ハルキウの激戦地に近い村から避難する住民(7月16日) AP/AFLO

<戦争に追われたウクライナ避難民のための支援策が、詐欺師たちに狙われている>

ロシアとの戦争から逃れてアメリカを目指すウクライナの人々が、政府の人道支援イニシアチブを悪用しようとする詐欺師に狙われている。

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、米バイデン政権は同年4月に、ウクライナからの避難民の入国許可プロセスを簡素化する「ウクライナのための結束(U4U)」プログラムを発表。個人や非営利団体などの支援を得て申請すると2年間、アメリカに一時滞在できるようになった。


だが本誌の取材に対し、3人のウクライナ人が、ソーシャルメディアを使ってU4Uを悪用しようとする試みを実際に見たと語っている。

U4Uでは政府から支援者への財政面のサポートはなく、申請者を金銭的に支える義務は支援者が負うと考えられている。米国市民権・移民業務局(USCIS)は支援者の身元調査とセキュリティーチェックを行い、申請者が搾取されないよう支援者に十分な経済的能力があることを確認している。

しかし、一部のウクライナ人は支援者を見つける前に、支援の見返りとして、時には数千ドルを要求する連絡を受けている。

本誌が話を聞いた人々は、そのようなメッセージを送ってきた人物に金銭を支払ったことはないが、自分たちは搾取されていると感じている。一方で、ある情報源は、カネ儲けのためではなく、あくまでもウクライナ人を助けたいのだと主張する。

USCISの広報担当者は本誌の取材に、U4Uをめぐる詐欺行為や、職員を装う人に注意するように呼びかけていると説明した。

さらに、正規の職員がソーシャルメディアを通じて個人に接触することはなく、オンラインで支援の見返りを要求されたり、本人確認書類を求められたりした場合は警戒するように、とも指摘している。

USCISによると、ソーシャルメディアの偽アカウントや成り済まし詐欺の事例は国土安全保障省の監察総監室に報告され、さらに調査が行われる。

USCISの統計では、U4Uに申請してアメリカ行きの航空券を予約する許可を受けたウクライナ人は約26万6000人に上る。実際、既に21万5000人近くがアメリカに到着して手続きを行っている。さらに22年3月以降、U4U以外でアメリカに入国したウクライナ人は41万2000人を超える。

「支援者」に脅迫される例も

産業機械整備士のセルヒー・アントノフ(34)は障害のある妻、18歳の娘、9歳の息子を連れて、戦闘の前線であるドネツク地方から22年10月にチェコへ避難した。しかし彼は、アメリカへの移住は「自分たちの夢」だと語る。

アメリカとの国境沿いのメキシコの町ではウクライナからの避難民がシェルターにあふれ返った(22年4月) MARIO TAMA/GETTY IMAGES

ロシアが侵攻を開始した22年2月以前にウクライナ国内に居住しており、侵攻によって避難を余儀なくされたウクライナ市民には、U4Uに申請する資格がある。アントノフは5カ月間、アメリカ入国の支援者を探したが、見つかったのは「詐欺師」ばかりだった。

彼がある女性とフェイスブックでやりとりしたスクリーンショットには、次のようなメッセージがあった。「移民支援団体を通じてあなたの支援者を用意します。支援申請の承認通知を受け取った後、手数料を支払う必要があります」。手数料は800ドルだとも記されている。


ファーストネームのみを明かすという条件で取材に応じたヤナ(32)は、ロシア国境に近い戦闘地域であるハルキウ(ハリコフ)在住の警察官だ。彼女は6カ月間、むなしい努力を続けた後、今年6月にフェイスブックで支援者を見つけた。

しかし、合法的な支援にたどり着く前に、「大勢の詐欺師たち」から見返りとして最高2000ドルもの金銭を要求されたという。「U4Uプログラムに申請するための支援を求めると、途端に詐欺師からメッセージが届くようになる」

「詐欺師たちは直接メッセージを送り付け、手数料が必要だと言ってくる。もっと巧妙な連中は、申請の承認通知が来たので渡航許可を発行してもらう必要がある、と言って金銭を要求する。そして偽データと引き換えに金をだまし取る」と、ヤナは言った。

さらに「申請者の情報を全て入手した上で、『おまえの名前でアメリカのあらゆる政府機関に脅迫状を送るぞ』と申請者を脅し、金銭を要求するケースもある」という。

ヤナは届いたメールを削除し、発信元をブロックした。

数週間前から支援者を探しているというあるウクライナ人女性は、匿名を条件に本誌の取材に応じた。彼女がフェイスブックに投稿して支援者を募ったところ、見返りを要求するメッセージがすぐに届いたという。

「多分、手口はいくつかあるんだと思う。ある女は200ドル払えば支援者になりますと言って、知らない人名義の口座を連絡してきた挙げ句、申請をキャンセルして渡航許可が下りないようにすることもできる、と脅してきた」

「詐欺師はあの手この手で金をだまし取ろうとする。仲介団体と称して手数料2500ドルを要求する連中もいる。本当に仲介団体か、試してみないと分からない。もっと安い額を言ってくる連中もいる」

「彼らはフェイスブックのウクライナ支援グループに登録しているが、目的は支援じゃない」

フェイスブックの親会社メタの広報担当者は、ユーザーが詐欺被害に遭わないよう安全性向上に努めているとコメントした。

米入国の支援者を探し続けたが、見つかったのは詐欺師ばかりだったと、アントノフ夫妻は嘆く COURTESY OF SERHII ANTONOV

不安に付け込む詐欺師たち

本誌はこのウクライナ人女性と、指定した口座への送金を要求してきた女とのフェイスブックでのやりとりのスクリーンショットを入手した。あるメッセージでは「知らない人名義の口座」に送金するのを渋る彼女に対して、女は申請取り消しをちらつかせていた。

「突然の沈黙の理由が理解できません。これだからウクライナ人を支援するのは嫌なのです。USCISから反応があったら私が申請を取り消すことはできないと思っていますか? 私はあなたの申請受付番号を知っていますから、簡単に申請を取り消すことができるのですよ」


次のようなメッセージもあった。「後悔するようなことはしないでください。私はあなたの申請を簡単に取り消せるのです。そうしたら渡航不許可のメールが来ますよ。正しい行動をするか、興味がないから申請を取り消すと連絡してください」

対象となるウクライナ人と身元の確かな支援者を取り持つ北米のNPO「ノース・アメリカ・フォー・ウクライナ」で働くジェニファー・スネル・モークは最近、フェイスブック上で何者かが自分に成り済まして偽のプロフィールをアップしているのを発見。フェイスブックに連絡し、偽プロフィールは削除された。

ウクライナ人たちはフェイスブックで見つけた詐欺が疑われるケースについて、暗号化通信アプリのテレグラムでも警告し合い、金銭を要求するメッセージのスクリーンショットをシェアしている。

政府の移民当局者を装ったアカウントもあったが、USCISが偽物だと確認した。本誌はこの記事の中で「詐欺師」と非難されている人物たちに連絡を取ったが、応答はなかった。

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