アフリカで感染が急拡大、WHOが世界に向けて公衆衛生上の緊急事態を宣言したエムポックス WHO

<今回の流行では以前より感染力の強い新しい型のウイルスが発生しており、とくに若年層が危険にさらされていると専門家は警鐘を鳴らしている>

アフリカで急速にエムポックス(サル痘)の感染が再拡大していることから、WHO(世界保健機関)は8月14日、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態を宣言した。とくに今回の感染拡大に関しては、専門家から、若年層がとくにエムポックスに感染しやすいという警告がなされている。

【動画】「エムポックス(サル痘)」の症状とは?

アフリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、今年に入ってから少なくともアフリカの14カ国でエムポックス感染が報告されており、アフリカ大陸全体では2024年に入ってから1万7000件以上の感染疑い例が報告された。全症例および死者の96%以上がコンゴ民主共和国で発生しており、罹患者の多くは子供だった。

以前はサル痘として知られていたエムポックスは、2022年にアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、その他多くの国々で発生し、世界的に注目された。このウイルスには、クレードIとクレードIIという2つの異なる系統があり、ヒト同士の密接な接触によって感染が広がる。

アメリカとヨーロッパで過去に発生した集団感染は、クレードII型によるもので、主に性的あるいは親密な接触によって広がり、男性同士の性交渉が最も感染リスクが高かった。

以前は、クレードIは性的接触では感染しないと考えられていた。しかし、現在ではクレード1bと呼ばれる新しい型が出現している。このタイプは従来の型よりも感染力が強いようだ。

セックスワーカーの感染も増加

「以前、クレード1bが性的接触によって容易に感染することは知られていなかった」と、コンゴ民主共和国国立生物医学研究所の疫学・グローバルヘルス部門長兼臨床研究センター長プラシデ・ムバラ・キンゲベニは記者会見で語った。「現在、流行しているクレード1bでは、セックスワーカーの感染が増えている。今回の感染拡大の主な感染様式として、性行為の増加が報告されている」

クレードIaとクレードIbのウイルスでは感染経路が異なるため、同じ国で2つの異なる感染拡大が同時に発生しているとキンゲベニは言う。

「クレードIaの感染拡大では、小児が多く罹患しており、この新しいクレードIbの場合は、青少年や成人の罹患が多い。私たちがクレードIbを恐れているのは、ヒトからヒトへの感染に非常によく適応していると思われるからだ」。

注目すべきは、ウイルスのこの二つの変種による感染が、若年層で著しく増えていることだ。専門家はこれが若者の免疫システムに関係しているのではないかと考えている。

「アフリカでエムポックスが流行する根本的な要因のひとつは、50年以上にわたってこの病気が放置されてきたこと、そして投資の不足と病気に対する対応能力の低さにあると思う」と、WHO国際保健規則緊急委員会のメンバーであるニジェール・デルタ大学のディミー・オゴイナ教授(感染症学)は、同記者会見で、エムポックスの感染者急増について語った。「だが、アフリカの人口が比較的若く、天然痘の予防接種の恩恵を受けていないことも、今回の感染拡大の生物学的理由のひとつと考えられる」。

天然痘は、エムポックスと同じ仲間であるオルソポックスウイルスによって引き起こされる深刻な、そしてしばしば死に至るウイルス感染症だった。罹患した患者のおよそ30%が死亡するこの病気は、何千年もの間、人類を悩ませてきた。だが1980年、WHOは、世界的なワクチン接種キャンペーンの成功により、天然痘は根絶されたと宣言した。

1970年代以降、天然痘ワクチンの定期接種の必要性はなくなった。しかし、天然痘ワクチンもまた、エムポックスに対するある程度の予防効果がある可能性が、多くの研究で示唆されている。その結果、1980年以前に生まれた人は、ある程度、エムポックスの感染に対して抵抗力がある可能性が高い。

「オルソポックスウイルスは、ヒトの免疫系に認識される多くのタンパク質を共有しているため、ある種のオルソポックスウイルスに感染すると、その後に別のオルソポックスウイルスに感染することを防ぐ効果が認められる」と、イギリスのピルブライト研究所でポックスウイルスを専門に研究しているジョナス・アルバーナズは以前本誌に語っていた。「これが天然痘ワクチン、そして現在のエムポックスワクチンの基礎となっている」

専門家は、既存のエムポックスワクチンが、新種のクレードIb変異体に対しても効果があることを期待している。

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