7月16日、金融市場では主要先進国の巨額債務が再び不安の種になりつつある。写真は5月、イタリアで開かれた主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で集合写真に収まる参加者(2024年 ロイター/Massimo Pinca)

金融市場では主要先進国の巨額債務が再び不安の種になりつつある。選挙の年で財政見通しが悪化していることが背景だ。

フランスでは予想外の解散総選挙と大規模な歳出計画を受けて国債市場に警戒感が広がっている。米国でも11月の大統領選を控え債務動向に関心が集まる。

債務危機の発生は基本シナリオではないが、投資家は財政が緩み市場を圧迫するリスクを警戒している。

チューリッヒ保険グループのチーフ・マーケット・ストラテジスト、ガイ・ミラー氏は「財政赤字に再び注目が集まっている。特に欧州では債務だけでなく、成長にどう弾みをつけるかにも、もっと注意を向ける必要がある」と述べた。


 

(1)フランス

フランスの財政悪化に目をつぶっていた投資家は、予想外の解散総選挙で突然たたき起こされた形となった。昨年の財政赤字は国内総生産(GDP)比5.5%で、欧州連合(EU)の是正措置に直面している。

フランス国債の対ドイツ国債スプレッドは先月、下院選で極右の支持が高まったことを受けて、2012年の債務危機以来の水準に拡大した。

最終的には左派連合が勝利し、宙づり議会となることで、左派連合の歳出計画が制限される可能性があるが、財政健全化が妨げられるリスクもある。

フランス会計検査院は15日、財政が悪化しており、同国経済が次のマクロショックに対して「危険なほど無防備だ」と警鐘を鳴らした。

カナダ・ライフ・アセット・マネジメントのファンドマネジャー、デービッド・アルノー氏は「(国債価格には)恒久的に財政プレミアムが上乗せされるだろう」と指摘した。

(2)米国

米国も決して安泰ではない。

米議会予算局(CBO)は公的債務が34年までにGDP比97%から122%に増えると予想。これは1994年以降の平均の2倍以上に相当する。

11月の大統領選でトランプ氏が勝利するとの見方が強まっており、財政赤字拡大とインフレに対する懸念を背景にこのところ米国債利回りは上昇している。

一部の投資家は、トランプ氏が大統領選で勝利し、共和党が上下両院を制することが債券市場にとって最悪のシナリオだと指摘。

リーガル&ジェネラル・アセット・マネジメントのマクロ戦略責任者クリス・ジェフェリー氏はこのシナリオについて「財政赤字は現在GDP比6%で、そこからさらに新たな財政刺激策が打ち出される可能性がある」と述べた。

米国債は安全資産として魅力が緩衝材になっているが、長短金利差は1月以来の高水準付近で推移しており、長期債に圧力がかかっていることを示唆している。

(3)イタリア

投資家はイタリアのメローニ首相が市場に優しいと評価している。だが、昨年の財政赤字はGDP比7.4%とEU加盟国で最大だった。このため、同国もEUの是正措置に直面しており、今後、市場の楽観論が試されることになる。

イタリア国債は他の高債務国の国債をアウトパフォームしている。ただ、フランス国債が売られた6月には一時、利回りが4カ月ぶりの高水準に上昇。不安が急速に拡散するリスクを浮き彫りにした。

今年は財政赤字のGDP比を4.3%に引き下げる目標を掲げているが、このところ財政目標は未達に終わっている。

同国では20年以降、2000億ユーロ以上のコストがかかる住宅改修工事の奨励策が導入されており、今後何年も債務に増大圧力がかかる。欧州委員会は公的債務が現在のGDP比137%から34年には168%まで上昇すると予測している。

ユニオン・インベストメントの債券・為替責任者、クリスチャン・コプフ氏は「イタリアではリスクに見合ったリターンが得られない」と語った。


 

(4)英国

英国は22年に当時の保守党政権が財源の裏付けのない減税を発表し、国債とポンドが急落。市場への介入と政策の転換を迫られた。

先の総選挙で誕生した労働党政権は緊縮財政を維持しながら経済成長を促すという公約を掲げており、公的債務がGDP比100%近くに達する中、課題に直面している。

英予算責任局(OBR)は昨年、公的債務が2070年代までにGDP比で300%を突破する可能性があると分析。財政リスクとして高齢化、気候変動、地政学的緊張を挙げた。

S&Pグローバルは債務の安定では経済成長の拡大が鍵を握ると指摘している。

(5)日本

日本の公的債務はGDP比で200%を超えており、先進国中最大だが、足元で懸念は浮上していない。

国債の大部分は国内で保有されており、ストレスの初期兆候が表れたからと言って国内の投資家が資金を引き揚げる可能性は低い。外国人の保有比率は約6.5%に過ぎない。

フィッチ・レーティングスは、日本の物価・金利上昇について、インフレで債務負担が軽減されるため、信用力にプラスになる可能性があるとの認識を示した。

ただ、懸念要因は残る。

政府は向こう10年間で利払い費が膨らみ、33年度には24兆8000億円(24年度は9兆8300億円)になると試算している。

このため、金融政策の正常化で国債利回りが突然跳ね上がることがないかは注目に値する。



[ロイター]


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