演説中に銃撃されて流血し、警護担当者らに支えられながら拳を突き上げるトランプ前米大統領(中央)=米東部ペンシルベニア州バトラーで2024年7月13日、AP

 米東部ペンシルベニア州バトラーで13日起きた共和党のドナルド・トランプ前米大統領(78)の銃撃事件は、11月の大統領選にも大きな影響を与えそうだ。

 トランプ氏は銃撃直後、すぐに退避させようとする警護担当者らを「ちょっと待て」と制止し、選挙集会に集まった支持者らに向けてこぶしを何度も突き上げた。非常事態でも取り乱さず、「暴力に屈しないリーダー」の姿をアピールした。

 ペンシルベニア州は大統領選の接戦州の一つで、トランプ氏と民主党のジョー・バイデン大統領(81)の双方が重視している。15日から中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーで開かれる共和党全国大会を前に、トランプ氏はてこ入れのために集会を開いていた。

 「私が大統領を退任した頃、米国史上で最も不法移民が少なかった。史上最悪の大統領(バイデン氏)が就任し、何が起きたかを見てほしい」。バイデン政権の「泣きどころ」とも言える国境管理の混乱を批判していた時、突然発砲音があり、トランプ氏は右耳を押さえ、身を伏せた。

 すぐに大統領警護隊(シークレットサービス)の担当者らが壇上に殺到してトランプ氏に覆いかぶさるように防護した。

襲撃された直後のトランプ前大統領=米東部ペンシルベニア州バトラーで13日、ロイター

 しかし、周囲の状況を確認後、数人の警護担当者に周囲を固められ、壇上から退避する際、トランプ氏は「待て、待て」と制止した。髪形や開襟シャツの首元には乱れがあったが、身なりに構わずに右手のこぶしを4回突き上げた。パニック状態で悲鳴を上げていた聴衆は、トランプ氏の姿を見て、歓声を上げた。

 広報担当者は「トランプ氏は大丈夫だ」と語っており、今後も選挙戦は継続するとみられる。

 トランプ氏が正式に候補指名を受ける予定だった共和党大会(15~18日)は、予定通りに実施されるかどうかは不明だ。ただ事件を乗り越えて出馬にこぎ着ければ、有権者へのアピール材料になる。

 一方、民主党にとっては、選挙に向けて対応が難しい面がある。21年1月にトランプ氏の支持者らが連邦議会を襲撃した後、民主党は「トランプ氏が政治的暴力をあおった」と批判してきた。しかし、トランプ氏が被害者になったことで、今後こうした批判をしづらくなった。

 再選を目指すジョー・バイデン大統領(81)が6月のトランプ氏との討論会で高齢による衰えへの不安を露呈し、出馬の是非を巡って党内が揺れる中、民主党の選挙戦略にまた一つ難題が増えた形だ。【ワシントン秋山信一】

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