エイミー・チュア(左)はウーシャ・バンス(右)のキャリアの礎を築いた PHOTO ILLUSTRATION BY SLATE; PHOTOS: PETER KRAMERーNBCーNBC NEWSWIREーNBC UNIVERSAL VIA GETTY IMAGESーSLATE, LEONNEALーGETTY IMAGESーSLATE
<中道左派のはずだったインド系移民2世の弁護士がトランプに寄り添うのは、「政治より権力」という野心ゆえ>
共和党全国大会で大統領候補に指名されたドナルド・トランプ前大統領が、副大統領候補としてJ・D・バンス上院議員を紹介したとき、人々が最も驚いたのはバンスの妻ウーシャの靴だろう。彼女はクラシックなハイヒールではないサンダルを履いていた。
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セカンドレディー候補のファッションは、MAGA(アメリカを再び偉大な国に)界隈の女性が好む濃い目の化粧と超フェミニンなスタイルから劇的に逸脱している。
ウーシャの逸脱はほかにもたくさんある。1980年代にインドからアメリカに移住した両親の娘として生まれ、肉を食べない(党大会のスピーチで、夫は「菜食主義の私に合わせた」と明かした)。そして、おそらく最も重要なのは、彼女の政治的見解が、知られている限りでは特にMAGAらしくないことだ。
DEI(多様性と平等とインクルージョン〔包摂性〕)に力を入れていることで有名な法律事務所で最近まで弁護士として勤めていたし、2021年1月6日の米連邦議事堂襲撃事件には憤慨していると友人たちに話していた。若い頃、周囲は彼女を思想的には中道左派とみていた。
進歩的なサークルで知的に育ってきたと思われる有色人種の女性が、現在の共和党支持者に好かれようとすることに矛盾を感じずにいられない。ウーシャ・バンスは本当に共和党員なのか。彼女はいったい何者なのか。
メンターは「虎の母」
ウーシャの経歴において、その政治観と世界観を形作ってきた最も重要な要素は、ある人物との関係と、その関係が(おそらく弁護士としてのキャリアに既に)もたらした莫大な恩恵だ。
ウーシャとバンスは2人が出会ったエール大学法科大学院時代に、ニューヨーク・タイムズ紙の言葉を借りれば「因習を打破するエイミー・チュア教授に、師事する機会を探し求めた」。自らの中国式育児をつづった11年のベストセラー『タイガー・マザー』(邦訳・朝日出版社)で名をはせたチュアは、「移民出身の野心的な学生のメンターとしても知られていた」。
バンス夫妻が法科大学院で学んだ2010~2013年に、目の当たりにしていたに違いない力学がある。チュアの夫で、同じ法科大学院の教授であるジェド・ルーベンフェルドは、当時から悪行で知られていた(2018年に女子学生へのセクハラを理由に2年間の停職処分を受けたが、本人は今も強く否定している)。
チュアとルーベンフェルドの力関係や学内での役割、特に、学生に法曹界の「クラークシップ」システムへのアクセスを提供していたことは、彼らがアメリカの一流ロースクールで権力を握るための重要な要素だった。
米法曹界では、判事の助手(クラーク)になることは、ロースクールを卒業したばかりの学生にとって最も名誉ある経歴の1つだ。下級裁判所判事のクラークシップは連邦控訴裁判所判事のクラークシップへの切符となり、連邦最高裁判所判事のクラークシップへと通じる。
最高裁判事の助手になれば、判事への道が開かれるだけでなく、法律事務所に就職する際も数十万ドルの契約ボーナスが保証される。エール大学法科大学院は、全米で最も強固なクラークシップを擁する。
2010年代の数年間、チュアはクラークシップにおいて強力な人脈を築き、最も熱心に学生を支援する教員の1人として知られていた。米法曹界にはアイビーリーグやコネを重視する風潮がある。しかし、何十年も白人男性にしか与えられなかった権威あるクラークシップに、女性やマイノリティーを斡旋するというチュアの並外れた功績を、当時からほとんどの学生が知っていた。
自宅に学生を集めて夕食会を開き、不透明なプロセスに関する質問にも率直に答えるなど、インクルーシブを実践する存在として、チュアは広く称賛されてきた。実際に多くの学生が、特に1年生は、彼女の授業を受けていなくても助言を求めた。
副大統領夫人を目指して
ニューヨーク・タイムズの記事にあるように、ウーシャもバンスも、「エリートロースクールの典型的なエリートが享受する伝統的な特権や内輪の人脈に縁がなかった」。
そんな2人に、チュアのメンターシップは明らかな恩恵をもたらした。チュアはバンスにベストセラーとなった回顧録『ヒルビリー・エレジー』(邦訳・光文社)を書かせ、皆が憧れるクラークシップにウーシャをつないだ。彼女はロースクール卒業後、現連邦最高裁判事で筋金入りの保守派のブレット・キャバノーがコロンビア特別区控訴裁判所判事だった時代に助手を務め、第1子出産直後にやはり保守派のジョン・ロバーツ最高裁判事の助手を務めた。
2018年にトランプ大統領(当時)がキャバノーを最高裁判事に指名すると、チュアは指名と彼の女性尊重の姿勢をたたえる論説を書いた。その後、キャバノーの女性への性的暴行疑惑が取り沙汰されたが、チュアが支持を撤回することはなかった。
ウーシャの政治観を読み解く上で、このような文脈を考えると、彼女の本当の信念が不透明であることも、それほど混乱させられるわけでもなく、衝撃でもないと思えてくる。彼女は名声と権力を何よりも優先させる世界で育ったのだ。政治的信念や道徳観より優先させると言っても構わないだろう。
この十数年、最高裁をトランプが指名した判事で埋め尽くそうという画策が続いた間に、法の保護という意味も、政治の世界で最も権力を持つのはどちらの陣営なのかということも、間違いなく保守的な世界観に傾いてきた。そのことは、リベラル派かもしれないウーシャが、キャバノーが今ほど全国的に有名ではなかった2014年と2015年に、助手になりたいと熱望した理由だったのかもしれない。
キャバノーは、法曹界では既に強大な力を持つ存在だった。チュアのクラークシップのシステムは、自らのシステムに最も力を与えるように、若者をチェスの駒よろしく動かすというものだった。こうした環境が、ウーシャの統治観と権力観を形成した。彼女が個人的な信条とは関係なく、トランプとあっさり手を組むのも不思議ではない。
つまり、ウーシャ・バンスは謎めいた人物ではない。2017年のメラニア・トランプの再来というわけでもない。見た目麗しい移民の女性が、あの夫のような有害な意見を許容するのだろうかと、当時も誰もが思ったものだ。
ウーシャも野心家だ。だからこそ、夫がトランプの副大統領になるための選挙活動の間、自分のキャリアを中断することもいとわないのかもしれない。彼女にとって重要なのは、政治ではなく権力だ。副大統領夫人はとても素晴らしい地位ではないか。
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Usha Vance Keeps it Classic in Black Sandal Heels at Republican National Convention in Milwaukee https://t.co/2H2lDXcana
— Footwear News (@FootwearNews) July 18, 2024
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