「李先生」と呼ばれている李穎(2022年12月、イタリアで) CRISTIANO CORVINOーREUTERS

<フォロワーを脅し、国外インフルエンサーに圧力。中国政府は、コスト度外視で反体制派つぶしを目指す>

「中国公安部は現在、私のフォロワー160万人を追跡調査している。個人を特定したら地元警察に通知し、召喚する」。李穎(リー・イン)は2月25日、X(旧ツイッター)の自身のアカウントで、こう中国語で警告した。

李のアカウント「李老师不是你老师」(李先生はあなたの先生ではない)は、主に中国本土で検閲され、遮断されたソーシャルメディアのコンテンツを共有している。2022年末頃に、中国全土で市民が白い紙を掲げて政府に抗議した「白紙革命」が起きた際に注目を集め、以来、Xで最もフォローされている政治アカウントの1つとなっている。

紧急通知
目前公安部正在我的160万追随者列表和评论区逐个排查关注我的人,一经确认身份就会通知地方警察打电话叫人喝茶,因此请所有身在国内的朋友阅读下列注意事项:
1.普通人:我建议所有感到害怕的人直接取关我,收藏我的一条推文或者以后搜索我的名字查阅当天新闻。...

— 李老师不是你老师 (@whyyoutouzhele) February 25, 2024

「私のフォロワーのリストを調べて個別に調査するという戦略はばかげていると思うが、これがここ数日間で分かった事実だった。彼らは最も初歩的な手法を使っている」と李は投稿。フォロワーに対し、このアカウントのフォローを解除し、安全を優先するよう求めた。

翌日、李は24時間でフォロワー20万人を失ったと明らかにした。

没错,我也觉得顺着我的关注者列表挨个去查很不可思议,但是近日以来发现情况属实,他们确实是在使用最原始的土办法。
信与不信都没关系,希望上述内容对你的安全有帮助。

— 李老师不是你老师 (@whyyoutouzhele) February 25, 2024

李のメッセージが示すように、中国当局は自国に関するネガティブな情報をコントロールするため、手間はかかるが威圧的な戦術を展開している。標的となったのは李だけではない。国営テレビの中国中央電視台(CCTV)の元ジャーナリスト、王志安(ワン・ジーアン)もXに同様の投稿をした。

听说境内在查关注我推特和YouTube的账号,做个提醒:

第一、其实现在无论是推特还是YouTube,都是算法推荐,不管你是不是关注我,只要你经常点开阅读或者观看,下次他们就会自动把我的帖子和视频推送给你。所以,无论是否订阅,都不影响内容的阅读和收看;...

— 王局志安 (@wangzhian8848) February 25, 2024

こうした警告が、中国語のXアカウントの間で波紋を広げている。中国の政治問題についてコメントしている複数のソーシャルメディアのインフルエンサーも、李の警告以降、XやYouTubeなどのフォロワー数が減少したと報告している。

中国当局は、李のようなインフルエンサーを人海戦術でターゲットにしている。取り締まりにかかるコストはほぼ度外視だ。

狙いは、個人が李のようなインフルエンサーと接触しないように威嚇することにある。また、警察を使って李のアカウントなどのフォローを解除するよう個人に求めることで、YouTubeをはじめとするプラットフォームで収入を得るため購読者数に依存しているインフルエンサーに経済的圧力をかけようとしている。

情報操作に年間数十億ドルを費やす中国政府

李は2月28日にYouTubeに投稿した動画で、自身のフォロワーに対する取り締まりによって、中国語を使うソーシャルメディアのコンテンツクリエーターに大きな影響が及んでいると述べた。彼らのフォロワーが、YouTubeチャンネルなどを購読することをますます恐れるようになっているからだ。

中国政府は過去5年間、プロパガンダやイデオロギー活動を強化してきた。報道によれば、政府は毎年、偽情報やプロパガンダのキャンペーンに数十億ドルを費やしている。

20年前の戦略とは異なり、より野心的で、国境を超えて影響力を拡大しようとしている。中国が国家機関を通じ、反政府的な個人や団体に対して居住地に関係なく嫌がらせをし、脅迫し、影響を与えようとしていることが米政府機関、議会公聴会、人権団体の資料で立証されている。

例えば、カナダの安全情報局(CSIS)は、同国の過去2回の総選挙に中国が介入したと主張している。スペインの人権団体セーフガード・ディフェンダーズは2022年の報告書で、中国が53カ国に少なくとも102カ所の「在外警察署」を設置していることを明らかにした。米司法省は、アメリカ国内で反体制派に対する嫌がらせや監視を行った中国人を相次いで起訴している。

中国政府によるこうした秘密裏の取り組みは、アメリカ、カナダ、ドイツやフランスといった民主主義諸国との関係をさらに悪化させている。

国内経済が低迷しても反体制派の取り締まりのコストは惜しまず

国内経済が低迷しているにもかかわらず、中国は抑圧と政治的検閲を優先し続けている。経済の問題は、中央と地方の政府支出に課題をもたらす。国務院(内閣に相当)は昨年3月、中央省庁の職員を5%削減すると発表した。同年の報道によれば、全国の地方政府が、政府予算の負担を懸念して請負業者を解約している。

地方政府の負債に新たなリスクがあるとも報じられている。これは、パンデミック下の「ゼロコロナ」政策が悪化させた長期的な問題だ。しかし中国政府は、きめ細かく的を絞った反体制派の取り締まりにかかるコストについては懸念していない。その成果が漠然としていても、だ。

Xでフォロワーの1割以上を失ったにもかかわらず、李は検閲されていない中国のコンテンツを望む人々のためにアカウントを運営し続けると誓った。

中国政府は無検閲の情報を求める個人を脅し、嫌がらせをしようとするかもしれない。だが、経済の減速と地政学的ジレンマの根本原因に対処しなければ、中国は近い将来、ソーシャルメディアと政治的弾圧にますます多くの資源を費やさなければならなくなるだろう。

From thediplomat.com

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