トランプを大統領候補、バンス上院議員を副大統領候補に指名し、盛り上がって閉幕した共和党全国大会(7月18日) AP/AFLO

<「弾劾され、逮捕され、有罪になり、銃撃され」た英雄、トランプの下で団結を確信した赤い波>

2024年の米共和党全国大会(党大会)は幸せな空間だった。これは異例なことだ。近年は大統領候補の指名受諾者が誰であれ、会場にはいつも大きな不満が渦巻いていた。もし今回も党内では広く不満があったとしたら、会場にいた参加者は見事にそれを隠していた。

大統領候補に指名された人物が1週間足らず前に銃撃されたことを考えれば、晴れやかな状況がことさら異例に思える。参加者たちはなぜ、暗殺未遂の衝撃を瞬時に乗り越えて歓喜に沸いたのか。


ひとつ言えるのは、共和党員が自分たちは無敵だと感じている、ということだ。

6月末のテレビ討論会でジョー・バイデン米大統領が悲惨な姿をさらして民主党の自滅が始まる前から、ドナルド・トランプ前大統領は既に選挙戦をリードしていた。討論会後はさらにリードを広げ、暗殺未遂を生き延びた。現時点でリードをさらに広げている可能性が高い。

勝ったも同然の陶酔感

共和党は、トランプの大統領在任中には経験したことがない陶酔感に浸っている。これは異例だ。「ほとんど神の摂理に近いものがある」と、同党のロジャー・マーシャル上院議員(カンザス州)は言う。

共和党は最近、些細なことを気にしなくなった。党大会に向けて不満があったとすれば、トランプ陣営が党綱領案で人工妊娠中絶をめぐる表現を和らげたことだ。だが暗殺未遂の後は、もう誰も気にしていない。

11月の本選で誰と対決するのかというもっと大きな問題さえ、彼らは心配しなくなりつつある。今や民主党は「カマラ・ハリス(副大統領)を立てることはできないだろう」とマーシャルはみる。「彼女がノーと言うはずだ」。民主党が負けそうな選挙でいけにえの子羊になりたくない、というわけだ。

社会保守主義団体「アメリカン・プリンシプルズ・プロジェクト(APP)」のテリー・シリング代表は、バイデンを選挙戦から撤退させようとする動きは失速するのではないかと語る。「アメリカがトランプを選ぶ可能性がはるかに高くなった今、将来の有望株を1人、無駄遣いしたくはないだろう」

APPは党大会2日目の7月16日に、会場となったウィスコンシン州ミルウォーキーのファイサーブ・フォーラムの外でイベントを開催した。APPはこの日、トランスジェンダーの女子選手を女子部門に参加させることに抗議している元大学競泳選手のライリー・ゲインズに、カスタムバイクを贈呈した。イベントに参加したカスタムバイク界のスター、ポール・タットルSr.は、「私が考えているのは(トランプが)勝たなければならないということだけだ」と語る。「誰と戦うかは関係ない」

ウィスコンシン州の代議員である妻に同行して党大会に参加したグレッグ・ライマンは16日の朝、ファイサーブ・フォーラムの外の広場を散歩していた。彼は前夜にトランプ一家の近くに座ったときの写真を見せて、次男のエリック・トランプに挨拶すると会釈されたと説明した。

ライマンは、最近の民主党の内紛を見るのが「ちょっとした楽しみ」になっている。ただし、バイデンのことは「ほんの少し、ほんの少しだけ、気の毒にも思う」。彼は「外界から閉ざされていて、自分がどんなにひどく見られているのか、分かっていないのだろう」。


民主党の出方に一抹の不安

共和党の陶酔感を抑えるものがあるとすれば、腹黒い民主党がまだ何か切り札を隠しているかもしれないという予感だ。党派対立にがんじがらめになっている支持者に共通するのは、どちらの陣営も、相手の工作員や戦略家は黒魔術を操り、どんなこともできると信じていることだ。

「(民主党陣営の)裏で動いている大物たちは、あまりに冷酷で卑劣だ」とライマンは言う。「彼らは勝つためだけに動き、その過程で誰を踏み付けようが気にもかけない。それがバイデンであっても」

神の摂理であれ、工作員の黒魔術であれ、政治の命運は一瞬でひっくり返る。16年の大統領選がまさにそうだった。一時期は毎日のように、トランプに勝ち目はないとする新しい理由が出てきた。党大会前には、政治家個人としての理由から、あるいはトランプに党が乗っ取られたときに関与したと言われたくないから、党大会に参加しない党重鎮は誰なのかが話題になった。

今回、共和党は間違いなく団結している。党大会の初日、3年以上トランプの名前を口にすることさえほとんどなかったミッチ・マコネル上院院内総務が、ケンタッキー州の代議員はトランプを指名すると宣言した(ちなみにマコネルは終始ブーイングを浴びていた。「トランプワールド」への再入場は一朝一夕には認められないのだ)。

マコネルの後継者と目されるジョン・スーン上院議員(サウスダコタ州)は、20年の選挙戦の影響でトランプとの関係がぎくしゃくしていたが、今回は次のように語っている。「少なくとも、われわれ上院は非常に結束している。トランプ陣営も、トランプ自身も、上院指導部も、全ての組織も一丸になっている」

予備選でトランプに敗れたフロリダ州知事のロン・デサンティスとニッキー・ヘイリー元国連大使は、当初は参加しない予定だったが土壇場で党大会への参加を決めた。一方、反トランプを崩さないエーサ・ハッチンソン前アーカンソー州知事は、支持率の低さをトランプからジョークのネタにされてきた。

ハッチンソンは16日の朝、党大会会場のセキュリティーエリア内を所在なく歩いていた。「彼(トランプ)は間違いなく強さとレジリエンスを示し、今ではアメリカが団結する必要性を反映した口調になっている。そこは称賛する。共和党が提供するものと民主党が提供するものを比べたら、私は共和党を支持する」


党大会初日の会場で、トランプ支持者として知られるラッパーのフォージアト・ブローが、銃撃直後にこぶしを振り上げるトランプの姿をデザインしたTシャツを着ていた。大きな文字でこう書かれている。「弾劾され、逮捕され、有罪になり、銃撃された。それでも立ち上がる」

暗殺未遂のニュースに、ブローはまず何を思ったのか。怒りか、それとも懸念だろうか。

「いや。選挙は終わった。そう言ったんだ」

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