日本の食卓に欠かせない「漬物」についてです。
宮崎県内のお店や道の駅などでは、農家さんたちが手作りした漬物が並んでいますが、漬物を製造・販売する際の衛生基準が今年6月から厳しくなるのはご存じでしょうか?

2012年、北海道で浅漬けを食べた8人が死亡するなどの集団食中毒が発生したことによる漬物の衛生基準の見直しや、国際化に対応していこうと、2021年に食品衛生法が改正され、販売する漬物の製造は国の許可制になりました。

これに伴い、3年間の移行期間が終わる今年6月以降、許可を得ていない業者は漬物の製造ができなくなります。

また、販売許可を得るためには「HACCP」という「国際基準」を基にした衛生基準をクリアしなければなりません。

そのために、業者によっては、設備の見直しや自己負担で施設の改修などが必要となります。

こうした負担から、漬物を手作りし道の駅などで販売する人たちの中には、6月以降、漬物の販売をやめる人も出てきています。

郷土の味はどうなるのか、業者を取材しました。

長年、生産者がコツコツ作ってきた味がなくなる なんとかならないか

宮崎市田野町にある「田野物産センターみちくさ」。

売り場には、地元の農家や個人が手作りした高菜やキュウリの漬物などがずらりと並び、店の人気商品の一つとなっています。

物産センターに、開業当時から20年以上にわたって手作りの漬物を出荷している児玉ムツコさん(78歳)。

(児玉ムツコさん・78歳)
「今、時期として、高菜が多いんですね。その日によって、3品くらいずつ毎日、出すようにしてます」


毎日出荷し、その日のうちに売り切れてしまうという児玉さんの漬物。
しかし、児玉さんは今回の食品衛生法の改正をきっかけに、漬物の製造を来月をもってやめることを決めました。

漬物の販売を続けるためには、自己負担で、設備の改修を行う必要があるからです。


(児玉ムツコさん・78歳)
「健康状態も考えまして、ここ辺が限度じゃないかなって思っているんです。毎朝来るのが楽しみで、来てみると棚が空になってるから、残っていても、ぽつぽつというくらいでしょ。頑張ることができるお店でしたよ」


(田野物産センター 柿内勝美さん・65歳)
「まだ、もうちょっとあるけど、長い間ご苦労さまでした」
(児玉ムツコさん・78歳)
「ありがとうございます」


児玉さんの漬物をよく買っていたという常連客は…

(来店客)
「おいしいですよ、このおばちゃんのはね。昔の人はやっぱり漬物がないと、ご飯が食べられないもんね。ほんとさみしいですよね」


物産センターの担当者によりますと、法改正をきっかけに漬物の製造・販売をやめる人は児玉さん以外にもいるということです。

(田野物産センターみちくさ 柿内勝美さん・65歳)
「年齢的に高齢の方が多く、今からお金があんまりかけられないということで、うちでも2、3人の方が今回でやめられるっていうことになっています。長年、生産者の方がコツコツ作ってきた味がなくなるということで、物産センターとしては残念で、なんとかならないかという気持ちでいっぱいです」

「野菜を作ってお漬物を出すのが、今の私の励み」

一方、厳しくなる衛生基準に対応し、漬物の製造・販売を続ける人も…

国富町にあるJA宮崎中央の直売所「わちどんが村 式部の里」に漬物を出荷している甲斐知保子さんと渡邉征子さんは、設備の改修などを行いました。

(甲斐知保子さん・69歳)
「私の場合は、水道の元から水道工事までしたんですね。だから、十何万ぐらい、かかりました。大変なんですけど、野菜を作ってお漬物を出すというのが、今の私の励みになってますので」

(渡邉征子さん・81歳)
「みんなが私が漬ける漬物やらを待っててくれるんですよ、『もう、できますか?』とか。だから、それを楽しみに。私も年齢もいっているし、どうしようかなと迷ったんですけど、作るようにしました」

「漬物があれば、おかずはいらない」そういう人のために作っていきたい 

今回、友人2人と漬物やあくまき、それに、ドレッシングなどを手作りしている渡邊さんに製造現場を見せてもらいました。

(渡邉征子さん・81歳)
「水道のところを『これ(蛇口)を変えなさい』って言われたんですよ」

法改正に対応するため、新たに、指先を触れずに開け閉めできる蛇口に取り替えました。

改修費用は数万円で済み、その後、保健所職員の立ち入り検査を経て新たに許可を取得しました。

渡邊さんは、これからも郷土の味を食卓に届けていきたいと意気込みます。

(渡邉征子さん・81歳)
「漬物は、昔からみんなが好んで漬ける、たくさんの人が食べる漬物だと思うですよ。漬物があれば、おかずはいらないというくらいですもんね。だから、みんなで、そういう人のために作っていきたいと思っております」

地域や作り手によって違った魅力がある「漬物」。
衛生基準の見直しだけでなく、各地で受け継がれてきた食文化を残していくための議論も求められます。

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