家事サービス提供で女性の育児負担が減るというのが政府の論理だが KIM JAE-HWANーSOPA IMAGESーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES
<出生率低下を食い止めるべく、ソウルで外国人家事労働者の受け入れを開始。共働き家庭や一人親家庭での育児負担軽減を目指したが、数々の疑問の声が──>
試験的事業として、外国人家事労働者を受け入れる──韓国の首都ソウルの呉世勲(オ・セフン)市長が、そんな提案をしたのは2年前のことだ。
外国人労働者の「手頃な」サービスを提供して韓国人女性の育児の負担を軽減し、少子化に歯止めをかけるのが目的で、国内の家事労働者の減少や急速な高齢化に対応する狙いもあった。
シンガポールや香港の政策を参考に、韓国政府とソウル市が進める同事業は本格始動したばかり。家事労働者の国家資格制度があるフィリピンから来た100人が9月3日から約半年間、ソウル市内の家庭に勤務する。派遣先として優先されるのは共働き家庭や一人親家庭だ。
この思い切った事業には、家事労働者の業務範囲や文化の違いへの懸念など、数々の疑問の声が上がっている。最大の問題の1つになっていたのは報酬だ。より正確には、韓国の最低賃金(時給)9860ウォン(約1075円)を支払うべきかという問いだった。
外国人家事労働者の人権を保障するには最低賃金を適用するべきだという考えに対し呉は、「同意しない」と明言。「賃金水準は市場原理に従い、技能や貢献に応じたものであるべきだ」と主張した。
これに対して、韓国女性団体連合は今年3月8日の国際女性デーのイベントで、呉は「ジェンダー平等の障害」で、家事の価値を下げ、外国人労働者差別を助長していると非難。
外交分野でも、駐韓フィリピン大使がILO(国際労働機関)などの基準を引き合いに出し、両国は「同一賃金や無差別を支持する国際条約を批准している」と指摘した。
こうした経緯の末、研修のため8月上旬に来韓したフィリピン人家事労働者らは最低賃金を保証された。週5日間、1日4時間サービスを利用する場合、社会保険料負担などを含めた月額費用はおよそ119万ウォン(約13万円)だ。
だが新たに、大きな疑問が浮上している。フィリピン人家事労働者を雇うのは、韓国人家庭にとって割に合うのか。
若年層の共働き家庭が1日最低8時間、保育のためにサービスを利用したら、月額費用は約238万ウォンに上る。韓国の30代の家計所得中央値は509万ウォン(約55万5000円)。つまり、家計所得のおよそ47%を支払うことになる。
外国の「成功例」の結果は
費用対効果だけではない。もう1つの(そして、おそらく最も)重要な問いは、少子化対策として有効かどうかだ。
韓国の合計特殊出生率は世界最低レベルが続く。昨年の出生率は0.72で、8年連続で過去最低を更新。ソウルでは、国内最下位の0.55だ。
悲惨な状況を考えれば、韓国政府が外国の政策に目を向けたのも無理はない。だが成功例として挙げる「シンガポールモデル」の結果は、宣伝とは裏腹だ。
シンガポールの外国人家事労働者計画が始まったのは1978年。女性の就労を促進したとしても、出生率は低下傾向で、昨年は初めて「1」を下回る0.97を記録した。同じく成功例とされる香港の場合も同様だ。
今回の試験的事業をめぐる批判は、韓国政府の育児観や外国人労働者への見方の現実をあらわにしてみせた。人口減少に効果的に取り組むには、国外に助けを求める前に、ジェンダー不平等や家事・育児の男女格差という国内の根本的課題に向き合うべきだ。
「コリアンドリーム」を追うフィリピン人家事労働者は、少子化問題の救世主ではない。
From thediplomat.com
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