日本ではパート就業というと「雇用の調整弁」のイメージが強いが ACworks/photoAC

<日本では女性が結婚・出産でいったん正社員を辞めてパートになるとそこからフルタイムに戻るのは難しい>

働くというと、週5日、9時から17時までの8時間労働を想起する。いわゆるフルタイム就業だ。しかしそれよりも短い時間の契約で働く人もいて、諸外国ではそうしたパートタイム就業が広く浸透している。

学校現場を見ても、教員の半分以上がパートという国もあるし、その多くが契約期間の定めがない無期雇用だ(日本だと1年未満の有期雇用が大半)。就業時間にも幅があり、自分の希望や能力に応じて様々な職務を分担し、その多寡や内容に応じて給与にも傾斜がつけられる。日本では、パートというと待遇面で虐げられた「雇用の調整弁」のようなイメージが強いが、海外では働き方の一形態として認められている。

ライフステージに応じて、働き方を調整する人は多い。手のかかる幼児がいる場合、夫婦はどういう選択肢をとるべきかと尋ねた結果を、国ごとに比べると<図1>のようになる。


 

日本では「母は在宅、父はフルタイム就業」という回答が最も多く、スウェーデンでは「母も父もパート就業」が最多だ。男女ともフルタイム就業率が高いスウェーデンだが、子が小さいうちはパートにとどめ、後からフルタイムに戻ればよい、という考えなのだろう。他国では「母パート、父フルタイム」という答えが多いが、子が大きくなったら、母もフルタイム就業に復帰することが想定されているのかもしれない。

残念というか、日本ではこういう選択肢は一般的ではない。フルタイム(正社員)の職を辞してパートになり、後になってまた戻るのは容易でない。それは、フルタイム就業者の割合を年代ごとに出し、線でつないだグラフにするとよく分かる。<図2>は、日本・アメリカ・スウェーデンの3カ国の比較だ。


 

6本の折れ線が描かれているが、日本の女性だけが明瞭な右下がりになっている。結婚・出産により正社員を辞し、パートや家事労働に移る人が多いためだが、後から戻ろうにも戻れない「片道切符」型だ。

他の2国の女性は違っていて、アメリカでは30代から40代にかけて増え、スウェーデンでは40代までは一貫して増え続ける。子育てが一段落してからフルタイム就業に就く(戻る)人が多い。日本の右下がりの線を見たら、さぞ驚くだろう。「日本の女性は、結婚して子を産もうとは思うまい」と。片道切符型のライフコースを変えることは、未婚化・少子化対策の上でも大きな位置を占める。

むろん、パートといった柔軟な働き方を否定するものではない。日本では、フルタイムとパートは「正規・非正規」というような身分差と重なってしまっているが、海外では、(自分で選んだ)労働時間の差でしかない。同一労働同一労働を徹底し、かつ「正規・非正規」というような呼称は改める時期にきている。

これから少ない労働力で社会を回していくことになるが、長寿化により、親の介護といった事情を抱える人も多くなる。柔軟な働き方に、市民権を与えるべきだ。人口減少社会を持続可能にするための条件でもある。

<資料:「ISSP 2012 - Family and Changing Gender Roles IV」、
    「ISSP 2020 - Environment IV 」>


 

【関連記事】
年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
公的調査では見えてこない、子どもの不登校の本当の理由

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。