国際社会の意向に反する拒否権行使に不満が高まっている SPENCER PLATT/GETTY IMAGES

第79回国連総会が9月10日に開会し、同月下旬には各国首脳らが集う一般討論演説が実施されたなか、国連安全保障理事会の改革が大きな議題として浮上した。重要な問いは、常任理事国数を拡大すべきかどうかだ。

拡大賛成派は、インドやブラジル、日本が常任理事国入りすれば、安保理は加盟国の代表としてよりふさわしい存在になると主張する。一方、反対派の警告によれば、拒否権を持つ常任理事国の増加は安保理の機能を損ない、今以上に無力化してしまう。さらに、現在の常任理事国5カ国の1つであるフランスは、人口規模が世界23位だ。インド、ブラジル、日本のほか、ナイジェリア、ドイツ、メキシコやトルコなど、常任理事国でない18カ国が人口でフランスを上回っている。常任理事国の増加に踏み切れば、さらなる拡大を求める声が上がるだろう。


どちらの意見もうなずけるが、改革は二者択一とは限らない。安保理体制や拒否権システムを見直せば、代表性を高めながら、より効果的な安保理を実現できる。

戦争や武力衝突が相次ぐ現在、安保理改革は喫緊の課題だ。常任理事国の拒否権行使は、国際的危機における国連の行動能力を著しく阻害している。国際社会が介入を圧倒的に支持する場合でさえ、そうだ。

ウクライナでの戦争がいい例だ。2022年2月のウクライナ侵攻を受けた国連決議案に、常任理事国のロシアは何度も拒否権を行使している。EUとアメリカは独自の対ロシア制裁を発動したものの、その他の国々の利害関係を考慮しない措置が多い。国連のお墨付きがないせいで、対ロ制裁の効果は大幅に損なわれている。

拒否権システムの原点は、第2次大戦後のリアルポリティック(現実政治)にある。1945年10月に国連が設立された当時、ソ連はアメリカ主導の多数決を危惧し、拒否権が必要だと主張。その後、アメリカも同じ「特権」を要求した。

69年までの拒否権行使回数は計115回で、90%以上がソ連によるものだった。アメリカは、初めて拒否権を行使した70年以降の行使回数が最も多い国になっている。その大半は、イスラエルに関する決議案だ。

現代では、国際社会で主流の意見に反する形で、拒否権が行使される事例が多い。この食い違いが不満を引き起こし、拒否権システムは不公正で非倫理的で、時代遅れだとの見方が強まる一方だ。

安保理は既に、現行のガバナンス体制によって、権限遂行能力や国際平和を維持する能力をむしばまれている。ならば、常任理事国の拡大は逆効果に思えなくもない。安保理の代表性向上と効力のバランスを取るには、常任理事国を増やすと同時に、意義ある拒否権システム改革が必要だ。

例えば、安保理を15カ国構成から20カ国構成(そのうち10カ国を常任理事国とする)に変更し、圧倒的多数の支持があれば、常任理事国の拒否権を覆す権限を認めてはどうか。これなら、さらなる行き詰まりを生み出すことなく、拒否権の効力を維持できるだろう。新規の常任理事国がシステムを悪用する事態を防ぐため、拒否権なしの常任理事国という枠を設けることもできる。


確かに、大国の特権に歯止めをかけるのは困難な課題だ。だが条件付きの拒否権でも、常任理事国は過度なまでの影響力を行使できるのだから、新体制は順応不可能なものではない。さらに、拒否権を覆す権限の付与は国連の正統性を強化し、ひいては常任理事国にとって利益になる。

安保理の代表性向上と効力の強化は相反しない。常任理事国を増やし、拒否権を制約するという2つの改革を同時に実行すれば、よりよい世界が実現するはずだ。

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魏尚進(ウエイ・シャンチン)
SHANG-JIN WEI
コロンビア大学経営大学院教授(金融学・経済学)。アジア開発銀行(ADB)でチーフエコノミスト、世界銀行では汚職対策の政策・研究のアドバイザーなどを歴任した。

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