世界一の人口と若年層の厚みは大きな強みだが(東部コルカタ) DEBAJYOTI CHAKRABORTYーNURPHOTO/GETTY IMAGES

<中国経済が減速する中、年率7~8%で成長するインド。今後10年間で世界3位の経済大国になるという予想は実現するのか>

世界の2大新興国に関する金融市場やニュースメディアの見解の変化を表す表現として、スタンダード&プアーズ(S&P)が昨年発表した報告書のタイトル──中国は減速、インドは成長──ほど的確なものはないだろう。

中国が経済の減速に苦しむ一方、インドは繁栄を謳歌しているように見える。インドの株式市場は活況を呈し、国立証券取引所に登録された取引口座数は2019年の4100万から23年には1億4000万に急増した。

さらに、欧米企業が中国から撤退するなか、有力な代替としてインドが台頭している。年率7~8%前後の成長率を誇るインドは、今後10年間で世界3位の経済大国になると多くが予想する。

だが、今世紀末までにインドが中国とアメリカを抜いて世界最大の経済大国になるという一部の予想が現実になる可能性はあるのだろうか。それとも現在の好況は過大評価されているのか。

表面上、インドは他の主要経済に対して重大な利点を有している。1つ目は、人口動態が良好であること。23年4月、インドは中国を抜き、公式に世界最大の人口大国となった。また、25歳未満が人口の43.3%を占め、中国の28.5%に比較すると労働人口が圧倒的に若い。

さらに、欧米諸国による中国からの輸入品への関税引き上げや、中国国内の労働コストの上昇と規制強化も、多国籍企業による中国市場からの撤退が続く要因となっている。そうなれば、膨大な人口と好景気を誇るインドが代替に選ばれるのは当然だろう。また、大手の欧米企業や国際機関の幹部にインド人が多いことも、インド経済に多大な利益をもたらしている。

とはいえ、インド経済の潜在力は過大評価されている。まず、人口の優位性は見た目ほど大きくない。インドの出生率は女性1人当たり2人で、人口置換水準(人口規模が維持される水準)の2.1を既に下回る。さらに重要なのは、23年のインドの女性労働力参加率が32.7%で、中国の60.5%よりはるかに低いことだ。その結果、総労働力参加率は中国の66.4%を下回る55.3%にとどまっている。

同様に、インドの賃金は中国より大幅に低いが、教育水準と技術水準も低い。世界銀行によれば、中国の15歳以上の識字率が20年時点で97%に達したのに対し、インドは22年時点で76%だった。

米中対立の激化がインドに有利に働くのは確かだが、この地政学的優位性は保護主義政策によって相殺されている。貿易障壁は中国よりインドのほうが高く、外国直接投資へのハードルもより高い。そのため、中国から撤退した欧米企業の多くは、投資家に優しいベトナムやバングラデシュを好むかもしれない。

さらに、インドの汚職が中国より深刻な点も重要だ。インドでの事業リスクに関するイギリス政府のガイドラインには「インドはアジアで最も贈収賄率が高く(39%)、公共サービスへのアクセスに個人的なコネを利用しなければならない人が最も多い(46%)」と記されている。

汚職がビジネス全体のコストに多大な影響を及ぼすことを考えれば、インド政府は外国人投資家にとっての魅力を高めるために断固とした対策を取る必要があるだろう。

こうした課題を克服するには多面的なアプローチが必要で、抜本的な汚職対策はその重要な第一歩となる。また中長期的には、インフラ改善への投資、教育水準の向上、女性の就労支援が求められる。

全ての目標を達成するのは容易ではない。だが、前進しない限り、インドが期待に応えて「次の経済超大国」になるのは不可能だろう。

© Project Syndicate

魏尚進(ウエイ・シャンチン)
SHANG-JIN WEI
コロンビア大学経営大学院教授(金融学・経済学)。アジア開発銀行(ADB)でチーフエコノミスト、世界銀行では汚職対策の政策・研究のアドバイザーなどを歴任した。

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