細谷雄一・慶応大教授(英国外交史)

 4日投開票された英国総選挙はスターマー党首率いる最大野党・労働党が勝利し、14年ぶりの政権交代を実現させた。前回2019年の総選挙で大勝した与党・保守党はなぜ転落したのか。「スターマーの英国」はどこへ向かうのか。細谷雄一・慶応大教授に聞いた。

 労働党の「大勝」というより、保守党の「歴史的大敗」と表現するのが適切だろう。14年間の長期政権による倦怠(けんたい)感のみならず、ジョンソン元首相がコロナ下にパーティーを開いていた問題や、スナク氏の側近らが選挙日を予想する賭けをしていた問題が国民の怒りを買い、保守党が根幹から信頼を失ったことが大きかった。また、2019年の前回選挙で穏健派の議員が多数引退するなどして、保守党がかつてないほど右傾化したことも、支持層を減らす要因となった。

 一方、労働党はスターマー党首が前回選以降、社会主義的な政策イメージを払拭(ふっしょく)して大幅に穏健化し、保守党のかつての中道的支持層を取り込んだ。著名なファラージ氏が率いる極右政党も大きなニュースになり、右派支持層はより過激な主張をするそちらに流れたとみられる。欧州で右派が躍進する中、英国は小選挙区制を導入しているため、極右や極左の台頭を防いだと言える。

 スナク氏は今回、保守党の支持率が低迷する中であえて任期途中の解散総選挙に踏み切った。景気が部分的に改善したことや、不法移民をルワンダに強制移送する計画で、支持率の逆転は可能だと考えていたのだろう。だが、途中で選挙賭博が発覚するなどし、歴史的な敗北となった。

 過去の労働党政権と比較すると、今回のスターマー政権は1997年に誕生したブレア政権と共通点が多い。だが、英国を取り巻く経済状況や国際情勢ははるかに悪化しており、新しい政策を打ち出しても、国民の不安を解消するのは簡単ではない。さらにブレア氏と比べると、スターマー氏は演説力が乏しく、カリスマ性に欠けるため、実直な政策実行で支持率を維持していく必要がある。

 外交においては今後、「欧州回帰」がみられるはずだ。秋の米大統領選でトランプ前大統領が当選すれば、ウクライナ支援を後退させる可能性もある。その場合、米国に代わって英国が欧州諸国と連携し、支援を継続する上で指導力を発揮するのではないだろうか。【聞き手・国本愛】

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