共和党大会の3日目のスピーチの後、手を挙げて聴衆に応えるバンスと妻のウーシャ(バンスの後ろ)(7月17日、ウィスコンシン州ミルウォーキー) REUTERS/Mike Segar
<保守派でMAGAの体現者と思われた副大統領候補バンスの妻がインド系であること、子供の名前もインド名であることなどを、一部のMAGAは我慢ができないようだ。彼らは「白人のアメリカ」の復活を目指しているのだから>
米共和党の大統領候補ドナルド・トランプ前大統領がオハイオ州選出のJ・D・バンス上院議員を副大統領候補に選ぶと、極右とMAGA(Make America Great Again「アメリカを再び偉大な国に」)の推進者たちがたちまちバンスの妻にネットで誹謗中傷の限りを尽くし始めた。
バンスの妻、ウーシャ・バンスはインド系移民2世。サンディエゴ育ちで、夫とはエール大学法科大学院在学中に出会った。ニューヨーク・タイムズによれば、2人は2014年に結婚。後日、結婚式とは別の儀式で、ヒンドゥー教の導師にも祝福を受けたという。
7月15日の共和党全国大会の開幕直後に、トランプがバンスの起用を発表すると、極右は差別意識をむきだしにしてウーシャ叩きを開始した。インド系の血を引くウーシャは夫を説得して、共和党の移民規制政策を骨抜きにしかねない、というのだ。
極右活動家で学生組織「アメリカ・ファースト・ステューデンツ」の創設者であるジェーデン・マクニールはX(旧ツイッター)で生まれたばかりのわが子を抱くバンス夫妻の写真をシェアし、「この男が最悪の移民政策を打ち出すのは時間の問題だ」と投稿した。
1000万人のインド人が押し寄せる?
ラッパーのカニエ・ウェストと共に2022年11月にトランプのフロリダ州の別荘・マールアラーゴを訪れ、トランプと歓談した白人至上主義者のニック・フエンテスはポッドキャストの番組で、白人労働者階級の出身なのにインド系女性を妻にしたバンスの立ち位置に疑問を突きつけた。
「この男は一体何者なんだ」
バンス夫妻の3人の子供の1人は、共和党の予備選でトランプと戦ったインド系起業家のビベック・ラマスワミと同じ名前。フエンテスはそのことまで問題にし、「この男は本当に白人の代表と言えるのか」と、リスナーに問いかけた。
2021年1月6日の連邦議会襲撃に加わったトランプの熱狂的支持者、ビンセント・ジェームズ・フォックスが問題にしたのは、共和党大会初日の閉会の挨拶で、党幹部のインド系女性が演壇に立ち、ヒンドゥー教の祈りを捧げたことだ。
「J・D・バンスが副大統領候補になったとたんに、党大会でヒンドゥーの祈りが流れた」と、フォックスはXで嘆いた。「次は、バンスが(インド系の)マイク・リー上院議員とつるんで、1000万人のインド系移民を受け入れるようトランプを説得するだろう。外交ルートで永住権が手に入るというわけだ!」
保守派のコメンテーター、ステュー・ピーターズはバンスの子供たちに関する記事のスクリーンショットをシェアし、「今のアメリカでは、われわれの眼前でインド系のクーデターが起きている」と述べ、インド系の台頭に対する白人の不安をあおった。
ウーシャ叩きに走っているのは極右だけではない。サイラ・ラオは進歩派の活動家で、下院選の民主党予備選に出馬したこともあるインド系の女性弁護士だが、Xに次のような投稿をした。
「ウーシャ・バンス! 白人至上主義に媚びを売るインド系アメリカ人女性がまた1人現れた。誰が白人女性など必要とするものか、茶色い肌の女性がいくらでも待っているのだから」
一方で、MAGA派の中にもウーシャの味方はいる。フロリダ州選出のアナ・パウリナ・ルナ下院議員はXでウーシャの経歴を紹介。副大統領夫人にふさわしい「とても素晴らしい」女性だとたたえた。
「3人の子を持つ母親で、エール大学法科大学院でJ・Dと会い、エール大学とケンブリッジ大学の学位を取得し、企業の訴訟を手がけ、最高裁判事の事務官を務めた経験もある」
夫のJ・D・バンスもベストセラーとなった回想録『ヒルビリー・エレジー』で、自分はもともとカッとなりやすい人間で、妻のおかげで冷静さを保てるようになったと告白している。
「自分では怒りの爆発を遅らせるのが精一杯だ。爆発を止めるには、信管を抜くような熟練と正確さが必要だ」と、バンスは書く。「私自身が感情のコントロール法を学んだだけでなく、ウーシャが私の制御法を学んでくれたんだ」
ウーシャ・バンス
Usha Vance praises her husband, JD, at the Republican National Convention/Sky News Australia鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。