アメリカの温室効果ガス削減に向けた期待が高まっている

<クリーンエネルギーの価格低下と効果的な政策により、アメリカの温室効果ガス排出量が大幅に削減される見込みだ>

世界中で記録的な猛暑が観測され、温室効果ガスの排出量が増え続ける中で、気候変動に関するニュースに希望を見出すのは難しい。だがアメリカの経済活動に伴う気候汚染について分析した最新報告書によると、アメリカの温室効果ガス排出量は今後10年で38%~56%削減できる可能性がある。これはクリーンエネルギーの値下がりや、政府の気候変動対策の奏功による。

「米国は脱炭素のペースを大幅に加速しようとしている」。ロジウム・グループのアソシエートディレクター、ベン・キングは本誌にそう語った。ロジウムはエネルギーと気候問題を専門とする独立系調査会社で、キングは同社の最新報告書「Taking Stock」の共著者。アメリカの発電、輸送、産業など主要な炭素汚染源からの排出量に関する同社の年次報告書は、今年で10回目となる。

脱炭素ペースの2倍~4倍

アメリカは経済もエネルギー需要も増大しているが、それでも排出削減量は年間2%~4%増えるとロジウムは予想する。

「これは2005年以降の脱炭素ペースの2倍~4倍に相当する」とキングは言う。

排出量削減を後押しする2大要因として、キングは政策と価格を挙げる。政策面ではジョー・バイデン大統領の画期的な気候変動対策を盛り込んだ「インフレ抑制法」や、「超党派インフラ法」などが法制化され、幅広いクリーン技術への投資を促す原動力となった。

「2つ目の要因として、そうした(クリーン)技術が本当に安くなり始めている」とキングは言い、ソーラーパネルやバッテリー、EVの値下がりによって、化石燃料を使う競合製品に対する競争力が増していると指摘した。

車からヒートポンプに至るまで日常生活で電力を使う場面が増え、国内製造が成長する中で、ロジウムもアメリカのエネルギー経済に関する他社の予測と同様に、電力需要は今後数年で急増すると予測している。

データセンターの成長に伴う需要は引き続き、予想される電力需要増大の約4分の1を占める見通しだ。ただし、クリーン資源からの発電量増大に伴い、そうした成長と温暖化ガス排出は「分離」し続ける。

報告書の推計によると、2035年には風力、太陽光、原子力といった低炭素発電が発電量全体の62%~82%を占める一方で、石炭発電は減少してゼロに近付く。

「幸いなことに、この作業で1つはっきりしたのは、クリーンエネルギーはもはやアメリカ経済のニッチな部分ではないということだ」とキングは言う。「これは我々のビジネスの一部になりつつある」

クリーンエネルギーへの投資や雇用が増大すれば、翻って気候変動対策に役立つ政策の支持者が増える。ただし、ロジウムの予想通り排出量が大幅に減ったとしても、国連のパリ協定(地球温暖化対策の国際枠組み)に基づくアメリカの約束を果たすにはまだ足りない。パリ協定では、最も危険な水準の地球温暖化を防ぐために各国が取るべき行動を定めている。

トランプ再選ならどうなる?

今回の予測に確実性は何もないともキングは言う。経済成長やクリーンエネルギー技術の経済性の劇的な変化、あるいは国の気候・エネルギー政策の方向転換があれば、排出の未来は一変し得る。

来たる大統領選は大きな要因になりそうだ。共和党候補者のドナルド・トランプ前大統領は、バイデン政権の気候変動対策の多くを覆すと公約している。

「ホワイトハウスの実権をトランプ政権が握り、同時に議会の実権も共和党が握れば、インフレ抑制法の中心的な理念が覆される危険がある」(キング)

環境規制当局の権限を制限したアメリカ最高裁の最近の判決も、発電所や車からの排出量を制限する新規制を通じた気候変動対策の効果を減退させかねない。

ロジウム・グループの報告書のほかにも、来たるべきクリーンエネルギーの世界を指し示すエネルギー予測は相次いでいる。7月には国際エネルギー機関(IEA)が世界の電力製造に関する見通しを改訂し、再生可能エネルギーは2025年に歴史的節目に到達すると予測。クリーンエネルギーの発電量は、初めて石炭火力発電量を上回るとの見通しを示した。

(翻訳:鈴木聖子)

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