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<未成年者の結婚が合法の州が今なお大多数を占める現実。未成年で結婚した人は法的にも弱い立場に置かれ、「白日の下で行われる」性的虐待とも指摘されている>

18未満での結婚、またはそれに準ずる状態と定義される「児童婚」は、アメリカの大半の州では今も合法とされている。未成年で結婚した人は法的に弱い立場に置かれ、虐待を受けるリスクがあることが問題になっている。

現在、婚姻できる年齢を例外なしに18歳以上と定めている州は全米で13州のみ。児童婚禁止の州法制定を求める支援団体アンチェインド・アト・ラスト(UAL)によると、2000~18年に結婚した未成年者は全米で約30万人に上るという。


未成年で結婚した人は貧困から脱出しにくく、肉体的・精神的虐待にさらされやすい上、虐待の被害者を保護する諸制度を利用しにくい。

現在45歳のジェン・ブラッドベリーは本誌の取材に応じ、16歳のときに父親の友人だった44歳の男性と結婚させられたと語った。相手は彼女が14歳のときから性的虐待をしていたという。

性的虐待に気付いた父親は、友人ではなく娘を責め、殺そうとした。そのため母親が彼女を自宅から逃がした。

その男は彼女の両親を経済的に援助する一方で、引き続き彼女の元を訪れ性的虐待を続けた。挙げ句に彼女は子宮外妊娠をすることに......。

母親はこうなった以上、娘をその男と結婚させるしかないと判断。彼女はそれに従わざるを得なかった。

「(州法で)認められているから、判事も止めず、役所の職員も何も言わず、誰も止めてくれなかった」

ブラッドベリーはその後何とか離婚にこぎ着け、今は自身の経験を生かして児童婚禁止法を広げる運動に加わっている。州議会の公聴会で証言を行い、コネティカット州とマサチューセッツ州で児童婚禁止法案の成立に貢献した。

だが道はまだ遠い。18年5月にデラウェア州が全米に先駆けて州法改正に踏み切るまで、児童婚を禁じた法律がある州は一つもなかった。その後いくつかの州が禁止したが、今でも大多数の州で児童婚が認められたままだ。

児童婚は多くの場合、「白日の下で行われる虐待を隠す」盾となると、女性支援団体「タヒリ・ジャスティス・センター」のケーシー・スウェッグマンは言う。

メーン州ポートランドに住む17歳のニアマ(左)は、家族の宗教的伝統に従い結婚することに AMY TOENSING/GETTY IMAGES

未成年者に婚姻を強いる理由はさまざまだ。妻となる女性を性的に支配しようとしたり、性的指向を「矯正」しようとしたり、本来なら法定強姦罪が適用される未成年者との性行為を合法化するため等々。

児童婚は宗教的背景や社会階層にかかわらず、あらゆるコミュニティーで見られると、スウェッグマンは言う。

過酷な家庭環境や支配的な親から逃れるために結婚を選ぶ未成年者もいる。多くの場合、それは「熱いフライパンから燃え盛る炎の中に飛び込む」選択になると、スウェッグマンは警告する。

こうした結婚は「ほぼ例外なしに」性的虐待につながる、というのだ。

「相手の弱さに気付いて、それに付け込む悪辣な大人は、結婚を隠れみのに1日24時間未成年者を性的に食い物にする」

"Some teenagers may view marriage as an escape from a home where there is addiction or unmet mental health needs, but they are 'often going from a frying pan to fire situation,'" Casey Swegman warned. Read more on the devastating impact of child marriage: https://t.co/pIG5DeLAcp

— Tahirih Justice Center (@tahirihjustice) May 29, 2024

逃げれば警察に連れ戻される

当然ながら未成年者の結婚は多くのリスクを伴う。18歳未満の既婚者は身体的・精神的にも、経済や法律面でも弱い立場に置かれると、ノースイースタン大学の家庭内暴力(DV)研究所のハイアット・ビアラト暫定所長は本誌に話した。

ビアラトによれば、18歳未満で結婚した人は、成人後に結婚した人に比べDVに遭う確率と貧困率が高い一方、高校を卒業できる確率は低く、成人後に安定した仕事に就きにくいことが調査で分かっているという。

「メンタルヘルスの問題を抱えるリスクもある。鬱や不安を抱える人が多く、自殺率も高い」

加えて薬物依存症や、癌、心臓病、糖尿病などのリスクもあるという。

未成年の既婚者は「法律の壁」にも直面することになる。18歳未満では既婚者であっても法的には大人とは見なされないため、行政などの支援を求めようにも、保護者の許可がなければ相手にされないことが多い。

配偶者の許可が得られず、教育や医療すら満足に受けられないケースもあると、スウェッグマンは言う。

虐待的な関係からの脱出を支援する制度があっても、未成年者の相談を受け付けていない機関が多い現状では、未成年の既婚者は「どこにも助けを求められない」とも、スウェッグマンは言う。

離婚しようとしても、未成年者は契約を結べないためアパートを借りるのも難しい。

さらに、各州の政府機関である児童保護サービス(CPS)にさえ門前払いを食らわされることもある。児童保護の法令で未成年者に婚姻を強いることを禁じているのはテキサス州のみ。他の州では既婚者というだけで未成年者であってもCPSの管轄外とされるのだ。

DV被害者のシェルターは、保護者のいない未成年者の入居を断ることが多いと、UALの創設者で代表のフレイディ・リースは言う。

強制的に結婚させられた相手から逃れるために家を出た未成年者は、行き場がなければ、警察に捕まって家に連れ戻される危険性もある。成人では「家出」は罪にならないが、未成年者であれば犯罪と見なされるからだ。

また警察に捕まったら、大人であれば弁護士に相談できるが、未成年者はそれもままならないと、リースは言う。未成年者との契約は無効と見なされるケースが多く、「そもそも未成年のクライアントの相談に応じる弁護士はまずいない」からだ。


リースはこうした状況を児童婚が生み出す「悪夢のような法律の罠」と呼ぶ。この罠にかかれば、虐待を受けていても離婚訴訟を起こせないし、身の危険を感じても加害者に接近禁止命令を出すよう裁判所に申し立てることもできない。

#DidYouKnow #ChildMarriage creates a nightmarish legal trap? Minors face overwhelming barriers if they try to escape a #ForcedMarriage. Marriage before 18 is recognized as a #HumanRights abuse that destroys almost every aspect of an American girl's life: https://t.co/5tBgcgthrk pic.twitter.com/0gts3GYDmd

— Unchained At Last (@UnchainedAtLast) July 9, 2023

ビアラトによると、ニューヨーク州などでは、未成年者が離婚を申し立てようとしても、法律行為をする資格がないため認められない。親など保護者の同意があれば認められる州もあるが、そもそも未成年者に結婚を強いたのが親である場合、同意が得られないかもしれない。

それでも、離婚したい未成年者が助けを得る方法はたくさんあると、スウェッグマンは語る。

タヒリ・ジャスティス・センターやUALは、法的なサポートや社会的なサポートを提供してくれるし、未成年者が自分の権利を知る助けになる。

まずは学校のカウンセラーや、友達の家(その親が助けになってくれる場合)から、こうした団体に電話をかけたり、匿名のメールを送ったりするといいと、スウェッグマンは語る。

24時間体制の電話相談も児童婚の問題についての知識を付けつつあり、相談者を適切な支援団体につないでくれるようになったという。「難しい状況だが、助けてくれる人は必ずいる」とスウェッグマンは言う。

州法改正を阻むハードル

一番いい解決策は、結婚できる年齢を18歳以上、つまりアメリカにおける成人年齢に引き上げることだと、子供の権利活動家らは言う。ただ、アメリカでは結婚は州の管轄であるため、最低結婚年齢の引き上げも州ごとに実現していく必要がある。

「州法を改正すれば済む問題だ」と、ブラッドベリーは言う。「何かに莫大な投資をする必要はない。多くの場合、『親の同意があれば(未成年者でも結婚できる)』という一文を削除するだけでいい」

未成年者に結婚を強要することは児童虐待に当たるという定めがあれば、CPSも介入しやすくなるはずだ。

テキサス州の州法にはこうした定めがあるため、親族でなくても、裁判所に保護命令を申し立てて、児童婚を阻止することができる。こうした州法の改正が全米で起きるように、連邦政府が奨励策を取るべきだとスウェッグマンは言う。

児童婚を支持するロビー団体は存在しないし、州法の改正が一般市民から批判されたケースもほとんどない。それなのに州法の改正が広がらないのは、2つの大きなハードルのせいだと、リースは指摘する。


第1に、州議会議員は、投票権のない未成年者に恩恵をもたらす事案を優先的に扱う習慣がない。自分たちが重要だと考える問題に対処した後で、ようやく取りかかるのだ。

この問題の認知度が低いことも足かせになっている。ほとんどのアメリカ人は、多くの州で児童婚が合法であることすら知らない。未成年者の結婚というと、16歳の男女が恋に落ちて結婚する「ロマンチックなもの」と考える議員も少なくない。

「児童婚にロマンチックな部分などひとかけらもない」とリースは言う。「これは人権侵害であり、未成年者が容易に抜け出すことのできない法的な罠だ」。リースの率いるUALは、30年までに全米50州で児童婚が禁止されることを目指している。

児童婚の禁止が進まないもう1つの理由は、児童婚が望まない妊娠の解決策とされてきたこと、そして一部の宗教団体が児童婚の禁止を望まないことだと、ビアラトは言う。

リベラルな活動で知られる米自由人権協会(ACLU)や米家族計画連盟も、児童婚を禁止する州法案に反対している。ACLUはNBCニュースで、結婚年齢を18歳以上に引き上げるカリフォルニア州法案は、「十分な理由もなく、結婚という基本的権利を不必要かつ不当に侵害するもの」だとの見解を示した。

米家族計画連盟カリフォルニア支部の広報担当者は昨年、「われわれはあらゆる虐待から若者を守ることを支持する」が、その保護は「未成年者の生殖に関する権利と、自らの健康と人生に最善の選択をする能力を妨げるべきではない」と、ロサンゼルス・タイムズ紙に語っている。

配偶者ビザという盲点

ワイオミング州の議会共和党は昨年、児童婚禁止法案は、「結婚の基本的な目的を否定するもの」だとして反対を表明した。「16歳以下でも妊娠・出産できる以上、生まれてくる子供のために結婚の道が開かれていなければならない」というのだ。

児童婚の根絶を目指す運動が「猛烈な勢いで広がる」一方で、一部の州が児童婚の拠点になる恐れがあると、ブラッドベリーは語る。

児童婚禁止法案が塩漬けになっている州もある。「コネティカット州議会は、法案を審議にかけることさえしなかった。だから私は下院議長の駐車場に陣取って抗議した」と、ブラッドベリーは振り返る。するとその日のうちに法案は採決にかけられ、全会一致で可決されたという。

移民制度との関係で、児童婚が悪用されるケースもある。アメリカの移民法では、配偶者ビザの申請者や受益者(配偶者)に年齢制限を設けていないため、未成年者が外国に住む「配偶者」のためにビザを申請したり、成人が外国に住む未成年の配偶者のビザを申請できるのだ。


ビアラトによると、米市民権・移民局(USCIS)は、07年からの10年間に、こうした配偶者ビザ申請を8686件受理しており、カップルの一方が未成年でも、配偶者ビザが発給されてきたという。71歳のアメリカ人が17歳の配偶者のビザを申請したケースもあるという。

USCISのガイドラインには児童婚に関する規定がない。だからこそ州のアクションが重要になると、リースは強調する。

「このままでは少女たちがこの種の人身売買の餌食になる恐れがある」と、リースは言う。「州はそのような事態を許すか、結婚年齢を18歳に引き上げる正しい措置を取るか選択を迫られている」

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