みんな知っていた?── NATO創設75年の首脳会議の記念撮影で、バイデンに手招きするストルテンベルグ事務総長(7月10日、ワシントン) REUTERS/Yves Herman
<今や次の4年どころか大統領選までの4カ月も難しい状態と見る首脳もいて、各国首脳たちは一斉に「もしトラ」の再臨に身構えている>
7月9日にアメリカの首都ワシントンで開幕したNATO首脳会議。各国から集まった指導者たちは盛んに、ジョー・バイデン米大統領の再選は無理だろう、と懸念していた。NATO各国の首脳たちは、バイデンの認知機能が低下しているのを知っていた。会議で「よく知る相手」に会っても誰だかわからない時もあったという。
【動画】ジョージ・クルーニーも降りて、残る支持者はジル夫人だけ? こんなにあった老化の兆候
米調査会社ユーラシア・グループの代表を務める国際政治学者のイアン・ブレマー は9日、ニュース専門局MSNBCの番組に出演し、NATO加盟国の指導者たちから聞いた話を伝えた。
それによれば、首脳たちはバイデンが「あと4年職務を果たせる」とは考えていない。こうした見方は、イデオロギーに関係なく、右派から左派まであらゆる指導者に共通し、「彼らの間では以前からあった」懸念だと、ブレマーは語った。
その2週間近く前の6月27日、アメリカでは大統領選に向けた第1回テレビ討論会が行われ、共和党の指名を確実にしているドナルド・トランプ前大統領との論戦で、バイデンは世界に失態をさらした。ロイド・ドゲット下院議員を筆頭に、民主党内では81歳のバイデンは選挙戦から撤退し、別の指名候補を立てるべきだ、という声が上がっている。
悪名高いNATO嫌い
NATO創設75周年の節目に当たる今年の首脳会議はバイデンをホストに7月11日まで行われる。その舞台裏でバイデンの高齢不安説が渦巻いているのは皮肉な話だ。
「各国首脳はバイデンを嫌っているわけだはない」と、ブレマー は語った。「それどころか、とても心配しているのだ......もしもトランプが大統領選に勝ったらどうなるのかと」
ロシアのウクライナ侵攻やNATO、EUに関するトランプのこれまでの発言を考えれば、同盟国の首脳が不信感を募らせるのも当然だ。
トランプは7月15日から開催される共和党全国大会で、正式に大統領候補指名を受諾するとみられる。トランプとバイデンの支持率は伯仲しているが、世論調査分析サイトのファイブサーティーエイトによると、7月10日時点ではトランプが2.3ポイント差でわずかにリードしている。
トランプは以前からNATOが嫌いだったが、今年2月の選挙集会での発言はとりわけ衝撃的だった。トランプは自分が大統領になったら、軍事費を出し惜しみする同盟国にロシアが攻め入っても「アメリカは守らない」と断言したのだ。
そればかりか、「何でも好き勝手にやってくれと(ロシアを)けしかける」、とまで言った。ロシアのウクライナ侵攻が始まって2年近く経とうとする時期に、アメリカの次期大統領になるかもしれない人間がそんな発言をしたことに、同盟国は肝をつぶした。
NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長はトランプの発言に対し、NATO条約第5条には加盟国に対する攻撃はNATO全体に対する攻撃とみなすと明記されていると、記者会見で釘を刺した。
「今ワシントンを訪れている外国の指導者たちの圧倒的多数はバイデンの勝利を望んでいる」と、ブレマー は番組で語った。「ただ、今のところ首脳たちのほとんどがバイデンに勝ち目はないとみている」
首脳たちはブレマーに、バイデンが「同じ相手に同じエピソードを繰り返し語った」とか、「よく知る人に、まるで初対面のように挨拶した」と打ち明けたという。首脳たちの多くはこれまでさまざまな協議の場でバイデンと接触を重ねており、バイデンの知力の衰えを痛感しているようだ。
ブレマー によれば、首脳たちはバイデンが「あと4年の大統領職どころか、あと4カ月の選挙戦さえまともに戦えるかどうか」を危ぶんでいるという。「同盟国のよしみで、表立って口にしないだけだ」
アメリカ人以上に「もしトラ」を警戒
そうなると「もしトラ」への不安が膨らむ。「首脳会議ではもっぱらウクライナ支援について話し合っていると思うだろうが、アメリカを頼りにできなければ、NATOは深刻な事態に直面する」と、ブレマー は言う。NATOの最新の推定によれば、アメリカは2024年にNATOに自国のGDPの3.38%に当たる7550億ドルを拠出する予定だ。
ウクライナの惨状が人ごとではないロシア周辺の国々が加盟していることもあり、NATOはロシアの粘り勝ちを許すまいと、今回の首脳会議でウクライナへの支援強化を打ち出した。今の世界の政治状況では、欧州のNATO加盟国は「米大統領選の行方に、大半のアメリカ人よりもはるかに差し迫った危機感を抱いている」と、ブレマー は言う。「これは彼らにとっては掛け値なしに生きるか死ぬかの問題だ」
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。