アメリカ大統領選挙の結果を大きく左右するといわれているのが、若者、そして女性たちの票です。主要な争点となっている中絶問題の現場を取材しました。
「卵1パックで約900円、これがバイデンのアメリカ」トランプ氏を支持する若者
首都・ワシントンの名門校、アメリカン大学の学生を訪ねた。
ジョエル・プリティキンさん(19)は、この日、友人たちと自宅に集まっていた。友人2人はアメリカン大学の同級生だ。
――皆さんはよく政治について話しますか?
「常にね」
「もちろん。ワシントンDCではみんな政治について考えているよ」
「ここから少し歩けば、国会議事堂などもあるからね」
――誰に投票しますか?
プリティキンさん
「僕はもうトランプに投票したよ」
プリティキンさんの友人
「僕は保守なのでトランプに投票するよ」
学生にトランプ氏を支持する理由を聞いてみると…
プリティキンさんの友人
「トランプは中東に平和をもたらした。バイデン政権下でウクライナやイスラエルの戦争が起こったでしょ?トランプの方が外交上手。支離滅裂にみえるけど、うまく外交をする方法を知っていると思う」
プリティキンさん
「トランプ政権の4年間は、この4年間よりも景気が良かった。アメリカはもっと安全で、国際情勢も安定していた」
プリティキンさんは、バイデン政権下で物価高が進み、生活が苦しくなったという。
プリティキンさん
「卵1パックで6ドル(約900円)。これがバイデンのアメリカだよ。物価高の前は1ドルちょっと(約150円)で買えたのに。全てが高くなっているよ」
授業のない日は共和党下院議員の事務所でインターンとして働いている。それでも、日々の食費と家賃を払うのに精一杯だ。
――家賃はいくら?
「家賃は1570ドル(約24万円)。それでもこのビルでは安い方。食事付きのプランにしたら、倍くらいかかる。だから自炊するようにしています」
――普段なに食べるの?
「チキン、卵、冷凍のグリーンピースも大好きです。おいしいですよね」
――牛じゃなくてチキン?
「安いから。卵も高いし、お米も高いです。お米のパック、電子レンジで温めるものだけど、これ2つで3ドル(約450円)ですよ。信じられますか?」
物価高はいつまで続くのか。若者たちは、将来への不安を抱えて投票に足を運ぶ。
プリティキンさん
「日々の食費と家賃を払うのに精一杯なのに、これから家や家族を持てるのかとても不安です。共和党なら若者でも家が持てる、民主党では生活が厳しい。だから私は共和党に投票します」
中絶問題に最大の関心 ハリス氏支持の女性「トランプのことは嫌い」
一方、民主党・ハリス陣営は、激戦州のペンシルベニアで集会を開いた。
村瀬キャスター
「盛り上がっています。音楽がかかっていて、政治集会とは思えないくらいです」
激戦州の中で、最も人口が多いペンシルベニア。この州で勝利した候補が、大統領選を制するともいわれているのだが…
激戦州の中で、最も人口が多いペンシルベニア。この州で勝利した候補が、大統領選を制するともいわれているのだが…
村瀬キャスター
「若い人が多く、高校生から大学生、若い人、しかも女性が沢山来ているのが特徴的です」
まだ選挙権がない女性の姿もあった。
――初めての投票ですね?
18歳の女性支持者
「はい。彼女の政策と国民に対する姿勢、この国を良くしたいと思っているところが好きです」
――トランプはどう思う?
「トランプのことは嫌いです。嫌い」
――この選挙で一番大切な問題は何ですか?
ハリス氏の女性支持者
「女性が自分の身体について自ら決める権利、それから銃規制です」
大接戦の鍵を握る若年層では、女性からの支持率でハリス氏がトランプ氏を38ポイントも上回っている。一方、男性はトランプ氏支持が13ポイントを上回り、男女差が最も大きい世代だ。
ハリス氏を支持する女性達の最大の関心は中絶問題だ。
ハリス氏の女性支持者
「私の姉妹は子宮外妊娠をして中絶手術を受けました。中絶できなければ、彼女は死んでいたかもしれない。女性の権利のために戦うハリスに感謝します」
ハリス氏の女性支持者
「女性は自分の体について自ら決める権利を持つべきだし、政府・特に男性がそれに口出しするべきではない。中絶する権利を奪うことは女性の安全を脅かします」
女性達の駆け込み寺 “中絶クリニック”前で反対派が説得活動
イリノイ州南部の街・カーボンデール。州境に近い場所に、近隣の州に住む女性達の駆け込み寺となっている人工妊娠中絶専門のクリニックがある。
村瀬キャスター
「クリニックの前の道路で2人が座り込みをしています。中絶に対する反対活動をしている人だと思います」
胸の小型カメラでクリニックに入る患者の写真を撮影し、人種や車のナンバーなどを記録していた。車を停めた患者に対し、中絶を思いとどまるよう説得するという。
――なぜ中絶に反対ですか?
スコット・デイヴィスさん(69)
「中絶は安全だとはいえない行為です。私たちは助けるためにここにいます。中絶は“殺人”です。神は『汝殺すなかれ』と言っています」
――気を変えさせるために、人形を患者に見せる?
「はい、そうです。どんな危険なことをしようとしているのか、わかってもらうためです」
――レイプの場合も中絶すべきではない?
「強制的に中絶した女性の自殺率は6倍にもなります。精神が壊れるのです。強姦の罪を子どもにだけ科し、処罰していることになるのです」
取材をしていると、クリニックの院長が現れ、道路の向かい側に立った。
アンドレア・ガイェゴス院長(42)
「ここに立って、患者が中に入りやすいようにしています。患者の多くはナンバープレートなどが記録されているのに気づき動揺します。養子の情報を見せられ、怒る人もいます」
――道路のあちらとこちらで分断されている?意見も異なっている?
「そうですね。正しいです」
院長と反対派との間で、口論が始まった。
反対派「あなたは、苦境に陥っている女性から稼いでいるでしょ?」
院長「あなたも同じじゃない?」
反対派「困っている人からはもらってないわ」
院長「あなたも誰かの選択肢を奪うことで稼いでいるわ」
抗議活動は、ほぼ毎日行われているという。
厳重なセキュリティが敷かれているクリニック内部の撮影が許された。
アメリカでは1973年から中絶が憲法上の権利として認められていた。しかし、トランプ政権下で保守派の判事が相次いで最高裁に送り込まれた結果、2年前にそれが覆された。
ケンタッキー州やテネシー州など周辺の州で中絶が禁止されたため、女性達が州境を越えてやってくるのだという。
アンドレア院長
「土曜日はいつも忙しいです。州外から移動しやすく、子どもを預けたり仕事を休みやすいからです」
――たくさんの患者を受け入れている?
「1か月に400~500人の患者を診ることは珍しくありません。かなり多いですよね。その90%以上を他の州からの患者が占めていて、イリノイ州の患者はそれほど多くありません」
中絶は手術を選択した場合も、薬を服用した場合も、日本円で9万円ほど。
「すでに子どもがいて、育てられない」レイプ被害者や10代患者も…
アンドレア院長はもともとテキサス州でクリニックを開設していたが、中絶が禁止され経営ができなくなった。そこで周辺の州からアクセスしやすいイリノイ州に移ってきたという。
この日、クリニックに来ていた患者に話を聞くことができた。
――なぜ中絶を選択されたのですか?
「すでに子どもが2人いて、これ以上子どもを育てられないからです。十分厳しいです。もう1人は無理です」
――経済的に?
「はい。精神的にも」
レイプの被害者や、10代の患者を診ることも多い。最年少の患者は12歳だったという。
アンドレア院長
「夜勤を終えて車に乗り込み運転し、駐車場で仮眠してくる患者もいます。ここで処置を終えると、またすぐ車に乗り込み運転し始める。翌日の夕方には仕事に戻らなければいけないからです」
――トランプ氏が再選したら?
「彼にはこのような事態を招いた責任があります。全国的に中絶を禁止すべきかどうか、判断が行き来していますが、少なくとも彼に命と健康の問題を託すべきではありません。彼が再選された場合、何が起こるかとても怖いです」
同じ街に、産前・産後の女性たちの支援センターがある。
支援センターのチャスティティ・メイズさんは、寄付されたオムツやミルク、チャイルドシートなどを配り、州外からやってくる中絶希望者のサポートもしている。
メイズさん
「酷いことが起こっています。最近ではジョージア州・アトランタでも、女性が亡くなった例が複数ありました。女性は流産していたのに、体内から取り除く処置が受けられず、敗血症を起こしていました。それが中絶になるとして医師は処置しなかったのです」
カーボンデールは小さな街であるため、タクシーやバスなど公共の交通手段が少なく、列車でやってくる患者の送迎をメイズさんが行う。
メイズさん
「アムトラックの駅です。朝3時に患者を迎えに来ます」
――トランプ氏が再選したらどうなる?
「まず、中絶の問題では女性が選択する権利を奪われるでしょう。さらにトランプは人種差別主義者たちを大胆にし、彼らは差別を露骨にできるようになると自信を得るでしょう。少数派はトランプが再選されれば、深刻な影響を受けると思います」
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