オーストリア自由党のヘルベルト・キクル党首(9月29日、ウィーン)  REUTERS/Leonhard Foeger

<連立の行方はまだ不透明だが、移民反対でロシア寄り、ウクライナ支援反対という自由党の主張は国政にも影響を与え始めている>

オーストリアでは9月29日に総選挙が実施され、野党「自由党」が第1党となる見通しだ。ヨーロッパで極右政党が第1党になるのは、ナチスによる政権掌握以来およそ80年ぶりとなる。

世論調査では何カ月も前から自由党が他党をリードしていたが、カール・ネーハマー現首相が率いる保守派のオーストリア国民党との差はわずかだった。自由党は第1党となっても国を率いるには連立政権を組む必要があり、それが可能かどうかは不透明な状況だ。

自由党のヘルベルト・キクル党首は自らを「Volkskanzler(国民の宰相)」と称してきた。ナチスがアドルフ・ヒトラーに使ったのと同じ言葉だ。自由党の初代党首(1956~58年)を務めたアントン・ラインタラーは元ナチス党員。ナチス政権で農務相を務め、ナチス親衛隊(SS)に所属した経験もある。

ドイツの公共放送ドイチェ・ウェレ(DW)の報道によれば、自由党のミヒャエル・シュネルドリツ幹事長は自由党が第1党になるという暫定結果を受けて「有権者が声を上げた。この国は変革を求めている」と述べた。

AP通信によれば、オーストリアの公共放送ORFは今回の総選挙の結果について、90%の票を集計した段階で自由党の得票率が約28.9%、オーストリア国民党の得票率が約26.3%になる見通しだと報じた。中道左派の社会民主党がそれに次ぐ21%の票を獲得する見通しだ。

連立協議は難航必至

ネーハマーは9月29日に投票所が閉鎖された後、X(旧ツイッター)への投稿で「われわれは共に戦った!この国の安定と政治的中道のために。オーストリア国民党は多くの人が考えていたよりも健闘した。もちろん選挙が終わった後も、われわれは有権者に約束したことを守っていくつもりだ」と述べた。

本誌は29日に自由党およびネーハマーの広報担当者にメールでコメントを求めたが、返答はなかった。

米シンクタンク「ジオポリティカル・フューチャーズ」の上級アナリストであるアントニア・コリバサヌは本誌宛てのメールで、「議会で第1党になったからといって、自由党が政府に参加できる訳ではない」と述べた。「自由党との連立について慎重ながらも検討の可能性を示唆しているのは、オーストリア国民党だけだ」

最終的に自由党が政府を率いることはないかもしれないが、自由党人気の高まりは既にオーストリアの政治、とりわけ移民や欧州連合(EU)に対する意見、ロシアとウクライナの戦争などの問題に影響を及ぼしている。

コリバサヌは「オーストリア国民党は自由党とは異なり親EUで、ロシアに対するEUの姿勢を支持している」ものの、自由党への支持の高まりがオーストリア国民党による「より厳格な移民対策の導入と、シェンゲン協定地域をルーマニアやブルガリアにまで拡大する案への反対を決定づけた」と説明した。

キクル率いる自由党は6月の欧州議会選挙でも高い得票率を獲得しており、ほかの複数のEU加盟国でも極右政党が躍進した。自由党はEUに懐疑的で、亡命希望者に対するより厳しい規則の導入を要求。AP通信によれば、亡命の権利の一時停止や「招かれざる外国人の再移住」を呼びかけている。

ウクライナでの戦争についてはウクライナへの支援継続に批判的で、ロシアへの制裁を終わらせるよう呼びかけている。自由党はまた、ドイツ主導のミサイル防衛プログラム「欧州スカイシールド」からオーストリアを脱退させたいと考えている。

コリバサヌは「自由党はオーストリアが中立を掲げていることを利用して、自分たちの反EU、親ロシアの立場を説明している。EUによる対ロシア経済制裁は、オーストリアの中立性に反すると主張している」と説明。自由党はオーストリアの「経済発展がロシアとの関係に大きく依存していると考えている」とつけ加えた。

ヒトラーはオーストリア出身だが1933年にドイツの首相となり、最終的には自ら率いるナチ党による一党独裁体制を築いた。オーストリアは1938年にドイツに併合され、これにより両国が「大ドイツ」を形成すると考える者もいた。


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