10月8日、 ハリケーン「ヘリーン」が米南東部に大きな被害を及ぼしたことで、米大統領選を前に連邦政府の緊急対応体制に注目が集まっている。写真は同日、ノースカロライナ州マーシャルで、ヘリーンで被災した地域のがれきの撤去支援に入る陸軍兵士ら(2024年 ロイター/Eduardo Munoz)
ハリケーン「ヘリーン」が米南東部に大きな被害を及ぼしたことで、11月5日の米大統領選を前に連邦政府の緊急対応体制に注目が集まっている。
ノースカロライナ州やジョージア州など被災地の復興には何カ月も要する可能性があり、大統領選の民主党候補ハリス副大統領もしくは共和党候補トランプ前大統領が来年1月の就任後にその任務を受け継ぐことになるだろう。
米南部には現在、大型ハリケーン「ミルトン」も接近しており、異常気象が頻発する状況になっている。
バイデン政権下では、連邦緊急事態管理庁(FEMA)が災害に備えた耐性強化と災害支援プロセスの合理化に向けて大きな一歩を踏み出した。ハリス氏が勝利した場合、これらの政策は継続される可能性が高い。
トランプ前政権の災害救援に関する決定は物議を醸した。トランプ氏は、連邦政府の災害救援資金を国境警備など他の優先事項に振り向けようとした。2017年にハリケーン「マリア」で被災したプエルトリコの住民たちに向かって、ペーパータオルを放り投げて批判を浴びたのはよく知られている。
活動団体アンスロポシーン・アライアンスの戦略ディレクター、スティーブン・アイゼンマン氏は、米国の「エネルギー自給」を目指す共和党のスローガン「DRILL,BABY,DRILL(石油をどんどん掘れ)」を引き合いに、「(トランプ氏の)合言葉は『掘れ、掘れ、掘れ』であって『守れ、守れ、守れ』ではない」と語る。
「2つの(次期)政権(ハリス政権とトランプ政権)の政策には天と地ほどの違いがあるだろう」という。
不公平の是正
FEMAはバイデン大統領の下、災害救援の公平化に努めてきた。被災者に迅速な現金給付を行うため、煩雑な手続きを合理化したこともその1つだ。
全米洪水保険制度(NFIP)が、沿岸部に住む裕福な住宅所有者の保険料を事実上補助しているという批判を受け、バイデン政権下のFEMAは洪水保険料をより密接にリスクに連動させるよう、保険料の算出方法も大幅に変更した。
ただ、一部の保険契約者にとっては保険料の高騰につながる可能性があるとして、議員や消費者からは懸念の声も上がっている。
気候変動の危険性を長年訴えてきたハリス氏は、9月のトランプ氏との討論会で、自然災害の増加によって住宅保険への加入が難しくなっている事例があることを認めた。
大手保険会社は山火事やハリケーンなどの災害増加を受け、災害多発地域からの撤退や住宅保険料の大幅値上げに踏み切っている。
バイデン氏は、気候変動が社会的に疎外された人々に特に大きな打撃を及ぼしていることを認識し、対応措置を講じてきたとアイゼンマン氏は言う。たださらに多くの対策が必要だとも付け加えた。
「ハリス氏が少なくともバイデン氏と同じくらい積極的に事に臨み、できればそれ以上の行動を取ることを期待している」と語る。
プロジェクト2025
トランプ氏の大統領在任中、FEMAと災害救援はしばしば論争の的になり注目を集めた。
2021年の監察総監の報告書は、トランプ政権が17年のハリケーン「マリア」襲来に絡むプエルトリコへの支援金200億ドルの支払い遅延に関する調査を妨害したと結論づけた。
また2019年にハリケーン「ドリアン」が米南東部を進んでいた際、トランプ氏はハリケーンの予想進路にアラバマ州が入るよう油性マーカーで加工されたとみられる地図を示した。これは同州が直撃されるという誤った主張を同氏が行った後だった。
トムソン・ロイター財団はトランプ氏陣営に、FEMAと災害対応に関する計画について質問したが、回答はなかった。
トランプ氏の姿勢はともかく、保守派は以前から、国土安全保障省に属するFEMAは巨大化し過ぎて任務の遂行が難しくなっていると主張。ヘリーンのような災害後の復旧支援にあたっては、州や地域の一次救助者の権限を強化する方が望ましいとしている。
共和党の2024年綱領は米国のエネルギー自給に言及しているが、気候変動や災害救援に関する具体的な内容には踏み込んでいない。
保守系シンクタンクのヘリテージ財団が作成した「トランプ政権」の政策構想「プロジェクト2025」は、米国立気象局(NWS)が「予報業務を完全に商業化する」ことを提案している。
この文書はトランプ氏陣営にとって望ましくない政治的注目を集め始めたため、陣営は正式にプロジェクト2025との関係を否定した。しかしプロジェクトの著者リストにはトランプ前政権にいた人物が多数含まれており、ハリス氏陣営は、プロジェクトとトランプ氏との結び付きを強調している。
前出のアイゼンマン氏は、トランプ氏が1期目から方針を転換し、気候変動を優先課題にするかもしれないという望みを棄てていないが、転換する場合の動機は「自身の政治的な力を強める効果があると考えた場合」だと予測。気候変動対策を求める世論は、トランプ氏に方針展開を促すほどには高まっていないと指摘した。
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