中国の富豪ランキングに異変が起きている。中国のシンクタンク「胡潤研究院」が公表した2024年版企業家長者番付で、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する字節跳動(バイトダンス)の創業者、張一鳴氏(41)が資産額3500億元(約7兆5000億円)で首位となった。グローバル進出に積極的なベンチャー経営者の躍進が目立つが、米中対立などの国際情勢を背景に不安要素も抱えている。
張氏は初の首位。TikTokの業績が好調で、バイトダンスの23年の全世界売上高は前年比30%増の約1100億ドル(約16兆8000億円)以上とされ、成長を続けている。
バイトダンスの最高経営責任者(CEO)を21年に退任したが、1980年代以降生まれのベンチャー経営者としては、過去最大の資産を保有しているという。
業績好調の一方で、米国では今年4月、バイトダンスが米国事業を非中国企業に売却しなければアプリ配信を禁止する法律が成立した。「表現の自由に反する」としてバイトダンス側も撤回を求めて提訴し、法廷闘争に突入した。収まる気配のない米中対立の余波を受けた形だ。
2位は大手飲料メーカー、農夫山泉の鍾睒睒(しょうせんせん)氏(69)。資産額は3400億元(約7兆3000億円)だった。中国で名を知られた資産家だが、今年4~6月期の業績が伸び悩み、3年連続だった富豪首位の座を明け渡した。
農夫山泉を巡っては今春、一部商品に日本風の建築物がデザインされているという「親日」批判や、鍾氏の息子が米国籍であることについて反発する声が中国のSNS(ネット交流サービス)上で高まり、製品ボイコットが呼びかけられて株価が急落していた。
3位は、ネットサービス大手・騰訊控股(テンセント)の共同創業者、馬化騰(ポニー・マー)氏(53)で、3150億元(約6兆7500億円)。テンセントはゲーム、広告、クラウド事業が好調だった。メッセージアプリ「WeChat(ウィーチャット、微信)」の運営でも知られる。
4位は、格安の電子商取引(EC)サイト「拼多多(ピンドゥオドゥオ)」の創業者、黄崢氏(44)で、資産額は2450億元(5兆2500億円)。海外向けには「Temu(テム)」を展開する。
価格の安さと積極的な広告戦略で世界を席巻しているが、Temuに対し、欧州連合(EU)欧州委員会が10月31日、巨大IT規制のデジタルサービス法(DSA)に違反した疑いで調査を始めると発表した。
好調な企業業績を背景に資産を増やす企業家もいる一方、中国経済の低迷を反映してランキングの対象となる資産50億元(約1000億円)以上の企業家は、昨年から147人減って1094人になった。不況が続く不動産業界や、米国から制裁を受けている太陽光発電関係の企業家が順位を落とした。
胡潤の創業者で、調査の責任者であるルパート・フーゲワーフ氏は「中国は過去5年間で構造が大きく変化し、富裕層リストも更新された。以前と比較して新世代の最大の違いは国際化だ」とコメントしている。
中国の新世代企業家は、革新的なサービスでグローバル進出も進めるが、各国との摩擦は引き続き課題となりそうだ。【松倉佑輔】
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