このプールの何が違う? 写真は男子200メートル・バタフライ決勝( 7月31日、ラ・デファンス・アリーナプール) REUTERS/Marko Djurica

<これが6つの世界新記録を生んだ前回の東京大会だったら、金メダルに手が届かなかったであろう選手もパリでは金を取っている。「問題は記録じゃない」と言う選手たちも、プールに違いがあることは認める。何が違うのか>

オリンピックのどの大会でも競泳は盛り上がる。種目が多くてメダルの数も多いし、世界記録が更新されることも多いからだ。だが2024パリ大会では、なかなかその記録が生まれない。

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AP通信によれば、最初の4日間では世界新記録が一つも出なかった(その後7月31日、男子100メートル自由形の決勝で中国の潘展楽選手が世界記録を更新して金メダルを獲得した。今大会の第1号だ)。記録低迷の原因は、ラ・デファンス・アリーナプールが比較的浅く、波や水流の乱れが起きやすいことが理由ではないかと指摘する声もある。

競技用のプールは水深3メートルが最適と考えられており、ワールドアクアティクス(旧国際水泳連盟)は競泳および水球の競技用プールの水深は2.5メートル以上と定めている。だが、新たな規定ができる前に五輪開催を認められたパリ五輪のプールは水深が2.2メートルだという。

アメリカの競泳チームに協力しているデータ・スペシャリストのケン・オノは、ヤフーニュースに対して次のように述べた。「今回の会場のプールは私たちの地元にある水泳クラブのプールに比べれば速いタイムが出る設計になっているが、新記録を出すのに理想的な設計ではない。水深が浅いのが主な理由だ」

選手から苦情はなし

だがアメリカのスター選手であるケイティ・レデッキーはこうした懸念を一蹴。AP通信に対して、「私たちは全員、速く泳げる競泳選手だ。プールの水深に影響を受けることはない。特に問題視していない」と述べた。

女子400メートル個人メドレーで銀メダルを獲得したケイティ・グライムズ選手は、全ての選手が同じ条件で競技に臨んでいるとして、「記録が出にくいプールであるかどうかは関係ない。問題なのは、すべての選手が同じ条件かどうかだ」と述べた。

2024パリ大会の組織委員会は本誌の問い合わせにメールで回答し、プールの水深については2.2メートルが許容されていた当時に国際オリンピック委員会(IOC)から承認を得ていると改めて強調し、選手からの苦情も届いていないともつけ加えた。

「水泳競技が始まって2日目以降には3つのオリンピック記録も出ており、大会期間中にさらに多くの記録が更新されることを期待している」

本誌はこの件についてワールドアクアティクスにメールでコメントを求めたが、これまでに返答はない。

前回の2020東京大会では、6つの世界新記録が生まれた。個人で世界記録を更新したのは、アメリカのケーレブ・ドレッセルと南アフリカのタチアナ・シェーンメーカーの2人だ。水泳関連サイトによれば、ドレッセルは男子100メートルバタフライで自身の持つ世界記録を0.05秒更新。シェーンメーカーは女子200メートル平泳ぎでリッケ・メラー・ペデルセンの8年前の記録を破り、2分18秒95の世界新記録を達成した。

歴史を振り返ると、第二次世界大戦以降のオリンピックでは毎回、競泳で少なくとも1つの世界新記録が生まれてきた。2008年の北京大会では23個の世界新記録が達成され、その後も2012ロンドン大会では9個、2016リオデジャネイロ大会では8個、そして新型コロナウイルスのパンデミックの影響で1年延期された東京大会では6個の世界新記録が生まれている。

「記憶に残るのはタイムではない」?

今回のパリ大会では、これまでの大会に比べてタイムが低調なことも注目されている。カナダのサマー・マッキントッシュの女子400メートル個人メドレーでの記録は、自国で開催された代表選考会で出した世界新記録よりも3秒以上遅かった。同様にルーマニアのダビッド・ポポビッチは男子200メートル自由形で金メダルを獲得したが、そのタイムは2000シドニー大会以来の金メダリストとして最も遅かった。男子100メートル平泳ぎで金メダルを獲得したイタリアのニコロ・マルティネンギのタイムは、前回または前々回の大会だったらメダルを獲得できていない。

それでもパリ大会の観客たちは、競泳選手たちを応援して盛り上がっている。オーストラリアのカイル・チャーマーズ選手はAP通信に対して次のように語った。「重要なのは最初にゴールして勝つことだ。人々の記憶に残るのはタイムではない」


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