米国のトランプ前政権で大統領首席補佐官などを務めたケリー海兵隊退役大将が米メディアのインタビューで、トランプ氏について「ファシストに分類される」「『(ナチス・ドイツの指導者)ヒトラーは良いこともやった』と語っていた」と発言したことが波紋を広げている。トランプ氏が11月の大統領選で返り咲きを果たせば、1期目以上に強権的になるとの懸念が強まっている。
ケリー氏は22日公開の米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューで、ファシストの定義として「極右の権威主義者、極端な国家主義、独裁的指導者に特徴づけられた運動、軍国主義、反対派への強制的抑圧」などを列挙。「私の経験では、トランプ氏はこうしたことが米国を治めるのに有用だと考えている。彼は極右的な立場で、権威主義者でもあり、ファシストの一般的な定義に当てはまる」と指摘した。
米誌アトランティックのインタビューでは、在任中のトランプ氏とのやりとりを明かした。トランプ氏は「ヒトラーは良いこともやった。経済を再建した」「ヒトラーの下にいたような(忠誠心があり、命令に従う)将軍が必要だ」などと語っていたという。
ケリー氏の一連の発言を受けて、大統領選でトランプ氏と対決する民主党のハリス副大統領は23日に演説し、「トランプ氏は絶対的権力を欲している。2期目に入れば、もうケリー氏のようにガードレールになれる人はいない」と警告した。
一方、トランプ陣営の広報担当者は「(ハリス氏の)こうした危険なレトリックは、トランプ氏に対する複数の暗殺未遂の原因として非難されるべきだ」と反論。ケリー氏についても「でっち上げの話をして道化になっている」と批判した。
ケリー氏が大統領選直前に警鐘を鳴らしたのは、「第2次トランプ政権」が誕生した場合の危機感が背景にある。
トランプ氏は今月、FOXニュースとのインタビューで、外国勢力による大統領選の妨害への懸念を問われた際、「より大きな問題は内なる敵だ。必要なら州兵、さらに必要なら軍が容易に対処できるだろう」と指摘。「内なる敵」の例として、在任中に自身を厳しく批判した民主党のペロシ元下院議長やシフ下院議員を挙げた。以前から政敵に対する「報復」を公言してきたが、選挙を前に「内なる敵は中国やロシアより危険だ」と過激化している。
「大統領は何でもできる。それだけの権力があるのだ」と公言し、専制主義国家の指導者を称賛するなど、トランプ氏は以前から強権的な傾向が強かった。第1次政権ではケリー氏ら歯止めになるような側近もいたが、大半はたもとを分かった。共和党もトランプ氏の根強い人気には逆らえず、「物言えぬ雰囲気」が強まっている。【ワシントン秋山信一】
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