9月6日、都内で出馬会見に臨んだ小泉進次郎元環境相  Kim Kyung-Hoon―REUTERS

<自民党総裁選の最大のテーマは「政治とカネ」。裏金事件で窮地の自民党は、総裁の顔をただ替えるだけでは意味がない>

自民党総裁選(9月12日告示、27日投開票)の勝者は誰か。裏金事件で多くの有権者の信頼を失った自民党は、新総裁の下で本当に生まれ変わるのか。総裁選は決選投票までもつれ込み、元幹事長・石破茂(67)、元環境相・小泉進次郎(43)を軸に激戦が予想される。有権者の不信を払拭する最大のテーマは「政治とカネ」。自民党の自浄能力、党改革への本気度が問われる。(敬称略)

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東京・永田町の自民党本部1階ロビーに総裁選のPRポスターが掲示されている。歴代総裁26人の写真。安倍晋三、田中角栄、小泉純一郎が大きく目立つ。


今回の自民党総裁選で、新たな「顔」が誕生し、歴代総裁の仲間に加わる。ただ、「顔」だけ替えても意味はない。政治とカネをめぐる党の体質を変えないと有権者の不信は払拭できない。自民党は総裁選後できるだけ早く、新しい「選挙の顔」の下で衆院解散・総選挙に臨みたいと思っている。「新総裁のボロが出ないうちに総選挙が望ましい」(自民関係者)とも言う。

「総裁選は内閣総理大臣を選ぶということを念頭に置いて投票すべきだ。だが今はそういう視点がない。自民党議員は誰が次の総裁なら自分は選挙で生き残れるか、そんなことばかり考えている」。元自民党事務局長・久米晃はこう指摘した。国家・国民のことよりも自分の選挙、「個利個略」の政治家が増えているようだ。

「自民党が変わることを示す最も分かりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ」。8月14日、首相(自民党総裁)の岸田文雄は緊急記者会見を開き、9月の総裁選に出馬せず、任期いっぱいで退陣すると表明した。

ここ数カ月、内閣支持率は20%前後で低迷。「岸田政権で次期衆院選は戦えない」という声は与党内に渦巻いていた。1988年のリクルート事件、2009年の民主党への政権交代の時よりも「自民逆風」は強いと方々で指摘されている。

最大の原因は、派閥の裏金事件の対応など自民党の政治とカネをめぐる問題だ。岸田は真相解明に及び腰で、自らの責任は取らず、裏金づくりに関与した議員に対する党内の処分も甘かった。ほとんどの「裏金議員」は国会の政治倫理審査会で説明責任を果たしていない。

岸田はぎりぎりまで総裁選での再選を模索したが、有権者の信頼は回復できず、「勝てない」ことを悟り、退陣に追い込まれたのである。必然の結果だった。

岸田の退陣表明で総裁選レースの号砲は鳴った。

ただし、国会議員20人の推薦人を確保できなければ、立候補は断念せざるを得ない。推薦人の争奪戦は激しいが、告示日に8人前後は立候補する可能性がある。


各メディアの世論調査を見る限り、今のところ「本命」は知名度の高い石破か小泉の2人だろう。

8月26日付の朝日、読売、毎日の新聞各紙は「次の自民党総裁に誰がふさわしいか」などと聞いた世論調査結果を報じた(下のグラフ参照)。

自民党支持層に絞った調査では、小泉(28%)が石破(23%)を上回る(朝日新聞)。今後、立候補者が出そろった後、候補者討論会や街頭演説、メディア出演など総裁選の過程で優劣は変わり得る。

経験・実績・能力なら石破、人気・若さ・発信力なら小泉。経験値か世代交代か。自民党の国会議員、党員・党友が何を重視するかで、勝敗の行方は分かれる。

経験の石破か人気の小泉か

「38年間の政治生活の集大成、最後の戦い」「政治は変わる、自民は変わる。実現できるのは自分だ」──。石破は8月24日、地元の鳥取県八頭町の神社で総裁選への立候補を正式表明した。

5回目の総裁選挑戦となる石破は元首相・安倍と対立し、長く冷や飯を食わされてきた。政権批判を辞さず、自民党内でも苦言を吐くことから「党内野党」とも言われる。もっとも、幹事長をはじめ、政調会長や防衛相、農水相など要職を歴任し、経験と実績は十分。安全保障問題のエキスパートとして知られる政策通だ。

ただ、派閥維持や国会議員との仲間づくりは苦手なようで、かつて存在した石破派は他派と掛け持ち可能なグループとなり、やがて解散。石破自身、「国会議員の理解を得る努力を十分してこなかった」と出馬会見で認めた。総裁選でも党員・党友票はある程度の獲得が見込めるが、国会議員票は未知数だ。

一方の小泉は、8月10日配信のラジオNIKKEIのポッドキャスト番組でこう語った。

「自民党は政治不信を招いている張本人。自民党自身が政治不信を払拭できるよう自己改革を進めるべきだ」「政治とカネの問題は総裁選で最大のテーマの一つ。ここで自民党が変わると示すことができなければ(いけない)。『新しい顔』にしたら政治とカネの問題は忘れてもらえるなんて大間違いだ」

この時はまだ、総裁選出馬の意向については明言していなかった。政治とカネの問題に真剣に取り組む姿勢はうかがえた。

小泉は9月6日の出馬表明会見で、政策活動費の廃止などを掲げていたが、政治資金改革などそれほど大きなサプライズはなかった。街頭演説で引っ張りだこの、その発信力には定評があるものの、これで「小泉ブーム」が起きるかどうかは分からない。

小泉の経験不足による力量・能力を不安視する声は根強い。環境相時代の小泉が、気候変動問題への取り組みは「セクシーでなければならない」と発言したことは波紋を呼んだ。ネット上では過去の数々の発言が揶揄され、党内でも小泉への期待と不安は交錯している。


政治アナリストの伊藤惇夫は小泉について、「かつては『天才子役』だった。今回、大人の俳優に脱皮できたのかどうか、よく見極めなければならない」と語る。

自民党若手議員らは、世代交代による「刷新感」をアピールしている。これに関し、伊藤は「『刷新』ではなく、『刷新感』だけなのか。自民党には『政治刷新本部』がありながら、何も刷新しなかった。抜本改革を求める声さえなかった。新総裁が誕生したとしても、自民党の何が変わるのか」と批判的だ。「人気だけでいいのか」とも強調する。

裏金議員をめぐるジレンマ

総裁選への立候補が相次ぐなか、裏金事件の対応が焦点となってきた。

8月19日、総裁選出馬表明のトップを切った衆院当選4回の若手ホープ、前経済安全保障担当相・小林鷹之(49)は「自民党は生まれ変われることを証明したい」とアピールした。だが裏金事件の再調査には否定的で、党改革への姿勢も消極的に感じられた。既に「裏金対応に甘い」と指摘されている。

石破は出馬表明の際、裏金議員に対する選挙での党公認の是非について「公認にふさわしいか、議論は選対委員会で徹底的に行われるべきだ」と、非公認の可能性も示した。しかし、安倍派内から反発が出ると、「新体制になってどうするのかを決める」と発言をトーンダウンさせた。

デジタル相・河野太郎(61)は出馬表明では、政治資金収支報告書への不記載があった議員に対し、不記載額の「返還」を求める意向を示した。これは「金を返して終わり、万引して盗んだ物を返したから無罪放免、という話でもない」と国民民主党代表・玉木雄一郎がすかさず批判した。小泉は裏金議員の公認については、説明責任の取り組みなどを勘案し「新執行部で厳正に判断する」と述べるにとどめた。

実際、事件の再調査と裏金議員を非公認とする方針を打ち出すのは、現状を考えると相当に難しいだろう。そこまでやると、投票可能な70数人の裏金議員の反発は必至であり、総裁選での国会議員票を減らす懸念がある。

一方、裏金議員への甘い対応を取ると、国民からは厳しい目で見られる。元総務相・野田聖子(64)だけは「不記載をした人は自分の力で(選挙に)勝ってきませんか」と裏金議員に言い放っている。

裏金事件で誰が厳しい対応に踏み込むか。特に小泉の出馬会見での見解は、総裁選の流れ、政治の行方を決めると言っても過言ではない。自民党への期待が膨らむことになるのか、失望感を与えて終わるのか。小泉にとっても正念場だ。


一方、原発政策をめぐっては、脱原発を持論としてきた河野が「リプレース(建て替え)も選択肢だ」とし、原発容認の姿勢に転じたことを明確にした。

データセンターの整備や生成AI(人工知能)に使う電力需要が増えたことを理由としていたが、脱原発のままでは党内の反発が強く、所属する麻生派を含む党内の支持を幅広く得るため、持論を転換したのではないか。河野の「変節」とみて厳しく批判する声もある。

小泉も先の番組で、河野と同様の理由で原発再稼働の必要性に言及している。「原発ゼロ」を主張する父の元首相・純一郎とは別の道を歩むのか。石破のみ鳥取で記者団に「原発ゼロ」に向け最大限努力する考えを示していた。

なぜ、河野も小泉も原発容認に転じたか。小泉は前回のエネルギー基本計画策定に環境相として関わり、デジタル社会で必要となる膨大な電力の重要性に気付いたようだ。

河野も同様だ。原発推進の経済産業省や電力会社など「原子力ムラ」に丸め込まれたのか。いや「本心は別、持論を封印しただけ」との声もある。

言うは易く、行うは難し。「自民党は変わる」と言われても、今の党の体質がそう簡単に変わるとは思えない。政治資金はいかに透明性を確保するかだ。総裁選で誰が選出されるにせよ、新総裁が語る言葉が実行されて初めて、「自民党は変わった」と言えるのかもしれない。

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