テヘランに設置されたイスラエル滅亡までのカウントダウン時計 AP/AFLO

<神が敵を滅ぼしてイスラエルに土地を与える、と信じる狂信者たちがネタニヤフの協力を得て、イランがなし得る以上の勢いでユダヤ人国家を滅亡させようとしている>

イスラエルが2040年に滅亡するまでの日数を表示したカウントダウン時計が、イランの首都テヘランに現れたのは2017年。パレスチナ広場に設置されたその時計は、ユダヤ国家を滅ぼすというイランの長年のコミットメントを体現するものだ。

イラン革命を率いた故ルホラ・ホメイニ師は、イスラムの衰退は外国の陰謀が原因だとし、欧米列強がシオニズムを利用して中東に侵入していると非難。これに基づけば、エルサレムをイスラエルの支配から解放し、ユダヤ国家を破壊することがイスラムの再生につながることになる。


懸念すべきはイラン政府内に、今こそこの神聖な目標を達成すべき時だと考える向きが多いことだ。イスラエル軍が昨年12月、シリアを空爆し、イラン革命防衛隊の上級将官を殺害したことを受け、同隊のホセイン・サラミ司令官は「イスラエルを地上から消し去る」と宣言した。

アドルフ・ヒトラーからウラジーミル・プーチン、さらにはウサマ・ビンラディンまで、イデオロギーに触発された脅威は額面どおりであることを、歴史は教えてきた。けれどもイランは慎重に行動している。過激であることが、必ずしも非合理で自滅的であるとは限らない。

ガザ戦争では、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラや、ガザを実効支配するイスラム組織ハマス、ヨルダン川西岸のイスラム聖戦などの代理勢力がイスラエルを包囲。イランは直接対決を避け、イスラエルを消耗させることを狙っている。

イランが代理戦争に力を入れるようになったのは、ハマスがイスラエルを孤立化させ、弱点を露呈させるという驚くべき能力を発揮したからだ。ハマスによる昨年10月7日のイスラエル攻撃は、イスラエルとの国交正常化を考えていたサウジアラビアの計画を頓挫させた。アメリカが支援するアラブのスンニ派とイスラエルが反イラン同盟を組むというバイデン政権の壮大なビジョンは水泡に帰した。

このところイランの核兵器開発に憂慮すべき進展があるとの見方もあるが、イランがテルアビブに向けて核ミサイルを発射するというわけではない。むしろこの核の傘を利用し、通常兵器を使ってイスラエルを弱体化し崩壊させる可能性がある。

イスラエルがレバノンを攻撃したら「抹殺戦争」を起こすとイランが警告しているのは、イスラエルを抑止し、レバノンとの非核戦争を防ぐためだ。

こうした背景を考えると、イランが仕掛ける消耗戦を助長しているのは、実はイスラエル政府だとも言える。


イスラエルが2040年に滅亡するまでの日数を表示したデジタルカウントダウン時計(イランのテヘラン)


ネタニヤフ首相が掲げるガザでの「完全勝利」という非現実的な目標は、決着のない紛争でユダヤ国家を破壊するというイランの戦略に資するものだ。ネタニヤフ政権は不必要に戦争を長引かせ、ガザでのパレスチナ自治政府の役割を認めないことで、イスラエルを孤立させている。この危険な均衡の中で、理性を失って引き金を引きたがる狂信者は、ネタニヤフと、ガザとレバノンで黙示録的な戦争を遂行する神政主義のファシストだけだ。


イスラエル北部がこれまでで最大のヒズボラのロケット弾砲撃を受けるなか、イスラエルの入植地担当相で宗教的シオニスト党のオリット・ストロークは7月上旬、ヨルダン川西岸の入植には「最高のタイミングだ」と発言した。いわく、神がイスラエルの敵を滅ぼして土地を与えるのだという。

こうした夢想家たちには、ネタニヤフという熱心な協力者がついている。彼らは手を結び、イランが単独でなし得る以上の勢いで、ユダヤ人国家を消滅させようとしている。

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シュロモ・ベンアミ
SHLOMO BEN-AMI
イスラエル元外相。世界各地の紛争解決を目指す「トレド国際平和センター」副所長。著書に『戦争の痕、平和の傷──イスラエルとアラブの悲劇』がある。

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