が、整合しているなというのがある程度確認できた」

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