都内の中華食材スーパーの店頭という触れ込みの画像 中新经纬官⽅微博

<反日感情に期待して、でたらめな情報を流した失敗例>

「日本の政治家に原発の汚水を飲ませろ」。そんなメッセージをラベルに貼ったフルーツティーが日本の店で売っていたという。去る5月3日、中国のSNS微博(ウェイボー)に写真付きで投稿されたもので、撮影場所は東京都内の某中華食材スーパー。製造元はMecoブランドで知られる中国の香飄飄(シャンピャオピャオ)。「汚水」は、言うまでもなく福島第一原発から放出された処理水のことだ。

翌5月4日、中国の経済ニュースメディア「中新経緯」はこの強烈な反日メッセージに反応し、「香飄飄が日本のスーパーで核汚水を風刺」というハッシュタグを付けた。すると、この画像は瞬く間に中国のネット上で拡散した。


同日、香飄飄も微博の自社アカウントで反応した。「うちの従業員はすごい!」と書き込み、同社の女性従業員が個人の資格で行ったものと認め、その行為を絶賛した。

5月5日の朝には香飄飄の会長が空港で「われらが戦士の帰還歓迎」という横断幕を掲げ、帰国した従業員を出迎えた。夕刻には、彼女に10万元(約210万円)の報奨金を出すとの発表もあった。

「政治的消費」とは何か

それは国民の民族主義・愛国主義的な感情に訴える巧妙なマーケティング戦略だった。5月4日と5日に抖音(ドウイン、TikTokの中国版)上で行われた同社のライブストリームセッションには1000万を超えるアクセスがあり、そこでは日中戦争を描いた人気ドラマ『亮剣』の主題歌が流れ、司会者と参加者が互いに「同志」と呼び合った。このライブ配信販売による1日の売り上げは、通常の400倍に当たる100万元(約2100万円)に達したという。

翌5月6日、香飄飄の株価は取引開始直後に上限に達し、1株19.21元(約406円)で引けた。翌7日にはさらに10%近く上がり、2023年7月以来の高値を記録した。

ところが事態は一転する。既に5日の時点で、日本在住の中国人が「これはフェイクだ」と指摘していた。撮影場所とされる店も事実関係を否定した。複数のメディアも、これはフェイク画像を用いた悪質な「愛国マーケティング」だと断じた。結果、香飄飄の株価は急落した。

ここ数十年で、人々の暮らしと政治の関わり方は大きく変化してきた。政治的な空気やプロパガンダが、ごく私的なライフスタイルや消費行動にも影響を及ぼす。つまり、消費が政治化してきた。

こうした政治的消費には、ボイコットと「バイコット」という2つの形がある。ボイコットは政治的に好ましくない企業を罰するために行う不買運動であり、「バイコット」は倫理的・政治的な義務を果たしている好ましい企業の商品を積極的に買う行動だ。

中国では、そこに「愛国マーケティング」を装った悪質な商法が加わる。ありもしないストーリーを捏造して愛国心をあおり、国産品の「バイコット」につなげる手法だ。

しかし中国の消費者も、国産品を買うことと愛国心がイコールだとは思っていない。コンサルティング大手マッキンゼーのまとめた中国人の消費行動に関する報告書(23年版)によれば、中国の消費者が国産品を選ぶ理由は、価格の安さや愛国心ではなく品質や独創性だという。そこで教訓。フェイクで塗り固めた「愛国マーケティング」の効果は一瞬にして消える。


From thediplomat.com

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